2002.6.30放送
海洋写真家・ボブ・タルボットさんを迎えて

 ボブさんの名前は今までにも何度となく、イルカやオルカの写真、ビデオで見かけてきました。そのタルボットさん、92年に発表した映像作品『タルボット〜ドルフィン&オルカ』が世界的なベスト・セラーとなったり、93年に公開され、大ヒットした映画『フリー・ウィリー』の野生部分の撮影を担当したことでも知られる方なんですが、そんなタルボットさんに、海洋ほ乳類の魅力や、海の環境保護活動のことなどをうかがう機会に恵まれたんです。

 このほど92年に発表した『タルボット〜ドルフィンズ&オルカス』という作品がDVD として発売されたタルボットさんなんですが、VHSと比べると、DVDの画質の美しさは比べ物にならないほどだとおっしゃっていました。また、このDVDバージョンには15分のメイキング・オブが含まれているそうで、6年に渡って撮影されたこの作品の、表には出ていないようなエピソードなども紹介されているそうです。

 さて、14才の時に、初めてカメラを手にダイビングした時、自分が大好きな海のためにできることはこれだ!と感じたというボブ・タルボットさんですが、なぜイルカやクジラたちをその被写体に選んだんでしょうか?
「理由は2つあるんだ。まず第一に体型に魅かれたんだ。それにほとんどの人はサメや魚よりイルカの方が海の生き物として親しみを持っているようだからね。僕自身はイルカが他の海洋生物より大切だとは思わないけど、人間にとっては親しみやすいんだろうね。イルカは高い知能を持っているからね。でも、個人的には知能が高い低いは関係ないと思っているんだ。知能の高さで生き物の価値を決めるのは、すごくおごった考え方だと思うし、人間をそんな風に判断しないわけだから、動物に対してもやっちゃいけないと思うんだ。」

 さて、そんなタルボットさんは、以前、この番組にも出演して下さったオルカ研究の権威、ポール・スポング博士の研究所があるハンソン島でツリー・ハウスに泊まったこともあるそうなんです。
「そう、1977年、初めて行った時、ポール・スポングさんのツリー・ハウスに泊めてもらったんだ。実は、オルカを見ようと、当てもなく友達と一緒に、カリフォルニアから北に向かって、サン・ホァン諸島に行ったんだ。でも、オルカは全然見当たらなくてどうしようかって思っていた時、そこで知り合ったフィルってヤツに、ジョンストン海峡にあるスポング博士の研究所のことを聞いたんだ。
それで、考え無しの、勢いだけの19才だった僕たちは、ボートで彷徨ったあげく、なんとかたどり着いてキャンプをしたってわけなんだよ。あの頃のポールは今ほど有名でもなかったからね。だから『ゲストの皆さんへ、ご自由にどうぞ』なんてメモがあったし、フィルもポールと知り合いだったらしく、『本当にいいのかな?』って聞いたら『もちろん』って言うし、管理人のような人も『ポールは今いないけど、気にせずどうぞ』って言うからそうさせてもらったのさ。19才の子供にとっては夢のような話だったよ。それにそのツリー・ハウスはその何年か後に燃えちゃったんだ。誰かがろうそくかなんかを倒しちゃったようなんだよね。幸運なことにポールの自宅とラボは大丈夫だったようなんだけど、島全体が燃えなかったことが不思議なくらいだよ。でも、本当にいいところだったんだ。それにやっと念願のオルカも見ることができたしね。ポールのところに行くとすごく面白いんだ。というのも、あそこにはハイドロフォンっていう水中マイクが色んなところに設置してあって、ポールはラボにいながらにして、オルカたちがどこに向かっているかを知ることができるし、方言を聞き取って、オルカたちを識別することもできるんだ。彼があそこでやっていることは本当にすごいよ。」

 人間にもいえることですが、名前を知ったり、その人物を知ることで、親しみがわき、その人が困っている時に、何かしてあげたい、守ってあげたいって思うものですが、タルボットさんがいい例をあげてくれました。
「何年か前に、ケイコをアイスランドに輸送する時、僕はオレゴン州のニューポートに行ったんだけど、最初にメキシコからニューポートにケイコを移す話を聞いた時、金銭的にもそんなこと不可能だって言ったんだ。でも600万ドル集めてやってのけた。そして今、ケイコはアイスランドに戻っている。一方その1週間後、僕はワシントン州の自然保護区で灰色クジラの漁を止めるよう運動していたんだ。クジラ漁反対のアメリカの自然保護区でだよ。で、その時感じたのは、なぜこれほどまでの努力と費用と時間を費やしてケイコを救おうとしている一方で、その1週間後にはアメリカ領内でクジラ漁を防ぐために運動しているんだろうってことなんだ。答えは君が言ったように、みんなケイコのことを個人として知っていたからなんだ。僕の仕事は少しでも人々が動物たちを個人として見ることができるようにすることだと思っているんだ。個人として尊重できれば、その種全体の保護に繋がるからね。我々が忘れてはいけないことは、我々とこの地球を共有する動物たちは、我々人間の為に存在するのではなく、みな人間と同じように、個人だということ。もしかしたら人間ほど利口ではないかもしれないし、時には人間ほど複雑な社会を形成することもないかもしれないけど・・・、とはいえ、中には人間以上に複雑な社会を持っているものもいるしね。いずれにしても、すべてリスペクトされるにあたいすると思うんだ。」

 ケイコを始め、シーワールドなど、ある程度、隔離されている状態の動物を撮影するのと違って、大自然の中で、野生のオルカたちを撮影するのは大変なんじゃないかと思うのですが、タルボットさんはこんな風におっしゃっていました。
「もちろん難しいよ。だから僕も撮るアングルとか、音楽をうまく使ったりして親しみやすくしているつもりなんだけど、やっぱりケイコのようにはいかないよ。だってケイコはみんなが知っている友だち、ウィリーだからね。僕もオレゴンでケイコに会った時、彼のちょっと変わった一面に触れることができたんだけど、彼はガラス越しにテレビを観るのが大好きで、中でもWWFレスリングが大好きだっていうヘンなヤツなんだよ。でもそうやって彼のことを知って大好きになるんだ。もちろん野生で出会ったクジラの中には、なんてヤツだって思うほどイヤなヤツもいるんだよ(笑い)。つまりどんな種でもいいヤツとあまりよくないヤツっていうのはいるもんなんだ。人間の飼育下におかれたオルカの中にも問題児はいるようだしね。もちろん捕らわれた環境下においては理解できなくもないけど、いずれにしてもその個性は本当に様々なんだよ。」

 さて、この番組では『フリー・ウィリー』に出演したケイコより以前に、スポング博士からコーキーというオルカのことを聞いていたんですが、実はタルボットさんもコーキーとは長い付き合いなんだそうです。
「元々コーキーはロサンゼルスのマリーンランドってところにいたんだけど、その頃、僕は赤ちゃんの誕生を撮影する為に雇われていたんだ。それでコーキーとはずいぶん一緒に過ごしたし、子供が生まれてからもしばらくは撮影をしたからコーキーのこともオーキーのこともかなりよく知ることができたんだ。その後、シーワールドがマリーンランドを買収してコーキーとオーキーをカップルで連れて行った時はかなり劇的な状況だったね。たぶん、コーキーは野生に戻すのに一番適しているといえるんじゃないかな。というのもコーキーの家族はわかっているからね。ただ、そこには別の問題があるんだ。というのも、特にバンクーバー島の南部に住むオルカたちが急激に死んでいるんだよ。原因はPCBや無謀な漁。オルカたちも最悪な状況下におかれているんだ。1994年に『フリーウィリー』を撮影して以来、1年に7%〜10%の割合で死んでいるんだ。最悪なんだよ。あの頃撮影したクジラの半分、最低でも40%は死んでいるんじゃないかな。だから、もちろんコーキーには一日も早く自由になって欲しいと思うけど、現時点では決して彼女にとっていい環境だとはいえないんだよ。今、まずやらなければならないことは、安全な環境を作ることなんだ。海洋汚染をできる限り止めること。クジラ問題をほったらかしにしないこと。実際にはアメリカも含めてクジラ漁の再開を押している国があるんだ。数が増える種もいるかもしれないけど、どの種も、元々の数に戻ることはあり得ないと思うんだよね。
 自然の循環からどんな動物を抜いたとしても、必ず影響は出るものなんだよ。そんな中でクジラがほとんどいなくなったらどうなるかなんてわからないし、それはサメや他の生き物にしたって同じなんだ。すべてパズルの大切なピースなんだよ。例えば、環境的な視野をもってアメリカをみると、牛の生産はクジラに勝るほど環境に悪影響を与えているけど、だからといってクジラ問題を無視していいことにはならない。すべてに注意を払わなければならないんだよ。アメリカ人はクジラ漁について他国を非難するけど、環境を破壊するという意味では僕たちアメリカ人だって十分罪深いことをやっているんだ。つまりこれは世界的な問題なんだ。日本で起こっていることはアメリカにも影響があるだろうし、アメリカで起こっていることは、他のどの国より広い範囲で世界に影響を及ぼしていると思う。少なくとも汚染や資源を使い果たしているという意味では自分の持ち分以上のことをやっているからね。」

 さて、先日、下関でIWC 〜国際捕鯨委員会が行なわれ、クジラをとる/とらないということについて大変な論争が巻き起こったわけですが、タルボットさんの意見を聞いてみました。
「どの漁にも言えることだけど、今、問題なのは漁のやり方なんだ。流し網を使ったり、衛星を使ったりと、今の漁のやり方はそれぞれの種の再生能力をはるかに越えているんだ。我々の生き方は早くなりすぎているし、人口も増えすぎている。日本の人口が減ってきているって聞いたけど、ある意味、環境を改善する上では素晴らしいことだっていえるんじゃないかな。アメリカも見習うところがあると思うよ。アメリカの人口もかなり急激に増えていっているからね。いずれは自らを滅ぼすことになると思うよ。
 今、机の上に置いてある水を見て思ったことだけど、水資源だって限りあるものなんだ。恐竜の体を作ったり、エベレストの頂上の雪、そして我々の体を作っているのも同じ水なんだ。水をダメにしたら、もう取り返しはつかないんだよ。たぶん、将来、人は水資源のことで戦争をするんじゃないかな。本当に今我々は、手がつけられない状況なんだよ。例えば日本では、車はとてもコンパクトで経済的だけど、アメリカではたった一人でバカデカイ車を乗り回している。アメリカ人はその心地よさから離れられないでやりたいようにやっている。アメリカは自由を誇ってきたけど、いずれツケを払わなければならない時がくるんだ。
 去年の同時多発テロ事件以降、人々が考えを改めるかと期待したんだけど、落ち着いたら、すべてがまた元通りになっちゃって・・・。だから未来がどうなるか全くわからないよ。僕がアメリカをこれほどまでに例に出すのは、わかりやすいからなんだ。もちろん、クジラ漁は再開するべきではないと思うけど、決してアメリカ人だからといって偉そうに言うつもりはないんだ。だって、アメリカは世界一といっていいほど環境汚染に加担しているわけだからね。」

 ボブ・タルボットさんが撮る写真や映像では、イルカやクジラたちがまるでタルボットさんのためにポーズをとっているかのように写っているんですが、その秘訣を聞いてみました。
「まずは時間をかけていることかな。それから、例えば僕が水の中にいる時は、なるべく存在感を無くして、彼らの中に溶け込むようにして、時間をかけて一緒に泳ぐ。僕はダンスってよんでいるんだけど、お互いに見つめ合って、そのあと、僕の方が目を反らすと、相手もちょっと無視する。そして次に相手の方からちょっと近づいてくる、っていった感じで、まるでボディ・ランゲージのようなダンスを繰り広げるんだ。でもそんな時、ちょっとでも間違った方にキックしたりすると、イルカたちが反応して、その瞬間、最高のショットを台なしにしてしまうんだよ。
 あと、一番難しいのはトップサイドの写真、つまり、水面からクジラがあがってくるのをとらえる写真なんだ。通常は1秒間に24コマなのを、100から300コマ撮るという、かなりのスローモーションで撮るんだけど、クジラが上がってくる時間を計算してやらなきゃならないから、すごく難しいんだ。でも、一番の秘訣は相手をよく知ること。彼らのことを知った上で、自分が感じる彼らの最高の動きや表情をとらえることなんだ。僕は常に自分の作品を見ている人たちが、実際に撮影現場で見ているような、そんな気分を味わってもらいたいって思っているんだ。褒めてもらって本当に嬉しいけど、自然に撮れるくらい時間をかけるのが秘訣なんだ。」

 こうしてタルボットさんの作品では、イルカやクジラたちが本当にイキイキと写っているわけですが、一方では、サメなどのことを“プレデター”などとよんで、いかにも冷酷で恐ろしい生き物のようなタイトルがつけられている作品もあります。
「もちろん凶暴にもなれるけど、それはあくまでも生きるためにやっていることなんだよ。人間はどんな種に対してもキラー、殺人者なんていえた義理じゃないんだよ。だって人間は他の種だけじゃなく、本当に無残に、人間をも殺しているわけだからね。サメが人や他のものを襲うのは・・・ っていうか、現実的に考えて、サメは残酷になれるほど頭が良くない。そんな能力は持ち合わせていないんだよ(笑い)。彼らはあくまでも本能で生きているんだ。もちろんオルカやイルカの場合、話は別さ。彼らは非常に知的な生き物だからね。実は以前、オルカが赤ちゃんイルカを虐待して、食べるわけでもなく、ただ殺していたのを見たことがあるんだけど、それだって、若いオルカに狩りのトレーニングをさせているなど、ちゃんとした理由があるんだ。
 また、時には本当にただ残酷なのかもしれない。もちろん残酷という意味は人間の物差しで見た時って意味だけどね。我々が判断を下すには、あまりにも彼らのことを知らなさすぎるからなんともいえないと思うんだ。でも、少なくとも人間と比較して、人間より残酷で冷酷な生き物はいないと思うよ。人間って理解するのが難しいよね。ただ、みんなにはバカにされるんだけど、僕が思うに、人間の行動のほとんどは動物的本能によるものだと思うんだ。例えば、ある動物が体を膨らませて大きく見せている様を見ると、ポルシェに乗っている人を思い浮かべるんだよ(笑い)。同じに見えちゃうんだな。 ゲイリー・ラーソンが最高のマンガを書いているんだけど、色んな動物が交尾のために、色んな音を出している一方で、バーに座った男性が“ヘイ・ベイビー、ヘイ・ベイビー!”って言っているんだよ(笑い)。ちょっと違う視点でみると人間の行動ってすごく動物たちと似ているんだよね。でも人間は文明から離れれば離れるほどそういった本能を解明し、対処できなくなってしまうんだ。つまり、もし我々が自分たちの本能を認識し、他の動物たちとの境界線をとっぱらってしまえれば、己の行動をもっと理解し、対処できるようになるんじゃないかと思うんだよね。」

 さて、海が似合う季節。イルカたちと泳いだり、ホエール・ウォッチングを楽しむには最高の季節ですが、その際の注意点をタルボットさんに聞いてみました。

「一番大切なのは相手のことを第一に考えて、強引で嫌な訪問者にならないようにすることだね。相手が人間の場合と一緒だよ。ただ、野生の中で生き物たちを見るのは本当に素晴らしいことさ。よく言うんだけど、光もアングルもすべて最高な状況の中で撮り、最高の編集と最高の音楽を添えて作った映像も、野生のイルカと出会った瞬間には勝てないんだ。自分の目で見て、イルカの吐くブロウを肌で感じることに勝る映像なんて存在しないんだよ。野生の中で、自然の姿を見ることほど尊い経験はないんだよ。イルカやクジラを見られるところはいくつもあるし、日本でもけっこう見られるよね?だから海洋動物と過ごすのもいいし、ただシュノーケリングするのもいい。
 また、山でハイキングするのもいいしね・・・。面白いことに、僕たちは外に出るために、閉ざされたビルの中で一生懸命働いているけど、交通費さえ除けば、そこはタダなんだよね(笑い)。自然の中は本当に素晴らしいし、今は出かけるのにまさに最高の時期なんじゃないかな。」

 さて、タルボットさんが監督を務めているアイマックス作品『オーシャンメン』がここ日本でも公開が決定。映画『グラン・ブルー』の続きといってもよさそうなアイマックス作品、『オーシャンメン』では、誰よりも深い海の底を、一呼吸で目指す、2人のフリー・ダイビングのワールド・チャンピオンを追ったドキュメンタリー作品。人間ドラマを描くことができて、作っていてとても楽しかったとタルボットさんはおっしゃっていましたが、ちなみに、オープニングでは故ジャック・マイヨールさんも登場するということで、ぜひ、皆さんもご覧いただきたいと思います。

 タルボットさんが92年に発表して世界的なベスト・セラーになった『タルボット〜ドルフィンズ&オルカス』のDVDヴァージョンは、3,800円で、すでに6月25日から発売されているんですが、更に、DVDに加え、文字盤にイルカの写真をデザインしたスウォッチの腕時計付きセットも、本体価格、7,800円で発売中です。こちらの方は3,000セット限定商品なので、ぜひ、お早めにどうぞ。
 また、お話の最後に、タルボットさんご自身が紹介して下さったアイマックス映画『オーシャンメン』は、東京では、7月20日の海の日からメルシャン品川・アイマックス・シアターで2ヶ月間、上映されるので、ぜひ、ご覧下さい。

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