2002.10.6放送

コンサーベイショニスト、柴田敏隆先生の文化鳥類学


今週のゲストは柴田敏隆さんです。柴田さんは「コンサーベイショニスト」として活躍されており、また、日本自然保護協会の理事を務めていらっしゃる傍ら、最近では『カラスの早起き、スズメの寝坊〜文化鳥類学の面白さ』という本も執筆され話題になっています。今回はその本をベースに、柴田さんが提唱する文化鳥類学のこと、人と自然の関わりなど、様々なお話を伺いました。まずは、柴田さんの肩書きである「コンサーベイショニスト」についてから、お話は始まりました。

●早速なんですが、このコンサーベイショニストという肩書きは聞き馴染みがないんですが・・・。
「そうなんですね。日本で1番最初に僕が名乗ったものですから(笑)。英和の字引などを見ると、保全や保管など、博物館などで資料を保全するのをコンサベーションというんですけど、いま、国際的にザ・コンサベーションと定冠詞を付けたりして自然保護のことを言うんです。自然保護というのは非常に概念の幅が広く一木一草たりとも獲ってはいけないというのと、上手に使うんだったらいいじゃないというものもあるんですけど、このコンサベーションというのはアメリカあたりで発達した考え方で、自然を上手に使おうよ、だけど自然の摂理に即して使う、それから自然を荒廃させるような使い方はやめようよ、つまり、賢い使い方ですね、そういうことを専門的に携わる人達をコンサーベイショニストというんです。そのコンサーベイショニストと名乗っているのは、ナチュラリストだと、自然を愛し好むけれど守ろうとしない、だから、あの人達が帰ると自然が荒れていることがあるんですね。極端な話、エベレストはゴミだらけだし。私は自然を守ることを第一に考えているので、コンサーベイショニストを名乗っています。じゃ、それは何ですか、といわれたら「話のわかる、自然保護にプロフェッショナルに携わる者」と定義しています。それも趣味やボランティアでやるのは所詮アマチュアリズムの枠を抜けきれない、やるんだったらプロフェッショナルにやらなきゃダメだってことで。」

柴田敏隆さんの本●そんな柴田さんは『カラスの早起き、スズメの寝坊』というご本を出していらっしゃって、副題に「文化鳥類学の面白さ」というのがあるんですが、「文化人類学」は聞いたことありますが、この「文化鳥類学」というのはあまり聞き馴染みがないのですが。
「そうですね、これも僕が勝手に創った言葉で、文化人類学があるなら文化鳥類学もあってもいいんじゃないかという(笑)。鳥類学や鳥学という学問はきちんとあり、そこでは鳥に関する研究がおこなわれてきているんですが、例えばその学問の枠に入らない「コウノトリが運んでくる」っていうけど、なんでコウノトリなの?というようなことまで、意外にそういう疑問って多いんです。人間と鳥はよく似ているところがたくさんあって、目玉が2つ、足も2本あって、人間は機械を使いますが空も飛び、海も潜る、歌が好きで、朝明るくなると活動し夜暗くなると寝る、昼行性とかですね。でも、鳥は早起きだと皆さんお思いなんですが、鳥の中でも寝ぼすけがいて、例えば『早起きスズメがチュンチュンチュン』という歌がありますけど、実はスズメはものすごい寝ぼすけで、一番早いのはカラスで大体日の出の40分位前に活動を始めるのですが、スズメはなんと日の出5分位前に起きて来るくらい寝ぼすけなんですね。非常に面白いのは、この早起きのカラスが早寝早起きではなく寝るのは遅いんです。昔の勤勉な農民みたいに『あさに星をいただき、ゆうべに月をあおいで帰る』というような。で、その寝ぼすけなスズメは朝寝坊したから夜は遅くまで働くかといえばそんなことはなくて、夕方、日の沈む1時間位前にちゃんとねぐらに入ってしまう。人間にもそういうのがあるんじゃないかな、人間の行動と対比してみると、もちろん似てないところもたくさんあるけど、意外に似ている所も多い、それが僕の言いたい文化鳥類学なんです。」

●この、『カラスの早起き、スズメの寝坊』の中で、鳥と音楽という章もあって、これも興味深いですね。
「私は子供の頃に、父がカナリヤやジュウシマツなんかを飼っていて、それがさえずる時にレコードをかけるとさらに夢中になって鳴くんです。私もそんな記憶から試しにやってみたんですが、ある種の音楽になると明確に反応しますね。多分あんな夢中になって鳴くのは、『俺の縄張りを荒しに来た輩がいる、退去しなさい!』こういうような形で鳴いていると思うんですけど。で、音楽のメロディーなんかにも多分、関係があるんですね。アメリカにコーネル大学という鳥の音声コミュニケイションの研究で有名な大学があるんですが、そこでは録音したテープを聞かせると、ものすごい鳥が鳴くんですが、そのテープの回転数を下げていくと五線譜になるそうです。カッコウも短調で鳴いていて、現代の12音階にはかなり乗るんですね。
 また、オリヴィエ・メシアンという作曲家が日本に来た時に、軽井沢を日本野鳥の会の重鎮である平野さんという方とバードウオッチングならぬバードリスニングをしたんですが、ウグイスは『ホーホケキョ』でもこれは仏教の解釈で、クリスチャンは『おおー神様』、僕らみたいに宗教が関係ない人は『もうー起きろ』、夕方になると『もうー寝なさい』と聞こえる。こういうのを『聞きなし』というんですけど、例えばセンダイムシクイというウグイスの仲間は『チヨチヨジー』って鳴くんです。これを『焼酎一杯グイー』って聞く人がいるんです。それから、『千代の富士ー』って鳴いたとか、東京の郊外の奥多摩の方の言葉で『チカレタビー』(疲れたよ)、山小屋のおじいさんが、毎朝ワシを起こしにくる鳥がいるんだよ『じーや、じーや、起きー』って鳴くとか(笑)。ホオジロは有名で『一筆啓上仕り候』と、一番格式の高い鳴き声で、これは京都辺りかな、北海道では『札幌ラーメン、塩ラーメン』。コジュケイという中国から来た鳥は『チョットコイ、チョットコイ』、僕なんかは『カアちゃん怖い、カアちゃん怖い』と聞こえるんですけど。僕は横須賀なのでアメリカの人達がたくさんいるんですけど、あの人達には『ピーポーホエン、ピーポーホエン』に聞こえる。でも、どこの国もみんな同じ声に聞こえる鳥がいるんです。それはカッコウなんですが、あの鳴き声はみんな同じようにあのリズムで鳴いていますね。みんな、そういうリズムがいいんですね。だから鳥が言葉に反応して鳴くことは、十分あり得るんですね。

●この『カラスの早起き、スズメの寝坊』の最初の方に出てくる、アオバズク。実は先生の幼なじみということなんですけど・・・。
「はい。私が生まれ育った所が三浦半島の一角で自然豊かな所だったんです。そこにはフクロウの一種のアオバズクがいて『ポウーッ、ポウーッ』とかならず二回ずつ鳴くんです。それで、高尾山なんかに今ごろ行くと子供たちが鳥の声を録音したりしていて、僕が『ポウーッ、ポウーッ』とやると子供たちがマイクをこっちの方に向けて『10月なのにアオバズクがいる!』という騒ぎになったりして、そういう悪いことも出来るんですけど(笑)そのアオバズクは大きさはハトくらいの鳥なんですけど、とくにヒナがとっても可愛いんです。そういうのを目の当たりにしながら育ったもんですから、幼なじみでとても親近感を持っているんですね。たまたま鎌倉に住んでいる時、近くに妙本寺というお寺があり、そこで夜になるとアオバズクが鳴くので、私が近くで『ポウーッ、ポウーッ』とやったら、なんと飛んできたんです、そして鳴きながら5メートル近くまで近づいてきたんです。これで友好和親の情を交わした、仲良くなったとご機嫌だったんですが、よく考えてみると、それは2通りあって、一つは自分の縄張りの宣言ですね。もう一つは雌を呼ぶ合図ですね。僕の場合は誘いに来たのではなくて、「自分の縄張りで鳴くな!」と、怒りに来たんですね、きっと。その時は、アオバズクに申し訳ない事をしたなと。でも色々調べてみたら雌も鳴くんですね。もしかしたら僕の声が、艶のあるイイ声でそれに魅かれてきたのかなとも思いますけど(笑)。」

●実は、私もマンションのベランダの向かいに来るカラスに一時呼びかけていたことがあって、必ず返事が返ってくるんですよね。
「カラスはすごく賢いですから、多分、コミュニケーションを交わせると思います。その時に貢ぎ物を差し上げたりすると、だんだん慣れてきて、そのうち家の中にも入ってきて『今夜のおかずは何ー?』なんてね(笑)。」

●ちょっと、入ってくるのは大きすぎる・・・(笑)。
「上手にコミュニケーションを交わしたら、実にかわいらしい動物ですよ。恐らく鳥の中では一番頭がいいんじゃないかな。」

●よくカラスは「アホー、アホー」と聞こえることがあって、自分がそういう気持ちの時は余計にそう聞こえて、勝手に怒ったりすることもあるんですけど(笑)・・・。
「カラスが農作物を害すると、行政は猟友会の方とかにお願いして撃ちに行くんですけど、最初に一発パーンとやると、1羽くらい犠牲者が出るんです。でもすぐに、散弾銃というのは有効射程距離は200メートル位なので、カラスはその200メートル位離れて、そこで鳴くんですね。そこで猟友会の人達は困って、ブラインドというんですが隠れ家を作って待ち構えるんです。しかしカラスはちゃんと人が中にいることを分かっているんですね。それから次は、2人入って1人出る、そうすると0人になるという作戦になるんですが、カラスは6つまで勘定できるんです。それをカラス勘定というんですけど(笑)。だから7人入って6人出ると、カラス勘定では0人になるかもしれないのに、ほとんどの方はそのことをお気づきにならないから、何回やっても失敗するんですね。そういうときに限って『アホー、アホー』っと聞こえる(笑)。」

●それから、大都市の鳥、いわゆる都市鳥についても書かれていますね・・・。
「都市鳥、いわゆるカラス、スズメ、最近はヒヨドリなどもそうですね。日本のメガロポリスというのは西洋型なんですよ、高層ビルが並んでいて。西洋の人達は鳥を大事にするんです。かつては捕って食べていた歴史もありますけど。日本のメガロポリスが西洋型になってきているから、都会の鳥は都会人に恐れない。この前、新宿駅から都庁までバードウォッチングをしたんですけど、あんな所でも意外な所に意外な鳥の巣があったり、キジバトなんて、マンガだか皮肉だかわからないですけど、焼鳥屋の屋台の真上に住んでいたりして、そこでも安全なくらい(笑)、日本の都市文明というのは西洋型になってきているんですよ。」

●私が前々からすごく感じるのは、カラスは夜中でもずーっと鳴いていたり、ハンガーで巣を作ったり、そういうカラスを見ていると、人間・都会人の鏡がカラスになっていて、だからこそ、そのカラスを見るのがみんな嫌で排除したいって感じているのかなあって思っていたんですが。
「いろいろ、カラスを見るとネガティブな面がありありと出ちゃっているし、そういう意識を持たれた方がいるのはものすごくおぞましい事でもあります。僕から見ればそういう風にした原因は都会の人間にあるわけだから、カラスはかわいそうな犠牲者・・・。もともと賢いですから、どんどん都会の文化に適応していくんですね。一番すごいなと思ったのは、ツバメが銀行などの赤外線センサーの前で羽ばたくんです。そうするとドアが開いて、中に入り店内に巣を作る。店内は常時、人間がたくさんいるので非常に恐ろしい敵であるカラスやスズメが入ってこない。恐らくカラスもスズメも赤外線センサーを使うぐらいの知恵はもっているはずですけど、彼らがそれを使わないのは人間が怖いからなんです。ツバメはその点は、あまり鋭くないのかもしれないですけど。でも日本人は昔からツバメを大事にする慣習があるからいいですけど、スズメはそういうわけでもないのでウッカリ入ったら焼き鳥にされちゃうかもしれないですね(笑)。でも、そういう赤外線センサーを利用する知恵というのは大変な知恵なんですよ。」

●先生、お話は尽きないんですけれども、そろそろお時間となってしまいました。ぜひ、この続きはまた次回、伺いたいと思います。
「恐れ入ります。勝手な話を申しあげて・・・。」

●とんでもございません。楽しかったです。

カラスの早起き、スズメの寝坊〜文化鳥類学のおもしろさ
新潮社<新潮選書>/本体価格1,100円
 鳥たちの世界が面白くてしょうがなくなるという面白話が満載です。が、それだけではなく、鳥たちがおかれている環境を考えさせられる、そんな環境を作ってしまっている私たち人間の身勝手さやエゴについて考えさせられるような内容となっていて、特に「まえがき」では「文化鳥類学」という視点を通して、人と自然そのものの関わりまで見えてくるような、かなり深い内容となっているので、個人的には「まえがき」から読み始めて、本を読み終えた最後に、もう一度「まえがき」を読み直すと更に「文化鳥類学」の深さを感じられるのではないかと思います。

ツルはなぜ一本足で眠るのか(共著)
草思社/1,600円
 柴田先生は、1984年に出版され、現在もロングセラーとなっているこの本にも原稿を寄せていらっしゃるので、こちらもぜひ読んでみて下さい。
 また、柴田先生は、今度はヘビの本を出そうとしていらっしゃるそうで、出版が決まり次第、またお知らせしたいと思います。

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