2002.12.01放送

雑魚党・多田実さんをむかえて


 今週は、雑誌BE-PALなどに寄稿しているルポ・ライター「多田 実」さんをお迎えし、著作『境界線上の動物たち』をもとに、絶滅の危機にある野生動物の実体や人々との関わり、カヌーイスト&作家の「野田知佑」さんを党首とする「BE-PAL雑魚党」での活動、釣りだけではない川遊びの楽しさなどもお伺いしました。

●まず、多田さんのプロフィール的なところからお聞きしたいんですけど、動物好きなことから動物学者を志し、その後知床国立公園の伐採反対運動に関わり、そして報道記者になり、それから俳優や演出の職業に転じて・・・なんかドラスティックに方向転換しているというか・・・(笑)。
「はい(笑)そうですね。無名塾という所に憧れていたというか、役所広司さんに憧れて、受けちゃったら入っちゃったもんですから。そんないい加減な気持ちで目指したもんですから、すぐ「これは将来的に食っていける仕事ではない」ということは早々に思いまして。それでも7年間は在籍させてくれたのですけど」

●そんな多田さん、95年に『四万十川、歩いて下る』という本を出されていますけど、この本のキッカケは?
「その頃はまだ無名塾にいてブラブラしているときで、ゴールデンウィークに友達と最後の清流といわれる四万十川に行ってみたいなと思っていたんですけど、カヌーイストの野田知佑さんの『日本の川を旅する』というエッセイを読んで、それと同じような旅もしてみたいとも思っていたんですね。ところが、カヌーは持っていないし、やったこともなかったんです。でもキャンプ道具は持っていましたから、じゃあ歩いて下ろうと思いまして友達と2人でリュックサックを背負って四万十川に行ったんですけど、その土地の人達や色々な生き物との出会いは良かったんですが、肝心な川そのものは思った程きれいな川ではなかったんです。雨が降ると濁りがものすごく強くなるのですが、それが何日間も続いて、結局ゴールデンウィーク中ずっと“濁流四万十川”だったんですね。上流の森がちゃんとした状態であれば少しくらいの雨で川の水はそんなに濁りませんし、「これは何か起きているな」と直感的に感じたんですね。ちょうどその時に、いま妙なことで有名になってしまった『週刊金曜日』という雑誌が創刊された前後で、環境問題に感心があるんだったらやってみろ、という話がありまして」

●それがキッカケで、その連載を『四万十川、歩いて下る』という本に最終的にまとめたということですね。
「そうですね、築地書館というところから出させてもらったんですけど。最初は「川が濁っている」という現象から書いたんです。次に、川は山から流れて来るのでその源流となる不入山(いらずやま)の天辺に登ってみようと。そして登り始めて、頂上に近づいたら、いきなり熊と遭遇してしまったんです。不入山では「山頂は、熊に注意」となっていて、注意が山頂に限定されているんですよ。なんで山頂なのかなと思ったら、頂上付近だけブナなどの色々な原生林が残っていて、小鳥や蛇、カエルとかの熊の餌となる生き物がたくさんいるんです。四国の熊っていうのは絶滅寸前で、熊はそこでしか暮らせないんですよ。人工林の所では雨が降っても地面がむき出しになっていますから、保水力が無く水を蓄えることも出来ず、雨が降ると土砂が流されて土砂崩れが起きる現象が起きているんですね。その川が濁るメカニズムとか、あるいは必要のない農地造成のためにどんどん森や自然が切り開かれている状況、電力のためにいかに四万十川の水を奪っているかという問題など、そうした現実を取材していくと「これって、日本の縮図だな」と。日本が抱えている病理が凝縮されているのが、今の四万十川が病んでいる姿なんじゃないかなと。それが僕のデビュー作でもあるんですけど、四万十川から日本を見つめたといった感じの内容になっておりまして、非常にいいデビューをさせて頂いたと思っております」

●多田さんは98年にも『境界線上の動物たち』という本を出されていらっしゃるんですよね。これは雑誌「BE-PAL」に連載された記事をまとめたもので、全部で18種類の絶滅した動物や絶滅寸前の動物たちが登場するんですが、その中で架空の生き物といわれるような、河童とか、天狗、人魚とかも登場するですよね。その、人魚がジュゴンだっていうのはよく言われているじゃないですか。でも河童ってカワウソなんですか?
「そうも言われていますね、スッポンという説もありますけど。でもやっぱり円光という言葉があるんですけど、河童とカワウソの同義語であったんですね。一つの言葉で両方を指している。だからやっぱりカワウソが一番当てはまる動物なんじゃないかと思いますね」

●すごい疑問に思ったんですが、河童のステレオタイプって頭の上にお皿があって、口が尖っていてルックス的には違いますよね。
「少なくとも尖った口は違うんですが、実はカワウソが水面から顔を出すと頭の毛がつぶれておかっぱ頭になり、子供のような感じには見えたそうですよ」

●そうなんですか。それが一番の疑問だったんですけど(笑)。以前、野田さんから伺ったんですが、未だに河童の存在を信じていて、河童と相撲を取ったことがあるというおじいさんがいらしゃったという・・・。
「僕もそのおじいさんと飲んだんですが、その話になったときに、野田さんが「おじちゃん、子供の頃(河童と)相撲を取ったよね」って聞くと「ああ、取った」とごくごく普通に言うんですよ。そして「最近は、おらんようになったな」と(笑)。そのおじいさの中では、自分の生活のエリアの中に河童がいたという記憶が間違いなく存在しているんですね。僕たちにとっては、河童は伝説上の存在にしか過ぎないんですが、あくまでもそういう方がいるということが、すごく宝のように感じられましたね」

●心の穏やかさというか、そういうふうに思えたという、昔の豊かさなのかな・・・。
「豊かさというか、謙虚さだと思うんですよ。例えば“竜”は恐竜の化石が見つかった時に、まだ科学的にそれを解析する力が無かったということなんですが、“天狗”でよく言われるのはイヌワシで、漢字で書くと“狗”と書くんですよ。これは僕の想像なんですが、そのイヌワシは10キロくらいの獲物を運ぶ力があったそうなんですね。で、今でこそ絶滅寸前と言われていますが、昔はたくさんいて、畑仕事の時にその畑に置いていた乳飲み子を余裕で運べたんじゃないかなとも思うんですね。気が付いたときには子供が巨大な翼によって連れ去られていくようなシーンも、もしかしたらあったのかもしれないし、そのときに「天狗にさらわれていった」というふうに考えた方もいたのかもしれませんよ。イヌワシが飛ぶ姿というのは、衣を広げた天狗が羽うちわを持っている姿に非常にそっくりなんですよ。翼の先がそり上がって次列風切羽の形をしていて袴型の大きい羽があって、翼を広げて高いところを飛んでいると本当に天狗様が飛んでいるような姿を連想させてくれます。そういう想像力の豊かさもありますけど、今、本当にイヌワシに子供がさらわれたら大変なことになってしまいますが、ただ、自分の子供をさらっていく生き物がいる世界に自分たちも生きている、自分たちで命を支え合う世界に生きている、というような謙虚さを、昔の人達は感じていたのかなと思うんですけど」

●多田さんは野田知佑さんを党首とした、雑誌「BE-PAL」雑魚党のメンバーとしても活動をされているんですよね。
「今、釣りというと、ブラックバスとか、渓流ではヤマメ、鮎、そしてヘラブナとか、そういった一部の魚だけをメインにして、他の魚はどうでもいいという釣りの姿が目立ってきていまして、実は自然の中には本当に商売の対象にはならないかもしれないけど、自分たちの小さい頃の遊び相手をしてくれた魚で、それこそクチボソだったり、あるいはメダカだったりドジョウだったりという雑魚と呼ばれる魚もたくさんいるんですよ。そういった雑魚と呼ばれる魚の存在が、今非常に軽んじられていると思うんです。生き物というのは、色々な生き物がいてそれで自然界が形成されているのであって、そこでもう一度、金儲けにならない雑魚も含めた魚達と遊ぶ楽しさを再発見していこうよ、ということをいったことから同士が集まって、そのBE-PALという雑誌で『月刊雑魚釣りニュース』という誌内新聞というようなものを始めたら人気連載になってしまったんですね(笑)」

●その連載、面白いんですよね。雑魚党の心得というのが5つあるんですよね。
「はい。雑魚党心得 一、1寸の雑魚にも五分の魂。魚、大きいが故に尊からず。 二、天は魚の上に魚を造らず。魚の下に魚を造らず。 三、ヘタな飼育は殺生に劣る。意味ある殺生は放生(リリース)に勝る。 四、釣りバカになっても、バカ釣り師にはなるな。 五、「どうでっか」「ぼちぼちでんな」。笑顔と挨拶は雑魚党の礼儀。 
という5つの雑魚党心得になっております」

●釣りバカになっても、バカ釣り師にはなるなって、いいですね(笑)。でもこの5つを見ただけで、雑魚党の人達はこういうことをやっている人達で、こういうことを考えて遊んでいる人達なんだってわかりますよね。
「そうですね、釣りバカが集まって、本当にバカな内容を繰り広げていて、こんなのでいいのかなという感じなんですが、一本、筋を通して遊んでいるもんですから、そんな姿勢が受けてですね、非常に人気になっていますね」

●この『雑魚釣りニュース』の中で、イベントの様子が書かれていたんですけど、大人も子供も一緒になって楽しめ、子供連れの親御さんが子供と川の中にじゃぶじゃぶ入って、もしかしたら子供よりも元気に遊んでいるんじゃないかというような模様が紹介されていたり、魚を捕まえたらどうするの?っていうところでは「名前を覚えろ、そして、ちゃんと食べろ」っていう(笑)。なるほどなって思いました。
「雑魚釣りと言いつつも、雑魚という名前の魚はいないわけで、全ての魚に名前がついていて、魚なりの生態があって、料理法があって、文化があって、そういうことを再認識する場にもなっているんですね。釣りだけでなく網を持ったり、今は禁止されているところもあるんですけど、銛(もり)で突いたりした時の楽しさとかも紹介して、僕も3歳くらいの時に父親に川に連れていってもらった時の泥や水草にまみれて雑魚が動いているのを見たときの感激が原体験になっているもんですから、例えばメダカを捕まえた時の感動があれば、雑魚達を自分たちが釣りたいブラックバスの餌としてとしか考えられないような子供にはならないのではないかなと思います。仮になったとしても、これはどっかで違うんじゃないかなと、気付いてくれるんじゃないかなと思いますね」

●多田さんは雑魚党の党員として、雑魚の中で注目しているというか、気になる雑魚というのはいるんですか。
「注目すべき魚はたくさんいるんですが、個人的にはキンブナという魚ですね。これは関東地方から北にしかいない魚なんですが、フナにもキンブナ、ギンブナ、ヘラブナと大きく分けると3種類いるんですが、キンブナは実はフナ釣りの際には金太郎と呼ばれてバカにされていた魚なんです。真ブナと呼ばれているのはギンブナのことで、キンブナというのは大きくなっても15センチくらいかな。これが実は絶滅危惧種になろうとしているんです。メダカが絶滅危惧種になったことが話題になりましたが、実はフナもそうなろうとしている・・・」

●金太郎君も危ない・・・?
「はい、これもフナの中では全く雑魚扱いされていて、研究者に「キンブナがいないんだけど、何でレッドデータブックに載らなかったの?」って言ったらですね、「盲点だった」って(笑)」

●研究者も盲点だったと・・・。それくらい可愛そうなフナ達・・・。
「雑魚というのがどれだけ認識されていないかということが分かりますよね。そこで『雑魚釣りニュース』の中でもキンブナを取り上げたんですけど」

●雑魚党の中でも、冬に川遊びというのも寒いっていう感じがするんですが、これから冬、雑魚党としてはどういう遊びを?
「それが実は、頭の痛いところなんですよ。冬になると雑魚党ニュースのネタが無くなるもんですから(笑)」

●(笑)
「その対策として、ビオトープってありますよね。学校なんかでも造られていますけど。そこは遊ぶことが出来ずに一種のサンクチュアリとなっている場合が多いんですね。なので、そこでも釣りをして遊べるような環境だったらいいんじゃないかと、いうことを専門家に話してみたら、結局、ビオトープというのは、そこに生き物がいる場所ではなくて、生き物と人間が共に暮らすことが出来る一種の社会システムなんだと。だからビオトープで魚釣りをして、有料でお金を取るというシステムがあっても、それは全然ビオトープのルールから外れたものではないし、オッケーですよというようなことを聞いたものですから、「よし、雑魚釣りが出来るビオトープを造ろう!」ということで、いま栃木県の栃木市内にある柏原フィッシングパークという所に、雑魚釣り堀というのを全国で初めて造成中でございまして、これからもまだ色々なことを勉強しないといけないんですが・・・」

●今後も『雑魚釣りニュース』にそのプロセスが載ることになるんですね。
「そうですね。でも雑魚釣り堀が完成する前に『雑魚釣りニュース』が無くなるんじゃないかとも心配されているんですが(笑)」

●(笑)。たとえ、『雑魚釣りニュース』がなくなったとしても、雑魚釣り堀が出来た際は、ザ・フリントストーン、ぜひ、お邪魔をして「こんなのが出来たよ」とラジオでの『雑魚釣りニュース』をお届けできればと思います。その時は楽しみにしております。今日は本当にありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました」

*多田 実さん著書紹介

『四万十川、歩いて下る』
築地書館/本体価格1,800円
 処女作で「週刊金曜日」に連載していたルポをまとめ、加筆・訂正した本。タイトル通り、最後の清流といわれる四国の大河「四万十川」の源流から河口までを歩いて取材したもので、四万十川を通して、日本という国が構造的に抱えている問題を浮き彫りにし、改めて公共事業や行政のありかたを考えさせられます。
『境界線上の動物たち〜生きていた!生きている?』
小学館/本体価格1,400円
 雑誌BE-PALに連載していた記事をまとめた本。副題にあるように、絶滅した、あるいは、絶滅の危機にある18種の生き物について書いたこの本は、現地を訪れ、丹念に取材を重ねて出来上がった18編のルポルタージュです。

*BE-PAL雑魚党
 多田 実さんも参加する「BE-PAL雑魚党」は、出前オーケーだということです。皆さんもぜひ、あなたの町に「雑魚党」のメンバーたちを川遊びの講師として迎えてみてはいかがでしょうか。来年春、水ぬるむころがいいかもしれませんね。詳しくは、雑誌BE-PAL内の「月刊雑魚釣りニュース」をご覧ください。

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