2002.12.22放送

カヌーイスト・野田知佑さんの"少年よ大志を抱け"

 今週は、アウトドア派に絶大な人気を誇るカヌーイスト、そして作家の野田知佑さんをお迎えし、徳島県・日和佐での暮らしほか、カヌー犬として有名となり、今でも多くのファンがいる5年前に天国に召された愛犬ガクの想い出や、楽しいカヌーと出会った青年時代のヨーロッパひとり旅のことなどうかがいました。野田さんに憧れる人は必見です!

●野田さん、徳島の日和佐に引っ越しをされてどのくらいに?
「もう、3年目ですね」

●日和佐の生活はどうですか?
「思ったよりも面白いところですよ。毎日、家の周りに鹿とかイノシシが出てきてね、今朝も散歩していたらイノシシの子供3匹が出てきて僕の前を走っていました。そういうところです」

●走り回っているんですか(笑)?
「ええ、崖から落ちて道を走るんですね、すぐまた崖の中に隠れてしまうんですが」

●のどかって言えばのどかですけど・・・。
「いま、全国的な現象なんですけどね、山の奥の方は荒れてしまって食べる餌が無いんでしょう、だから鹿とイノシシは各地に出ていますね。なので畑がほとんど全滅していますよ。本当は山の中に彼らの餌場を作らなきゃいけないんだけど、手入れをしないし杉桧だけですからね、餌が無いんですね、だから下りてくる。一見、のどかな風景ですが、例えば車で走っていると、いきなり鹿が出てきて動かないし、どんなに網を張っても畑の野菜を食べてしまう、あと、猿がひどいですね。だから僕の周辺は、8割〜9割くらい被害を受けています」

●猿って、勝手に家の中に入れちゃいそうですもんね。
「そうです、網を仕掛けても手で除けて入ってくるんですよ」

●とても、「ほのぼのしているね」なんて言っていられない・・・。
「そうね、ただ田舎の人達はちょっと絶望している感じで諦めて、動物には寛大ですね。あの動物達にも生活があるからって感じで」

●それでも、餌場を作るとかそういうような対策は・・・?
「それは政府がやらなきゃいけないんだけどね。民間の力では出来ないですよ。山全体の問題ですから、お金がかかりすぎる」

●やはり、諦めるしかない・・・。
「そうですね、幸い、年金暮らしのお年寄りが多いから、それがすぐ餓死に繋がるということではないのでね。今、日本中の問題でしょう」

●そんな日和佐に暮らして3年経つということで、一日ってどんな感じなんですか?
「朝5時に起きて散歩して、それから暖かい時には魚釣りに行って、あと本を読んだり、ビデオを見たり、それで一日つぶれますね。そして夜は酒飲んで寝ると・・・」

●(笑)。どうですか、たまに東京とかに出てくると?
「そうね、いいですね、電気がたくさん付いてて明るくて(笑)」

●でも、野田さんは日の出とともに起きるというイメージがありますけど、こっちは一日中明るいから、寝にくいかと・・・。
「そんなヤワな神経じゃないですよ」

●(笑)。
「いや、東京も好きなんでね、楽しんでます。東京の人は、うんと勉強をしていますから、話が面白いんですよ。田舎の人は言い方悪いけど、勉強をしないから何十年も同じ話ばっかりしかしないんでね、それも面白いって言えば面白いけど、ちょっと退屈するところがありますね」

●東京に住んでいると、なんかぶつかっても謝らなかったり、目が合うとすぐ目をそらしたり、ギスギスしているというか・・・。
「東京と田舎の良いところだけとって生きればいいわけで、悪いところに目を向けてもしょうがないんで」

●そんな野田さんは世界中を回っていらっしゃいますけど、人間の面白みということでは、どこが印象に残っていらっしゃいますか?
「それぞれの国が面白いんですが、気に入ったのがカナダ・アラスカの連中ですね。人口密度が100キロ四方に3人くらいで、そういうところで生きている人達は、非常におおらかでタフで、よく勉強をしているし、退屈しないですね、あの人達と話すと」

●野田さんの古ーいお話になるんですが、放浪をずっとなさっていて、その頃日本だと若者が何かをしようとすると、大人がダメ出しをしたり「考えが甘い」と言われたりしたのが、野田さんがヨーロッパとかに行かれたときは、そういう自分の生き方を認めてくれる大人が多かったって・・・。
「そうね、やっぱり本当の大人がたくさんいる国というのは良いですね。若い人を見て「俺も若いころはそうだった」といえるような経験を踏んでいる人達が多いんでね、非常に人生の体験の幅が広いんですよ。そういう大人がたくさんいる国というのは面白いですね」

●日本は、大人になりきれていない大人が多いっていう・・・?
「そういう意味じゃなくてね、やっぱり日本は、どうしても学校を卒業したらすぐ就職をしなければいけないとプレッシャーをかけられる、すぐに企業に入らなければいけない、そう思っている人が大半ですから、そういう人達って物の見方が狭いですよね。僕たちは20代はヒッチハイクをして暮らしていましたけど、「人に乗せてもらうとは何事だ」、「俺が金をやるから汽車に乗っていけ」とかね、そういうバカな大人がたくさんいます。ヒッチハイクというのは本当に自分の運命を素手で切り開いていく非常に大変なことなんですね、その分、中身の濃い旅行が出来るんですけど。特に若いときにはみんなから好かれますからね。いろんな所で必然性の無い人にお世話になる、親切にしてもらう、そういう旅というのは実に面白いことなんだけど、それを認めない風潮が日本にはあって、それはやっぱり日本人の限界、狭さでしょう」

●今の若者たちには勧めますか?
「そうねー、うんとそういうことをやった方が良いですね。それから、昔ほど若者は職に就かなくてもプレッシャーが無いですから、やりやすいんじゃないですか。僕たちの時は酷かった。学校を出て就職しないとね、知らない人からいきなり説教を食らったり、それで乗せてもらった車の中でケンカしたりして、とんでもないところで降ろされた事とかよくありましたよ」

●そういう意味では、若者たちが色々な経験を出来る時代に日本もなってきた・・・。
「ええ、だからどんどんやったほうがいいですよ。特に1人でね。僕はカヌー屋ですから、川旅なんですが、川旅で一番日本に足りないのは、単独行の若者がいない。どうしても4〜5人や10人くらいでキャーキャーワーワー言いながらつるんでいて、それも面白いんですがね、たまには1人で旅行をした方がいいですね。日本の川というのはやっぱり面白くて危険が少ないので単独行でやるのは良いと思うんですが。真面目な青年が1人で暗い顔をして何ヶ月もカヌーを漕いで下っているというのはなかなかいいですよ。不真面目な青年は明るくて、それはそれでいいんですが(笑)、青年というのはやっぱり一匹狼で暗い顔をしているべきだと僕は思うわけで、そういう青年と会うと本当に胸が熱くなるね。昔の自分を思い出してね、そういう人とは時々2〜3泊一緒にキャンプをして別れる。結構、向こうでは単独行が多いんですよ。日本人だけですよ、いつもつるんでいるのは」

●日本ではツアーが多いですからね・・・。
「そうねー、だからその人達は一生、ツアーなんですね。それは僕とは全く別世界の人ですから問題にしませんが、やはりこれを聴いている人の中には単独行で荒野を1人で歩いて欲しいですね」

●行ってみたいし憧れるけれど、ちょっと不安で怖いという人も多いですよね。
「そりゃ、最初は怖くて不安ですよ。だけどそれをやるのが面白いわけでね」

●野田さんが初めてカヌーに出会ったのは、その放浪の旅だったんですよね、確か。
「そうです、27〜8歳くらいの時ですね。ヨーロッパで、競技カヌーではない遊びのカヌーにキャンプ道具を積んでライン河を下っていたんですよ、家族で。そういう事は日本人の方が上手いはずですよ。特に、西日本の日本人は親水性が全然違いますから、ヨーロッパの連中とは。川を見ればすぐ潜って手掴みで魚を捕ってしまう、そういうのは上手いですし、泳いだり、魚を釣ったりそうしながら川を下るというのは面白いわけですよ、やっぱり。マッキンリーとかの川でも夏は12〜13度くらいになるんですよ。そうすると潜れますしね。そして川底を見るとその川を理解した気持ちになるんです。表面だけでなく、川底まで見て歩いていますから。ちょっと違いますね」

●そして今年、『ともに彷徨いてあり〜カヌー犬ガクの生涯』という本が出たんですが、ガク君、もう亡くなってから5年になるんですね。いっぱい想い出があると思うんですが・・・。
「そうね、カナダ・アラスカに行った犬なんていうのは、いないですよね。しかも3ヶ月間、向こうのインディアンと一緒に暮らしてね、ホームステイして、だから最後は英語も分かっていたような感じでしたね」

●ガク君もちゃんと英語を理解していたのですか?
「ええ、最初は英語を喋っていると不安そうな顔をしていましたけど、少しは意味が分かるんでしょ、最後は英語でも安心したような顔をしていましたけど」

●また、藤門弘さんのご本の中では、野田さんと「ぼんやり犬」というのを推奨していらっしゃるじゃないですか(笑)。「ぼんやり犬」の定義って?
「それはね、よく犬のコンテストがあるじゃないですか。飼い主の号令に反応して、いろんなことを出来る犬の。そういう犬とは反対の極にいる犬ですね、何を言ってもボーッとしてね、人間が好きでシッポだけ振ってたくさんご飯を食べて、そんな無芸大食な犬がいいな、と思うので、そういうところから時々「ぼんやり犬大会」をやるんですよ。それぞれ犬の説明をしてもらうんですが、この間来た犬は面白いんですよ。「この犬は、どういう犬ですか?」って聞くと、「もう、何も出来ませんけど、人間が好きで、ご飯をよく食べます」って言って、僕の目の前で餌を投げてパクパク食べているんですよ(笑)。僕、それに感動してその犬を1等にしましたけどね」

●(笑)。でも「ぼんやり犬」ってネーミングでいくと、ガク君は「ぼんやり犬」とは言えないような・・・。
「ええ、でも8割は僕の言う事を聞いたのですが、2割は全然言う事を聞かなかったんですよ。自分のやりたい事もやっていて、何でも命令に従う奴隷ではなくて、自主性を持っていましたよね。我々もそういうことを期待していなかったので、何でも隷属する犬、家来の犬ではなくて、仲間としての犬でしたね。昔、あやしい探検隊をテレビで半年やったんですが、今そのビデオを見ますと、椎名誠さんや沢野ひとしさんとかと焚き火を囲んでお酒を飲んでいるんですが、その中に入って一人前な顔をして火に当たっているんですよ。対等の一員として。そういうのは面白いですよね」

●その、ガク君の息子さん達、タロウ君とテツ君というのはどうでしょう?
「あれはダメです。不祥の犬でね、駄犬です。やっぱり雑種ですから、やっぱり隔世遺伝というか1代きりでしょうね。2匹ともカヌーで激流に行くと逃げ出すんですよ。ガクは最後に沈するまで一緒に付き合ってくれて、激流に流されても僕のそばから離れなかったのに、あの2匹は僕を見捨ててすぐに逃げるんですよ(笑)」

●じゃあ、やっぱりガク君のような犬はもう現れないんですかね。さらにこれから、クリスマスに向けて子供達にクリスマスプレゼントで、ワンちゃんやネコちゃんを飼う方も多いと思うんですが・・・。
「そうですね、都会にいると走らせられないから犬を飼うのは難しいんですね。だからあまり大きなのではなくて、柴犬くらいの20キログラムくらいだったらいいんじゃないですかね。家の中で飼って、ちょっと大きくなると都会では大変ですよね」

●それで、できれば「ぼんやり犬」に育てて、コンテストに参加をし、「ぼんやり犬大賞」を獲れるような・・・。
「ハッハッハ(笑)。とにかくお座敷に上げて人間と一緒に暮らすような家って言うのがいいですね。庭に繋ぎっぱなしだったら、飼わないほうがいいので」

●最初に野田さんにお話しを伺った時に、アウトドアブームというのになって、オートキャンプ場が非常に増えたという事を聞いたときに「あれはいいよ、あまりアウトドアを知らない連中が土足で自然の中に踏み入るんだったらば、囲いのあるオートキャンプ場に行ってくれたほうがいいんだ」っていうお話をして下さったのが印象に残っているんですが、最近はどうでしょうか?
「最近のオートキャンプ場は非常に管理が厳しくなってきましたね。一種の刑務所です」

●(笑)。
「管理人がほとんど公務員あがりですから、それがいけないですね。公務員というのは非常に否定的に人間をみるでしょ。禁止が多すぎる。楽しもうとして来ている人達に嫌がらせをする、そういうことを楽しみにしているような管理人が多いですね。彼らを一掃すれば面白いと思いますがね」

●最近のアウトドアブームのブームは、落ち着いてきたというか浸透してきたという感じですよね。
「そうですね、みんなアウトドアが上手くなりましたよね。それぞれアウトドアの出来ない人はオートキャンプ場に行く、上手い人はそういうところに行かないで自分たちでキャンプをする、そういうのも浸透してきているということなんでしょうね」

●この冬に単独やグループでアウトドアに出かけようとしている人もいると思うんですが、アドバイスとかありますか?
「もう川は寒いですよ、これからは。ところが海は意外と暖かいので、特に黒潮が流れる海岸というのは非常に暖かいですね。去年の正月には徳島の海にいたのですが、暖かくてね、天気さえ良ければ裸で暮らしていましたね。カヌーでね、海のそばの人が来ないところでキャンプをして、本当に面白かったんですが、海は穴場です。特に西日本の海は黒潮が流れているところでは気温が全然違いますね」

●これから寒くなって穴場の海に・・・。
「ええ、海は面白いですね」

●日和佐の海はどうなんでしょう、最終地になるんですか?
「なりそうですね。まず、人がいないというのが気に入っていまして、それから人間1人当たりの自然の割り当てが多いですね。海、山、川に誰もいないんですよ。四国はやっぱり住みにくいんでしょうね。産業があまりないので若い人はみんな都会に出てしまう、お年寄りと子供しか残っていない。でもそんな過疎というのは我々にとっては1番いい所なのでね」

●ザ・フリントストーンもぜひ一度伺いたいなと思いつつ行けていないのですが、今度機会があったら遊びに行かせていただきたいなと思います。
「ええ、ぜひどうぞ」

●その時を楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

・野田知佑さんの著書紹介
 
ともに彷徨いてあり〜カヌー犬ガクの生涯
文芸春秋/1238円
お話にも出てきた、5年前に天国に召された"カヌー犬ガク"の14年の生涯を綴っいます。野田さんやガクのファンだけでなく、愛犬家の方にもオススメの1冊です。

さらば、ガク
文芸春秋/714円
こちらはガクの生涯を、野田さんの秘蔵の写真で再現しているだけではなく、野田さんとガクの養父にあたる作家、椎名誠さんとの対談集も掲載されていて、見ごたえ読みごたえ十分です。

ささ舟、四万十川を行く
岩崎書店/1800円
この絵本は、以前出された『ささ舟のカヌー』の“四万十川編”ともいえる絵本として、野田さんの文章と藤岡まきおさんの絵が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出していて、大人が見ても和めるものに仕上がっています。

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