2003年8月17日

映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』
龍村仁監督登場(パート1)〜ガイアの魂の旅〜

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは龍村仁さんです。
龍村仁監督

 今週と来週のザ・フリントストーンでは、ドキュメンタリー映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』の監督、龍村仁さんをお迎えし、じっくりとお話をうかがっていきます。
 この番組とも深い関わりがある龍村仁監督のドキュメンタリー映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』。「母なる星・地球、すなわち“ガイア”は、それ自体がひとつの大きな生命体であり、我々人類はその大きな生命体の一部分として、他のすべての生命体と共に、今、ここに生かされている」という基本コンセプトのもと、インタビューと映像で織りなすオムニバス形式のこのドキュメンタリー映画は、これまで4作品作られています。これまでに「第一番」から「第四番」まで公開され、自主上映という形式ながら80万人以上の方がご覧になっている静かな大ヒット映画なんです。
 92年11月に公開された「第一番」では、登山家のラインホルト・メスナーさん、アフリカゾウの保護活動を行なっているダフニー・シェルドリックさん、植物学者の野澤重雄さん、アイルランドのアーティスト、エンヤさんとケルト美術研究家の鶴岡真弓さん、そして元宇宙飛行士のラッセル・シュワイカートさんと、全部で6人の方々が登場し、体験に基づいた貴重なメッセージや映像が大きな反響を呼びました。
 続いて95年4月に公開された「第二番」では、映画「グラン・ブルー」のモデルとしても有名で、一昨年亡くなられたジャック・マイヨールさん、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世、青森県・岩木山麓で森のイスキアを主宰する佐藤初女さん、そして天文学者フランク・ドレイクさんが登場し、「第一番」も含め、“心”の映画として、絶賛されました。
 そして97年10月に公開された「第三番」は、96年の8月に亡くなった動物写真家の星野道夫さんに捧げた形となっていて、星野さんと行くはずだった旅を通して、星野さんゆかりの人たちが多く登場するほか、宇宙物理学者のフリーマン・ダイソンさん、星の航海士のナイノア・トンプソンさんも出演。生と死、そして失われた神話の重要性や想像力について考える内容になっています。
 さらに2001年10月から一般公開された「第四番」は“21世紀に生まれ、育つ子供たちのために”というテーマのもと、ガイア仮説で有名な生物物理学者のジェームズ・ラブロックさん、野生チンパンジー研究家のジェーン・グドールさん、ハワイ生まれでレジェンド・サーファーのジェリー・ロペスさん、そして沖縄の版画家の名嘉睦稔さんが登場、貴重なメッセージを発していました。
 また、この「第四番」は「“共に感じるシンフォニー”から“共に奏でるシンフォニー”でありたい」という龍村監督の意向もあって、一般の人たち、ひとりひとりが映画を支える「ひとコマ・スポンサー」という形式によってできあがった、画期的な映画でもありました。
 今週から2週に渡って、そんなドキュメンタリー映画「地球交響曲/ガイアシンフォニー」の監督・龍村仁さんをお迎えしてお送りします。監督は先頃、角川書店から『地球交響曲第三番 魂の旅』を出版され、8月3日には“我らがおかぁさん”こと自然派シンガー、スーザン・オズボーンさんとのトーク&ソングイベント「きこえます ガイア地球の歌声」を開催。そして3月には松任谷由実さんとの「地球の歌が聴こえる ユーミンの遥かなる音と魂の旅〜万音連響 万象連鎖〜」というテレビのスペシャルもありました。今週は、そんな監督の最近の活動も踏まえつつ、まずは『地球交響曲/ガイアシンフォニー』の総括から伺っていきたいと思います。

『地球交響曲第三番 魂の旅』

●「地球交響曲/ガイアシンフォニー」の第三番の中で私が強く感じたことは、目に見える、形として触れられるものが現代人の認識として受け止められているけれど、目に見えないもの、形の無いものの存在が確実にあるんだということを、星野道夫さんの「魂の旅」という形ですごく知らしめられたという感じがします。特に目に見えないもの、形の無いものの存在の究極が「魂」だと考えると、第三番に登場するアラスカの先住民クリンギット族のボム・サムさんがおっしゃった「魂を語ることを恐るるなかれ」、この言葉に尽きると思いました。

「みんな現代人として、現代文明の恩恵の中で生きているわけだから、目に見えないもの、聞こえないものの存在を、リアルなこととして語ることへの躊躇はみんなありますし、僕自身もそうです。でも、全ての実態の根源は我々が現実だと思っていることとは違う、連綿と続く大きな何かの方が本当なのかもしれないというのが、龍村仁の基本的な考え方としてあるわけ。それが映画の形になって、具体的に出て来たのがガイアシンフォニーという映画なんです」

●第三番では、クイーン・シャーロット島の最南端の入り江にある、海からしか入れないハイダ族の聖地、ニンスティンについても語られていますね。

「星野道夫も本に書いていますけど、すごく立派なトーテムポールがニンスティンにはあるわけ。普通の西洋人、現代人的に考えれば、そのような立派な文化遺産は出来るだけ保存して腐らないようにして、後世の人々に文化的なグラウンドも分かるように伝えていくことが正しいと思っていますよね。無理矢理にモノ(残されたトーテムポール)に価値を置いてしまって、それを必死で腐らないように守り、それから多くの人達に博物館などで文化遺産として見物できるようにする。
 ところが、それとは逆転した考え方が彼らの中にはちゃんとあるっていうことなんです。すなわち、そこの祖先の人達の魂がトーテムポールには宿っていて、それは目には見えないんだけど、自然のサイクルの中でだんだん朽ちて土に還っていき、やがてそこから新しい木が生えてくる。そして初めて魂が健やかに還るべき場所に還れるんだという考え方。そうすると、腐っていくものをそのままにキープしなければいけないよね。だからモノに何か価値があるということを前提として成り立っている僕らの社会とは違う考え方を提示してくれる。それは人間の生き方としてとても重要なんです。
 人間は、聖地だと思った場所にお社を建てて御本尊を敬っていくけど、そうではないんです。岩があれば、その岩も神様が宿る場所と言う考え方で、いわば日本の神道と同じ考え方なんです。神道にもお社があったりしますけど、本体は自然そのもので岩や山や木なんです。
 そういう数千年前からついこの間まで、我々の中にあった考え方、モノと人の関わりの中で生み出される、聖なるものということです。それがどんどん無くなっていっているということは、逆を言えば見る側、そこに関わる側の人間の魂が衰弱しているということで、それを思い出させようという動きでもあるんです」

●モノを見て、すごいと思う時もありますけど、何も無くてもそこに居ただけで、すごく神聖な気持ちになる、そういう空気の場所ってありますよね。きっとニンスティンにも、そういう空気が流れているんだろうなって思いますね。

「そうなんです。それも、元々見えないものがそこに実在しているということを言うよりも、そこに行った人がそこに立つことによって、そこの空気やモノで双方向に聖なるものが一瞬にして生み出され、一瞬にして消えていく、そういう価値観なんです。だからモノの実在があるからすごいということではなくて、生きている人間の魂が関わって初めて素敵な場所になって、自分も遠い流れの中で生かされているんだって、普段思わないことを思える、それが元気になる力の一つになりますね、それが聖地なんですよ」

●相手だけではなく、自分も大切だと思えてきますね。そして自分もきれいに磨かないと相手も光らせられない。

「そうです、とっても大切なことです。魂が永遠なりって言うけど、例えば今年行なわれた星野道夫の写真展なんかは、10日間で14〜15万人が来ている。生きているときより、今の星野の方がものすごいインパクトで大勢の人達にいろんなものを与えている。すなわち魂のリアリティーがどんどん大きくなっているんです。
 これは第三番の中でも、熊の一族のインディアン、ウイリージャクソンが『彼の旅は始まったばかりでどんどん続いていくわけで、それを妨げてはいけない、だから彼の死を祝福しよう』って言っていたけど、本当にそうなっているわけ。どんどん若い人達が初めて星野の写真や言葉に触れている。だから魂は永遠だと言えるわけなんです。
 そして永遠たらしめているのは誰かっていうと、それは生きている人なんですよ。生きている人が作品に触れていろんなことを感じる、それが魂が永遠であるということで、フワフワと飛んでいる魂が永遠に実在していると言ってもいいけど、そんなことを言っても虚しいので、やっぱり生きている人間の心の状態が元気になるというか、きれいになるというか、そういうことがあって初めて魂は永遠であると言えると思うんです。だから魂の問題は、実は冥界のこととか、死んだ世界、違う次元のことではなくて、いま生きている、今一瞬のこの時のことなんです。それが『魂を語ることを恐るるなかれ』ということなんだよね」

●魂は永遠であるということの裏には、生きている人間達があるということですが、第三番の中でも「生きることとは?」というような、生きている人間の人生の歩み方のテーマもありましたよね。その中でも、以前私もお会いしたことがある星野さんの友人で今は亡きアラスカのブッシュパイロット、シリア・ハンターさんのフレーズ「人生とは何かを計画しているときに起こってしまう別の出来事を言う」という言葉を聞いた瞬間から、いろんなことが当てはまる気がして印象に残っています。

「私達は、今日と同じ明日が必ずあるんだと思うことによって生きているわけだし、そうじゃないと辛くて生きられないというのも分かる。でもこの自然界や生命の摂理の本当の深いところはシリアが言っていることなんですね。本当に明日がどうなるか分からないというのが真理なわけ。その真理の通り生きるのは大変なので、今日と同じ明日があって欲しいと思いながら生きることはとてもいいことなんだけど、その裏のことも知ってることが大事なんです。
 例えば、考えられなかったような辛いことが自分自身に起こったとして、絶望して自分も死んじゃうんじゃなく、その時初めてまた生き続けていく新しい自分の道を必死で探し、そうすることで人間が生き生きするというのはあるんです。今の時代背景もそうだと思いますが、辛いことや絶望してしまうような地球の未来のことに関して言えば、新聞を毎日見ていれば本当に心配な事柄だらけだけど、そういう状況に遭いながらそこで未来を考える絶好のチャンスだし、僕は大きく変わっていく、今までの価値観通りモノが運ばないときに新しい価値観を気付き受入れていく、大きな転換点だと思います。それが出来るのが人間だと思うんですよ。だからその時は、とても良い時だと言えますね」

●なるほど。また、フリーマン・ダイソンさんの「人間の想像力は単なる絵空事ではなくて、人の心が描いたものは必ず実現する、そのために神は想像力を与えた」っていう話がありましたけど、それを証明したのが、星の航海士、ナイノア・トンプソンさんの話ですね。

「ビジョンというのはさ、必ず必要です。無ければ先へは進めないでしょ。でもビジョン通りに物事が決まらなかったら失敗で、ビジョン通り行ったら成功っていう価値観も違うんですよ。それが人生って何かを計画している時の話なんですね。
 例えば5000キロ離れたタヒチの島をハワイから見えるわけがないでしょ。なのに彼は、師匠に『お前の目に、タヒチが見えているか?』って聞かれて、何と答えようか考えて『見えます』って言ったんですよ。肉眼では見えている訳がないんだから、ナイノアは心の中で見えていますという言い方をしたんですね。そしたら師匠は『それは正しい。お前がもし、心の中でタヒチを見失ったら本当に航海で見失うよ』と。現実はいろんな分からなくなることがたくさんあっても、遠い心の中の島を持っていることが現実の世界で1番大切なことなんだと。
 マニュアル通りやれば誰でも同じことが出来ますよと、安心しているところがあるんだけど、それだと本当は実はつまらないんですよね。当然マニュアル通りにいかないことがあるわけ。それでは自分自身で考えざるを得ないから、辛いことにはなるんだけど、しかしそこで自分の道を発見することくらい、逆の言い方をすれば面白くて楽しいことはないわけで、それを言っているんですね。
 それが仮に、私はこうなりたいと思ったけど、どうも今は違う道を行っているから、失敗した、ということではなくて、違った道を行っている中で、本当はここが目的だったんだよ、目的地を与えられて誠心誠意取り組んだことによって見えてくる、というのがあるんですね。
 抽象的なことを言っているわけではなくて、ガイアシンフォニーの映画は全部そうなのよ。結果として出来ているから、すごい明確な、強烈なプランニングとビジョンを持っているかというと、そうではないんですよ。逆なんですよ。見えないビジョンもあるんですよ。でも、その瞬間瞬間は目の前に起こっていることが、これは僕のビジョンと違うからと言って、ないがしろにしたりしないで、その起こったことに対して自分が出来る誠心誠意をやっていると、突然そこに普通だと超自然的に見えるような現象がいっぱい起こって、あるべき位置に着くということになるわけです。
 だから、俺の思っている通りに出来たか、出来ていないかということは大したことじゃないわけ。結果として、今のところはそういう感じで来ているというわけですけどね」

●第三番では「魂を語ることを恐るるなかれ」ということで、姿、形が無くなってしまった星野さんとの旅が描かれ、そして第四番は「未来の子供達へ」ということになりますよね。私の中では一番、二番、三番があって、三番と四番は上・下巻の1冊の本のような感じもしましたが、龍村さんの「ガイアシンフォニー」という作品の中では登場人物達の語る言葉というのはもちろんですが、そこに使われている音楽も重要ですよね。先日のスーザン・オズボーンさんとのイベントでは、龍村さんは挿入歌とかを決して選曲しているわけではないんだ、という風におっしゃっていましたが。

「それが実感なんですよ。セレクト、選曲するというのは具体的に、この場面にはどんな音楽が合うかなと音楽の種類を並べてきて、その中からピックアップするわけですよね。それを悪いとは言わないけど、僕の実感として『ガイアシンフォニー』に使用している曲は全部、出会うとしか言いようがないわけ。出会うということは、こっちの意志で勝手に選んでいると言うよりは、向こうからも来てくれているという、双方向で出会うという感じです。ですから、ここはクラシックの曲とか、ここはジャズとかそういう風に選んでいるわけではないんです。
 不思議なことがあって、映画は2〜3分の場面のまとまりがあって、それをシークエンスと言うんですが、その編集をするときに、大体このシークエンスはどんな感じが人の心の中に沸き起こって欲しいか、という感覚的なものはかなりはっきり分かっているんです。でもそれを言葉では説明できないわけ。それは単純ではなく複雑なことで、もしそのことを外に出して、こういう風になって欲しいって言えるとすれば、1番素直に出来るのは音楽なんですよ。『この音楽がもたらす、この感じ』がこのシークエンスの何かなんだ、ってなるわけよ。
 ですから、そういうシークエンスを編集し始めるときにもいろんな出会い方があります。偶然、喫茶店でそのシークエンスのことが頭をよぎって、その時にたまたまBay-FMなんかが流れてきて、この音楽何なんだろう、これだって思って、それから音楽を調べるケースもありますし、千差万別、突然私の小さいころの自分がこの音楽だけは弾いてみたいって思っていたような音楽が聞こえてきたりね。
 ガイアシンフォニーって言っているように、実はとても音楽的な映画なんですよ。音楽的というのは音楽映画という意味ではなくて、音楽的にしか構造化できないものを映像や言葉、音、音楽で全体として作っている映画なんです。話題になるときは、いつも言葉が話題になるんですけどね」

●音楽が、龍村さんがそのシークエンスごとで描いた見えないものを、見えるようにしているということですね。

「最初は、聞こえる形から入ってきて、一緒になって見えてくる感じですね」

●この音楽の話をじっくり聞きたいところですが、今週はお時間が来てしまいました。この続きは来週、龍村監督をお迎えしての第2弾として、たっぷりお届けします。お聴き逃しなく!!

★龍村仁監督をお迎えしてのパート2〜ガイアと魂と音楽〜(2003年8月24日放送)もご覧ください。

■このほかの龍村仁さんのインタビューもご覧ください。

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■「龍村仁」監督情報

新刊『地球交響曲第三番 魂の旅』
角川書店/本体価格1,600円
 龍村さんが3年がかりで書き下ろした新刊『地球交響曲第三番 魂の旅』は星野道夫さんの魂とともに、龍村さん自身の記憶をたどる、果てしない旅の軌跡をまとめた作品で、映画を観た方はぜひ読んでいただきたいと思います。

・「ガイアシンフォニー」の公式ホームページ:http://gaiasymphony.com/
・「オン・ザ・ロード」(『第一番』から『第三番』までの配給会社)のホームページ:http://www.otrfilm.com/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. BOOK OF DAYS / ENYA

M2. UNCHAINED MELODY / SYLVIA McNAIR & DANIEL KOBIALKA

M3. BLUE BIRD / BOYS AIR CHOIR

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. 星ぬ子守歌 / TINGARA

M5. ゼア・イズ・ア・シップ / 白鳥英美子

M6. AVE MARIA / SUSAN OSBORN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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