2004.01.25放送

〜報道写真家・石川文洋さんの日本縦断徒歩の旅〜

石川さん
 「夢」月間の最終回。ゲストは報道写真家・石川文洋(ぶんよう)さんです。石川さんは去年約5ヶ月かけて、北海道から沖縄まで歩いて日本列島を縦断しました。65歳という年齢でひとつの夢を実現した石川さんに、なぜ日本列島を歩いて縦断しようと思ったのか、旅を通して見えてきた日本の現状とは、そして石川さんのさらなる夢についてうかがいました。

●何度も訊かれていることだとは思うのですが、去年の7月15日に北海道の宗谷岬を出発して、12月10日に沖縄の那覇にゴールという事なんですけど、何故日本を徒歩で縦断しようと思われたんですか?
「私、前から歩くことが好きで子供の頃からよく歩いていたんですよ。そのうち日本を歩いてみたいなと思っていて、カメラマンなので歩きながら一度ゆっくり写真を撮りたいと思っていたんです。去年65歳になるひとつのけじめというか、実行してみようということで思いきってスタートしたわけです。なかなか出来ませんからね」

●最初の一歩に至るまでが大変なんですよね。
「私太る体質なんですぐに太っちゃうんですね。で、体重が増えだしたので、体重を減らすトレーニングをしていて5kg位はすぐに減ったんですけど、それ以上は落ちなかったんです。そういう事をしているうちに、一昨年に木曽路と中山道を100km、4日間で歩いたんですよ。その時に自信をつけまして『今度は日本縦断を思いきってやってみるか』ということで実行したんです。でもそれは細かく写真を撮ったり、自分の目で見るということもありますが、ひとつは健康、65歳で日本のはじっこからはじっこまで歩けるかどうかという挑戦でもありました」

●1日にどれくらい歩いて、合計ではどのくらいの距離を歩いたんですか?
「結果的にいえば3250kmですね。149日間中、実際に歩いたのは126日なんです。休養らしい休養というのは1日しかとらなかったんですけど、私歩きながら原稿を5つ抱えていたんですよ。その他に旅とは関係ないもうすぐ出版されるアフガニスタンの本の原稿とかもあったので、それを休んで書いているということがあったので実数は126日なんですね。その126日を歩いたキロ数3250kmで割ると大体26kmくらいの計算になりますね」

●写真を撮りながらだと横道にそれてしまったりということはなかったんですか?
「横道にそれないようにはしていたんです。それ始めるとキリがないですからね。それでも歩いている道路から見えている範囲で『これいいな』と思うと2時間くらい見ていたこともありましたね。ひとつの港で色々な人が作業をしていて、つい見入ってしまうとその分遅くなりますからね。宿に着くのが遅くなるという事はしょっちゅうありました」

●最終的に那覇にゴールをしたときってどのようなお気持ちでしたか?
「結局149日目ですからね。那覇の町が見えてきたときは嬉しかったですよ。ゴールのところに大勢の人が待っていてくれたんです。翌日新聞を見ると100人位と書いてあったんですが、そんなに人が待っているとは思っていなかったんですよね。もちろん友人もいましたし、通り掛かりに人が集まっているから『なんだろう』って待っている人とかやじうまもいたと思うんですけど(笑)、感動しましたね。拍手で迎えてくれて花束も用意してくれていたりしたので、行ってよかったなと思いましたね。その時は私の生涯の中で一番大きな感動を得た日だと思います。歩いてよかったなと思いました」

●日本の道ってあまり歩行者向けに出来ていないんですよね?
「あまりではなくてほとんど出来ていないですね。もちろん歩道はあるのですが、ない所も多いし、一応あるといった感じで歩行者のことは考えられていない。ベンチが全く置いていないですしね。歩く人も少ないんですよ。車や自転車、オートバイで旅をしている人はいましたが、徒歩で旅をしている人はほとんどいなかったですね。一人会っただけですね。でも歩く人が少なても、歩きたいという人はたくさんいるんですよ。今回も私のホームページを見て、途中で待っていて自分も歩きたいけど、どうしたらいいかという人もいました。歩きながらそういう人のためにも、もっと歩道が整備されるといいなと思いましたね。歩道があっても手入れをしていないから、草が生い茂っているところとかたくさんありましたね」

●そんな旅の中で「これはキツかったなー」という出来事とかありましたか?
「旅全体を振り返ってみると楽しかったことばかりで、つらかったということはなかったんですけれども、雨が厄介でしたね。私雨で休んだ事って1日もないんですよ。どんなに激しい雨の日でも歩きました。最初から降り続いているといいんですけど、降ったり止んだりというのが厄介でしたね。夏はカッパが暑いですからその度に着たり脱いだりしまったり、それからカメラや機材があるのでしまったり出したりというのがとても面倒で、イライラすることがありましたね。『この天候というのは意地悪だなぁ』と思ってね(笑)。今止んだからしまおうと思ったらそれを待っていたかのように降りだしたりね(笑)。その逆だったりとかね」

●精神的にも肉体的にもイライラしたりつらかったこともあるとは思うんですけど、環境の面ではどうでしたか ?  日本は緑が減ったとか環境が破壊されているといわれている中でも少しは良くなってきているような兆しもあるように感じるのですが。
「いやいや、むしろ逆ですね。我々も列島の環境破壊の取材をしているので環境に気を使っているのですが、それよりも歩いていると『こんなに日本は山が多いのか』と思いましたね。日本海側を歩いていると、海からすぐ山になったりして改めて日本は山が多いと感じましたね。例えばそれこそ手付かずの島根県や私の故郷である沖縄の場合は県の所得が低いんですよ。私は何故所得が低いのかが分からなかったのですが、島根県の場合歩いていると山ばかりなんですよね。平地じゃないからそこに工場も建たない。だからそこの人達が県からでていくということが分かりました。鳥取県、島根県と日本海側を歩いて九州の鹿児島まで行ったんですけど、山がずっと続いていましたね。だから私が歩いたところを見たかぎりでは環境破壊というのはあまり感じられなかったですね。もちろん今九州新幹線を造って工事をしていますので、それを環境破壊とも言えますけども、むしろ日本の自然の多さを感じましたね」

●自然を歩きたい人達のためのいい歩道さえ作れば、世界中のハイカーやトレッカー達から日本ももっと興味を持たれますよね。
「ええ。ですから歩道を整備して休憩所やトイレを作って、ベンチも作って雨が降ってきたときに雨宿りが出来るような、日陰が出来るような休憩所を作れば日本ももっと関心をもたれると思います。日本のひとつの特徴というのは北海道から沖縄まで縦に長いですからね。その土地によって色々な地形の変化があるとともに自然の変化もあるわけですからね。それが日本の良さだと思うんですよ。私が日本の良さを再認識したというのは、ベトナムに4年間住んでいたからなんですね。ベトナムもいいところですよ。戦争そのものはひどい状況ではあるけれども、そういった中でもメコン川とか山岳地帯もありますから。だけど四季がないんですよ」

●日本には四季がありますからね。
「ベトナムにいるときに日本の四季の良さを再認識しましたね。今回も歩いてみて日本の四季はいいなと思いましたね」

●石川さんのこれまでの報道写真家としての半生を振り返ってみても色々危険な目にも遭い、それでも随所に冒険もされていますよね。26歳の時にお金を27ドルしか持たずに世界一周をしてみたり、その結果ベトナムにも滞在して住んだりとか、新聞社に勤務していてそれをやめてフリーになったりとかしているんですけど、65歳で日本縦断徒歩の旅を実現された石川さんにとっての夢とはなんですか?
「夢というのは自分でこうしたいと思うことは夢だと思うんですよ。今度の旅もそうです。前から日本を歩いてみたいという気持ちがあったわけです。これは夢ですよね。私は夢を持ち続けていれば実現するものだと思っているんです。ですからベトナムで取材した写真をひとつにまとめてみたいということで、大型の500ページを超える写真集を出したのも夢のひとつなんです。それから写真だけではなくて当時の体験も綴ってみたいということで、当時では珍しかった1000ページ近い文庫本を出したのも夢のひとつなんです。こうしたいと思うことは今でもありますし、みなさんもあるんじゃないですかね」

●あるんでしょうけど、夢を持ち続けることを途中で断念してしまうケースが多いのかもしれないですね。
「いや、夢というのは断念してもいいんです。最初から持っている夢が実現するとは限らない。今度の旅でも、学生時代に私の本を読んで下さっていて現在は教師をやっているという方と道で出会って、そこの学校の近くを通るということで小学生の高学年の子達が出迎えてくれたんですよ。非常に嬉しかったですね。そこで何か一言といわれたので夢の話をしたんですけど、夢というのは例えば小学校の時に『自分はパイロットになりたい』とか『教師になりたい』とか言うじゃないですか。それは持っていてまた変わってもいいわけですよ。また変わるのも普通ですよね。変わったらまたその次の夢を持っていればいいわけですから。最初から持っている夢を何がなんでも実現しなくてはいけないということではなくて、どんどん変わっていいと思いますね」
●内容的には変わってもいいけれど、夢は持ち続けなければいけないということですね。
「夢を抱いて、自分が生きている人生の中で『こういうことをしたい』というのをもって生きていくというのは大切なことだと思います」
●石川さんの次なる夢はありますか?
「いっぱいありますよ(笑)。私の写真館がベトナムにあるんですけど、故郷の沖縄にも作りたいというのもありますし、今旅が終わったので今回の旅の楽しさを伝える本を作りたいんですね。それと今回はカメラを持っていったので写真をたくさん撮っているんですよ。1万2000枚以上撮っていますね。でも写真集にするにも私大きな写真集ってあまり好きではないんですよ。値段が高くなりますし、なかなか買えないじゃないですか。私、人に本をあげるのが好きなんですけど値段が高くなるとあげられなくなっちゃいますから(笑)。まだ頭の中で写真全てを整理できていないからどういう風になるか具体的には分からないけど、そういう本を出したいなというのも身近な夢のひとつですよ」

■ I N F O R M A T I O N ■
■石川文洋さん
・『石川文洋のカメラマン人生ー旅と酒編ー
・『石川文洋のカメラマン人生ー貧乏と夢編ー
 木世(えい)出版社/本体価格740円
 石川さんのこれまでの人生が凝縮されたようなエッセイ、写真も掲載された日記のような2作品。

・石川さんの日本縦断徒歩の旅の記録は石川さんの公式ホームページで読むことができます。
HP:http://www6.plala.or.jp/zassoan/

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