2004.07.11放送

エコ・マガジン「SOTOKOTO」編集長・小黒一三さんを訪ねて


今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは小黒一三さんです。

 創刊5周年を迎えた、地球と人をながもちさせるエコ・マガジン「ソトコト」の編集長「小黒一三(おぐろかずみ)」さんを編集部に訪ね、お話をうかがいました。小黒さんはスローフード・ムーヴメントの仕掛け人。また、アフリカ・ケニアにあるホテルを営む、経営者としての顔も持っています。

◎ベンツもルイ・ヴィトンもエコ!?
●ソトコトは今年で創刊5周年になるんですね。早いですね!
「そうね。5年持つとは思いませんでしたけどね(笑)。自分自身も長生きしちゃっていますけど、よくここまで持ったなって思います」

●私、当初ソトコトというのは“外(ソト)の事柄(コトガラ)”の略で、“アウトドア〜”とか“アウトサイド〜”という意味だと思っていたんですけど、アフリカの言葉で“木の下”という意味なんですね。
「東アフリカの、スワヒリ語って御存知だと思うんですけど、その隣にバンツー語圏というのがあってそこの言葉ですね。“木陰”という意味です」

●小黒さんがソトコトを創刊したきっかけ、理由を教えて下さい。
「それは簡単ですよ。お金を出すバカがいたわけですね(笑)。いわゆる業界で言うスポンサーですね。放送を聴いてたら怒られちゃいますね(笑)。奇特な人というか、ピュアな魂を持ったスポンサーがいたわけですね。こういう環境問題に関する道楽事っていうのは、スポンサーがいないと何も出来ないですよね」

●でもソトコトって、そんな環境問題をファッションとして打ち出しているじゃないですか。こういうコンセプトっていうのは、小黒さんの中で前々から温めていたものだったんですか?
「環境問題なんていうのは、余裕のある人、お金持ち、ある程度意識レベルの高い人がやるべき活動だと思うんですね。生活に困っている人が、他人のことなんか面倒見られるわけないじゃないですか。僕、ケニアから久し振りに帰ってきて思ったんですけど、当時、日本だと新聞報道が多かったですよね。新聞って面白くて、基準って社会的弱者の目線で書くじゃないですか。このままだと若い人に、環境問題は楽しいパズルで、新しい問題だっていうことが届かないんじゃないかと思うんです。このパズルを早く楽しく解いた奴が勝者になれると思ったので、若い人にどんどん挑戦して欲しいなと思ったので、ファッションとか音楽と同レベルで環境問題を論じられないかなと思って、こういうメディアを起ち上げたわけです」

●「リサイクルとか環境問題を扱うことが、自分達にも格好良く出来るんだ」と感じさせられて、目からウロコだったのがソトコトだったんですけど、“地球と人をながもちさせるエコ・マガジン”というフレーズっていうのは?
「あまり“地球”とか言いたくないんですけど(笑)、広告をとらなきゃいけないので(笑)。広く構えたほうがスポンサーの方に理解されやすいと思って、“地球”とかつけているんです(笑)。環境問題ってあまりにも多岐にわたっているじゃないですか。だから、ソトコトを発刊するときにその中でテーマを1個だけ決めようと思って、決めたテーマって表紙の右下にある、サルが寝転がって『ゴミ、捨てんなよ!』って書いてあるんですね。僕達のテーマってただ1つで、“ゴミは捨てるのやめようよ”っていうことなんです。だから、よくソトコトを見て批判されるんですね。『なぜ、こういうエコ・マガジンにベンツとかルイ・ヴィトンの広告が載っているんだ』と。そういうときの僕の言い訳は、道路の真ん中でルイ・ヴィトンを捨てる人はいないんじゃないですか」

●確かに(笑)。
「ま、最近はベンツを捨てる人もいるらしいけどね(笑)。でも普通、安いものはゴミで捨てるけど、高い高級品というのは捨てないじゃないですか。そういう意味では僕はエコロジーと分類していいのではないかと思って、この雑誌が成立しているわけですね。ま、勝手な解釈ですけどね(笑)」

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 環境をテーマにした世界初の雑誌「ソトコト」は1999年6月に誕生。
 その創刊号ではゴミ大国・ニッポンの象徴でもある東京のゴミに徹底的にこだわり、著名人・文化人が出すゴミに注目したり、ゴミの科学的なデータやゴミ・アートが載っていたりと、東京のゴミに関して、斬新な切り口で迫っていました。
 2号目では、環境先進国ドイツの首都ベルリンの特集。
 3号目では一転、イギリスの最新カルチャーを特集、その後は北欧の大特集を組み、風力発電やリサイクルの最新事情などを紹介したかと思えば、翌月には「大人の修学旅行」と題した特集で奈良を多方面から紹介、また「食」にこだわった特集を組んでみたりと、創刊当初は表紙のイメージとともに、大胆な誌面展開を行ない、読者を驚かせていました。


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◎“スロー”は必然だった
●ソトコトでは“スローライフ”、“スローフード”というように、“スロー”というのが、キーワードになっていますか?
「発刊して1年経って、あまりに売れないのでスポンサーの人が逃げちゃったんですね。『もう、お金払いたくない』って(笑)。これは大変だということで、もうちょっと分かりやすい切り口を見つけないと、環境雑誌といえど届かないなと思ったんです。で、その時にちょうど松山猛っていう『帰ってきたヨッパライ』の作詞家が、『小黒、イタリアに“スローフード運動”というのがあるぞ』と。『あれ、結構面白いから研究してみな』って教えてくれたんですね。すると、このスローフードというのは実に見事に環境問題を身近な食で語りやすい切り口だったんですね。それを大特集したら非常に手応えがあったんです。そこからですね、僕達がなんでもスローを付けだして“スローライフ”とか言い出したのは(笑)。ま、なんでも付けやすいですよね。ですから、勝手なそれぞれの方の解釈でここまで社会現象として広がったんだと思いますね」

●スローという言葉が「ゆったり、のんびり」から始まって、広く色々な意味でとれるので、逆にそれが受け入れやすかったのかなと思いますね。
「これも屁理屈なんですけど(笑)、徒競走をやって真っすぐ走っているときって、一生懸命ゴールを目指しているから、隣で走っている伴走者の顔が見えないじゃないですか。ところが、ゆっくり走ったり歩いたりすると、やっぱり人間ってキョロキョロしますよね。すると、伴走者の顔も見えるし、そこでコミュニケーションが生まれる。これって共生思想に合っていますよね。多分、スローっていうキーワードは必然だったんですね」

●そんな小黒さんはスローフード協会の日本支部にあたる、「ニッポン東京スローフード協会」というのも設立されて、事務局長をなさっているんですよね。
「そうです。今は肩書きとしては『国際スローフード協会の日本ガバナー』とかいって、偉そうなタイトルになっちゃいましたけどね(笑)。とはいえ、会員がまだ4000人なのかな」

●どういった活動をなさっているんですか?
「こんなことを言うと身も蓋もないんですけど(笑)、それぞれ地方の人は自分の地元で採れた野菜を、都会で高く買って欲しいわけですよ。これは、なるべくだったらユニークなものがいいですね。僕達は逆に東京ですから消費者が多いサークルになっているんですけど、勉強したいですよね。安全、安心、健康が今非常に興味がありますからね。だから、生産者の顔が見える野菜をどうやって手に入れることが出来るかとか、実用的なレベルでの勉強が多いですね」

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 世界初のエコ・マガジン「ソトコト」が「スローフード」を特集したのは2000年5月号から。その後、定期的にスローフードを特集し、日本のスローフードやスローライフのムーヴメントをリードしています。
 そもそもスローフード運動はイタリア北部の小さな町ブラで始まり、1989年に開かれた最初の総会で「スローフード協会」が発足。2003年10月の時点で、全世界の会員数は104ヶ国に約8万人となっています。去年イタリア・ナポリで開催された「スローフード国際会議」で、会長の「カルロ・ペトリーニ」さんが21世紀に向けた新しい宣言を発表、その一部をご紹介すると「スローな生活という思想は、単に食事を急いでとることやファーストフードに反対するためのものではなく、時間の価値が認められ、人間と自然が尊重され、喜びが存在理由となる、そんな世界を守るために発展させていかなければならない」とし、「動植物や生物の多様性、農村の文化、食に関する伝統技術や知識、そして共生の場を失わないように、スローフードとともに食卓からはじめよう」と呼びかけています。
 日本のスローフード・ムーヴメントの仕掛け人「小黒」さんは2001年10月に設立された「ニッポン東京スローフード協会」の事務局長を務め、2003年には先ほど紹介した国際組織「スローフード協会」から日本のガバナー(カウンセラー)に選出されました。


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◎今はマサイ族も農耕民族!?
●先程、ソトコトはアフリカの言葉で“木陰”という意味だとうかがったんですが、1992年にアフリカのケニアにホテルを造ってらっしゃいますよね?
「はい。これも成り行きでですね(笑)。僕、前はBRUTUS(ブルータス)という雑誌で長いこと働いていたんですね。その時にアフリカに取材に45日くらい行って帰ってこなかったんですけど(笑)、すっかり好きになりましてね。で、日本に戻ってきてみんなに説明しても分からないんですね。当時はまだ、マガジンハウスの編集部ってイタリアに行ってスーツを買いたいとか、物欲から離れられない奴等が多くて、どうしても分かってくれない。でも、あまりにも素晴らしいので、快適な日本人向けの細かいところまで気が付き、手の届く施設さえあればみんな来てくれるんじゃないかと思って、お節介から始めた計画だったんです。オープンして14年になるんですけど、これがなんとずっと赤字なんですね(笑)。一番つらかったのが4年くらい前ですかね。僕、全然気が付かなかったんですけど、ケニアの副大統領、法務大臣、警視総監、国立銀行の総裁のみんなが悪党だったんですね(笑)。いつも僕をニコニコ迎えてくれるんですけど、実は彼らが部下達を使って、ウチからお金をどんどん盗んでいったのが全く分からなかったんですね。だから、いつも帳簿が合わないんですね」

●これは、経営者である小黒さんがずっと現地にいないというのが、問題なんじゃないですか?(笑)
「いや、経営に全く興味がないですからね(笑)。ムパタ・サファリ・クラブっていうんですけど、一応、株主会員制で一番多いときで株主が212人いました。その人達に対する責任だけでなんとか持ちこたえてきたんですけど、なんと普通はありえないんですけど、テロの世の中になって急にウチのホテルが混んだんですね。今年は黒字ですね」

●あ、そうなんですか!
「今までアフリカに対するマイナスのカードって、危険だとかインフラがどうしたとかたくさんあったじゃないですか。ところが今はヨーロッパの空港のほうが危ないといわれているし、人が少ないところのほうがテロって起きにくいじゃないですか。テロって人間に対する攻撃ですから、マサイマラの草原の中でテロなんて起きようがないので(笑)。ゾウやなんかにテロを仕掛けても仕方がないですよね(笑)。なんか急に安全に見えるらしくて、もう満杯で予約がとれないんですね。つくづくひねくれた人生だと思っていますね(笑)」

●(笑)。1992年にホテルを造られたときと、14年経った今のアフリカ・ケニアの自然って変わっていますか?
「これがもうあと10年でダメになってしまうのではないかといわれているんですね。というのは、僕が行ったときもそうだったんですけど、要するにマサイ族って本当は遊牧民族ですよね。ところが、遊牧をさせておくと国境を越えて向こうに行ってしまうので、定住政策というのがとられていて、どうなっているかというと、今やマサイ族も農耕をやっているんですね。マサイが農耕をやると、ニンジンとか野菜が出来ますよね。すると、そういうのをゾウが食べに来たりして、それをマサイのお母さんがホウキをもって追い掛け回しているっていう、ニューヨークからわざわざお金持ちが来ても興醒めの現実がそこにあるわけですね。ですから、南アフリカのクルーガとかああいうところは『夢のサファリ旅行』なんてやっていますけど、僕はどうなってもいいかなと(笑)。ま、でもどうにかなるでしょう」

●でもやっぱり、さすがアフリカですよね。“ゾウを追い払うお母ちゃん”ですからね(笑)。
「そうですね(笑)」

◎次のテーマは“懐かしい未来”
 創刊5周年を迎えた「ソトコト」、7月5日に発売された8月号は記念特大号の第3弾として、「英国流のオーガニック生活」を大特集。イギリス的なLOHAS(ローハス)、ローハスとは「LIFESTYLES OF HEALTH AND SUSTAINABILITY」の頭文字を合わせた略語で、簡単に訳すと“健康と環境保護の意識の高いライフ・スタイル”。そんなイギリスのローハスの土台をなしているオーガニック事情を紹介。イタリアのスローライフとは違う英国の暮らしを知ることが出来ます。
 そんな「ソトコト」の次なる展開について、編集長の「小黒一三」さんにうかがってみました。

「僕達はどういう社会を目指しているのかなって思ったときに、最近気が付いたキーワードが『懐かしい未来』に向かって今、我々は進んでいるんじゃないかと思うんです。で、その『懐かしい未来』っていうのは言葉では分かるけど、形では僕の中では分からないんですね。ソトコトの次のものとして、『懐かしい未来』を創る運動や仲間作りができる雑誌を作りたいと思っています」

●それは、ソトコトという雑誌のコンセプトや、テーマ的にもフィットしそうですね。
「いや、もちろんソトコトがなければ、『懐かしい未来』なんていう言葉は出て来なかったんですけど、要はソトコトが男性誌のつもりで作っているのに、読んで下さるのは圧倒的に女性ばかりなんですよ。この編集部も『ソトコトを見て手伝いたい』っていう人達ばかりなんですね。で、ある時ほとんど女性になってしまったんですね。それで、僕はずっと男子高なので気持ち悪くなっちゃって(笑)、ある日気が付いてわざと男の子を急に入れだしたんですけど、そういう意味では非常に居心地が悪いんですよね(笑)。ところが、いざ女性と仕事をしてみると『やっぱり女性のほうが正しいんだなぁ』って思ってきて(笑)、でもそういうことだと男性誌を作れないですよね。男はもうちょっと乱暴じゃないとダメなんです。あまり物分かりがよくなると、男性誌って出来なくなってしまうんですね。僕今、結婚して30年以上になるんですけど、妻には今評判いいです。こういう時はクリエイターとしては危険なときですね(笑)」

●(笑)。クリエイターとして先へ先へと目を向けている小黒さんですけど、自然環境という点でいうと、この先どうなんでしょうか?
「それこそ、レスター・ブラウンとか立派な学者さんが『もう地球は10年持たない』とか言っていますけど、僕は全く信じていないんですね。ま、CO2の影響とか多少あるとは思いますけど、この温暖化っていうのは氷河期と、暖かくなる地球のライフ・サイクルに乗っ取っていることのほうが大きいと思うんですよ。そんな悲観することなく、悲観したって自分の人生はたかだか何十年ですからね。僕みたいな人間は、自分の生きている範囲のことだけしか考えられないので、次のことは次にお願いしようと思っています(笑)」

●今日はどうもありがとうございました。
「お疲れ様でした」

■ I N F O R M A T I O N ■
■地球と人をながもちさせるエコ・マガジン「ソトコト」8月号絶賛発売中。(木楽舎/定価600円)
 1999年6月に環境をテーマにした世界初の雑誌として誕生した「ソトコト」も今年5周年を迎え、7月5日に発売された8月号では、記念特大号の第3弾として、英国流のオーガニック生活を大特集!イギリスのLOHAS(健康と環境保護の意識の高いライフ・スタイル)の土台を成しているオーガニック事情を紹介。
 尚、「ソトコト」のホームページには編集長「小黒一三」さんが設立した「ニッポン東京スローフード協会」や「小黒」さんが経営するアフリカ・ケニアの五つ星高級リゾートホテル「ムパタ・サファリ・クラブ」に関する情報なども掲載。
「ソトコト」の ウェブサイト:http://www.sotokoto.net/

■「ソトコト」の出版元「木楽舎」情報
「木楽舎」では「ソトコト」に連載中のフード・コラムニスト「門上武司」さんの『スローフードな宿』、スローフードの解説本『スローフード・マニフェスト』やイタリアのスローフードをまとめた『スローフード宣言!イタリア編』、また、東京のスローフード事情を紹介した『ニッポン東京スローフード宣言!』などスローフード関連の本をたくさん発売しています。
問い合わせ:木楽舎(TEL:03-3524-9572)
ウェブサイト:http://www.sotokoto.net/goods/hon.html


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