2004年9月5日

チャリダー・石田ゆうすけさんの世界旅

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは石田ゆうすけさんです。
石田ゆうすけさん

 世界9万5000kmを自転車で旅した、人呼んで“チャリダー”、本業はライターの「石田ゆうすけ」さんをお迎えして、7年半の旅の模様を綴った本『行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅』に沿ってお話うかがいました。

最初の予定は3年半でした(笑)

●“チャリダー”というのは、いわゆるチャリンコ・ライダーの略ですか?

「そうです」

●石田さんの本で初めて知った言葉だったんですが、いわゆる自転車で旅をする人のことですか?

「そうですね。旅仲間の間では、一般用語として普通に使われているんですが、世間には広まっていないかもしれないですね(笑)」

行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅

●石田さんが出した本というのが、1995年の7月から2002年の12月までのおよそ7年半、自転車で世界を旅したときの模様をまとめた『行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅』という本で、実業之日本社から去年出ているので読まれた方もいるかもしれませんが、インパクトがありますよね。

「そうですね。タイトルでかなり売れたかなという(笑)」

●旅に出ようと思ったキッカケはなんだったんですか?

「一番最初のキッカケは、小学校2〜3年の時に外で遊んでいたら、大学生くらいのお兄さんが、自転車に大きな荷物を積んで目の前をサーッと走っていって、『うわっ、カッコエエなぁー』って思ったんですね。ああやって自分の力でどこまでも行けるんやとか、日が暮れたところでテント張って寝るんやとか、そういうのが頭の中で広がっていって、『男のロマンやなぁ』みたいな(笑)」

●うわーっ! 男の子ー!(笑)

「そんなに暑苦しいわけじゃないんですけど(笑)、なんとなく惹かれたものがあったんです。自分は和歌山県出身なんですけど、高校1年生で和歌山県を一周したときに、『自分の足でこんなことが出来るんだなぁ』っていう可能性みたいなものがどんどん広がっていく感じがあって、次の年に近畿一周して、ここまで来たら日本一周してやろうと思って、大学の時に学校を休んで1年旅して、それで終わる予定だったんですけど、日本一周が終わるころに虚しくなっていったんですね。
 というのも、それまで日本一周という夢は自分の中で1番のものだったので、それが終わることで自分が空っぽになってしまうような感覚があって、凄く寂しい思いをして走っていたんですよ。で、最終日くらいに『なんでこれで終わりやねん!』って思った瞬間に、それまで自分の可能性っていうのを、日本の枠の中にとどめていたんやなぁって改めて気付いたんです。その時、急に日本の枠を飛び越えて、可能性が世界にバーッと広がっていく感覚があって、武者震いみたいな感じがして『せっかく生まれてきたんやったら、とことんやってやろう』っていう単純なものですけど、自分の可能性をどんどん広げていったっていうのが流れですね」

●1度は就職してサラリーマン人生を歩み、それをスパッと辞めて、7年半も旅をされたんですよね?(笑)

「本当は3年半だったんですけどね(笑)」

●本にも「最初の予定は半分の時間で回るつもりだった」と書いてありますね(笑)。でも、こういう番組を長くやらせていただくと、冒険家の方々は総じて予定通りにいかないみたいですね(笑)。

「そうなんですか!(笑) それが出来る人ならおそらくこういうこと(冒険)はしないんですよ」

●最近、私もそう思うようになりました(笑)。

「どこかルーズなんですよね」

●というか、それだけ楽しいんだろうなと思いました。1泊で次に進めばいいものを、1泊で終わらなくなっちゃうんだろうなって。

「そうですね。あとは刹那的っていえるんじゃないですかね。やはり、今が大事なんですよ。長くなった1つの原因として、気に入ったところには長く居続けてしまうんです。この本にも書きましたけど、モニュメントバレーっていう岩の前で、あまりにもキレイだったので4日間見続けたとか(笑)」

●それも朝起きて、パッと寝袋とテントを開けて景色を見た瞬間に「もう1泊しよう!」というので、長く居たんですよね。

「そうそうそう!(笑) あまりにも神々しい光景が目の前に広がっていて、今が大切なんですよね。『これをもっと見ないでどうするんだ!』っていう。そのあとの予定が遅れようが、そんなことよりも『今この景色をもっと焼き付けろ!』みたいなことがあちこちで起こってですね。だから、3年半という予定だったらアジアは走らないでおこうと思ったんですよ。あまり興味がなかったので。だけど、ここまで来て最後、アジアに行かなかったら絶対に後悔するなって思ったんです。本当は30歳までに日本に帰りたかったという思いがあったので、3年半という縛りを付けたんですけど、そんなのどうでもいいじゃないかって。今を納得しようじゃないかということで、アジアを含めてしまって長くなってしまったんですよね。だから、そういう刹那的なものはあると思いますね」

キノコ頭のキヨタ君

●石田さんを紹介して下さったのが、番組にも何度か出て下さったミキハウスの坂本達さん。彼は自転車で世界一周を有給休暇でしてしまったんですが、坂本さんとは旅の途中でお会いになったわけではないんですよね?

「途中といえば途中なんですけど、変な出会い方でしたね。日本に帰ってきて会ったんですよ。ユーラシア大陸を横断して、最後は韓国の釜山から関釜フェリーという、日本と韓国をつなぐフェリーに乗って山口県の下関に着いたんですよ。そこから実家の和歌山に向かって走り出したその日に、変な奴が自転車に荷物を積んで前から来るんですよ(笑)。海外を回っていた奴って大体分かるんですよ。臭うというか。キナ臭い臭いを発する奴が前から来るんですよ。お互いに振り返って、目と目が合ったので近づいてもう一度挨拶したら、『えっ、君が坂本君!』みたいな感じだったんです」

●じゃあ、噂として知っていたんですか?

「俺は知っていたんですよ。やはり狭い世界なので、こういう奴がいるっていうのは聞いていたんです」

●石田さんの本を読んでいると、ユニークな人が多いですよね。

「ユニークな人しか書かないですからね(笑)」

●確かに話のネタになるのはユニークな人(笑)。私、石田さんが旅仲間になった人達の中で印象に残っているのが、キノコ頭のキヨタ君。

「これ以上インパクトのある奴はいないなっていう奴で(笑)、最初はカナダで会ったんですが、テントを張ってから買物をしにスーパーに行って、キャンプ場に帰ってきたんですよ。そしたら、新しいテントが僕のテントの横に張られていて、『他にいくらでも敷地があるのに、なぜあんなにそばに張っているんだ!』と思って頭に来てガーッと行ったら、テントの中からパッと出て来たのが、メチャメチャデッカイ頭をしているんですよ(笑)。今で言うたらパパイヤ鈴木さんですか(笑)。それがナチュラルで、ボサボサの頭でボカッと出てきて、遠くからシルエットを見たらキノコみたいな感じなんですよね。で、話をしたら彼も自転車で世界一周をしていると言っていて、こっちは何も聞いていないんだけど、自己紹介を始めたんですよ(笑)。その自己紹介が彼の小学校時代から始まるんですよね(笑)。野球をしていたらしくて、『僕は4番でキャッチャーで・・・』っていう話から始まって、それからずーっと彼の人生が語られたんです(笑)。『オーストラリアに行って人生観が変わって・・・』とかって言っていて、『だから自転車で世界一周に出たんだ』っていう話が4時間か5時間くらいずーっと続いたんです(笑)」

●キヨタ君とは日本に帰ってきてからも会ったんですか?

「実は会っていないんですよ」

●連絡を取り合ったりとかもしていないんですか?

「連絡は取り合っています。つい最近本も送りました」

●でも、会ってはいない?(笑)

「なんか彼とは偶然に再会を繰り返しているんですよね。この旅を通してあちこちで7回か8回くらい再会しましたね。待ってたときもありますけど、本当に偶然会ったこともしょっちゅうあったので、彼のところに訪ねていくっていうのはちょっと違う気がして、どこかでまた再会したいなみたいなね」

●旅の途中でたくさんの人達と出会って、たくさんの思い出を作られましたね。

「そうですね。思い出は財産ですね」

●アフリカに行かれたときも、国立公園内だから野生動物達が近くで寝ていたこともあったそうですね。

「そうですね。地元の人には『この先へは行くな! ライオンがいるぞ』って散々言われたんですけどね。『冗談だろ』と思って、行ってみたら本当にいましたね(笑)」

●でも、そういうところを車ならともかく、普通チャリンコで行かないでしょ?(笑)

「いや、そこしかないんですよ(笑)。だから、自転車旅行者はみんな通ってますよ」

●そうなんですか!

「シマウマとかキリンとかたくさんいるので面白いですよ」

●私もアフリカへ行ったことがあって、シマウマの間をジープで走ったりすると、自分も群れの一部になったような感覚になるんですけど、自転車だったらより一層そうなるんだろうなって思いました。

「自転車だと『同じところにいる』という感じですよ。近くで見ると野生のライオンって凄くキレイなんですよ。ご覧になりましたよね? 凄くしなやかな体をしていませんか?」

●してるんですよ。触りたくなっちゃうんですよね。

「そう! 美しいんですよね。だから、見とれてしまったんですけど、ハッと我に返って、間近にライオンがいて自分が自転車ですからね(笑)。『これ、危険なんちゃうかな?』って地元の人に聞いたら『危険だよ』とか言いやがって(笑)。『先に言えよ』って思いながら逃げましたけどね(笑)」

●今回は7年半の旅ですから、楽しい思い出も、恐い思い出もあると思うんですけど、全体を振り返ると楽しい思い出の方が多いですか?

「そうですねぇ・・・、振り返ると楽しい思い出が残っていたりしますね」

自転車の旅は計算をしないこと

●『行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅』のあとがきにも書いてあるんですけど、オーストラリアに行っていないんですよね?

「ええ、そうです」

●世界一周といってもその部分は走っていないから、いずれはという感じですか?

「そうですね。また走りたいと思っています。今はまだ帰ってきたばかりなので。モチベーションが上がってきたらオーストラリアでもいいし、シベリアにも行っていないし、自由にやっていこうと思っています」

●この放送を聴きながら「俺も行ってみたいな」って、行こうと思っている方もいらっしゃると思うんですよ。そういう方への注意点やアドバイスはありますか?

「チャリダーとしてでしたら、まず自分で1日に何km走って×日数=どこまでいけるという計算をしないことですね」

●計算しないこと?

「うん。それをすると走ることが義務になってしまうんですよ。『本を読んで、自転車旅行を始めました』とかメールをいただくんですけど、『キツかった』っていう印象が残っている人が多いんですよね。みんな短期間でここまで走るというプランをたててしまって、移動手段になってしまっているんですよ。そうではなくて、行けるところまで行けばいいという感覚で旅をするといいと思うんですよ。むしろ、どこまで行くという目的地を決めないくらいでいいと思います。1日大体100km走れるんですよ。なので、10日あったら1000kmだからここまで行こうと決めるよりも、10日間をどう過ごすかという考え方がいいと思うんです。観念的ですけど、それって凄く大事だと思うんですね」

●「10日間でどこまで」という地名を出すよりは、10日間で1000kmくらい走れるから、北に向かって行ってみようという漠然とした決め方で、10日間たってここまで来た。この町の名は? みたいな感覚でいいということですね?

「そうです。自転車旅行は単純に疲れるので、特に決めないほうがいいですね」

●石田さんの本に、長旅のための荷物を積むとかなりの重さになるので、それを漕いで走るのに慣れるまで、1週間くらいかかると書いてあったんですが、チャリダーとして旅をするのであれば、10日では短いということですよね。

「うーん、個人差はあるんですけど、本当にキツイのは3日間なんです。3日を越えると慣れてくるんですよ。ただ、10日よりも1カ月の方がベターですし、1カ月よりも1年の方がベターなんですよ。1カ月と考えた場合、最初の1週間を越えれば楽っていう感覚ですね。1年と考えた場合は、最初の1カ月はキツイけど、あとは楽っていう感覚での目安です。だから、体力的にキツイのは3日だけですので、1週間あれば十分ですよ。少なくとも勧めないのは、3日間だとキツイだけの旅になる可能性は強いです」

●じゃあ、3連休を使ってどこかへ行こうと考えないことっていう感じですね。

「それはそれでいいと思いますよ。達成感という旅ですよね。それは目的地を決めてここまで行って、出来たっていう達成感は喜びですので、それはありだと思います。ただ、旅の形が違いますね」

生きていることが奇跡のように見えた

●石田さんの本に書かれていた、目的の1つとして「一番すごいものをみたくて、感じたくて」旅に出たわけですけど、見つけましたか?

「見つけたって言うと簡単すぎますけど、自分の中ではありましたね」

●私もこの本を読んでいて、「もしかしてこれかな?」って思うものを読み取ったんですけど、それが果たして同じかどうかというのは分からないんですが、私は一番最後に書かれていた「生きていることが奇跡のように見えたような気がした」っていう部分かなと思ったんです。

「まさにそうです!」

●生きていることが見えるってすごいなって思ったんですが、これはきっと旅で色々な思いをして初めて見られるものなんだなって感じたんです。だから、もしかしたら私は死ぬ寸前まで、その奇跡のような感覚っていうのを見られないのかもしれないなとか、色々考えたんですよ。生きているということがあまりにも当たり前になってしまっていると感じたので。この奇跡を感じたら究極のものを見つけちゃったんじゃないかなぁ。次はどうするんだろう?(笑)

「アハハハ(笑)。手段はどうでもいいと思うんですよ。その時感じた瞬間が唯一のものではないと思っていますしね。実際、ライター業を始めて、ここだけの話、ってこの放送流れますけど(笑)、今出版不況で本を出すまで大変だったんですよね。ただ、本が出るって決まったとき、本を実際に書店で見たときの喜びっていうのはすごく嬉しかったし、違う形ですけどそういう時にも生きている実感を味わえるわけですよね。そういうのがたくさんあればあるほど、いい人生かなって思える。だから、これからそういうのをどんどん見つけていきたいなと思います」

●命について改めて考えさせていただきました。ありがとうございました。

「こちらこそありがとうございました」

●とんだ締め方ではございますが(笑)、石田さんは次の本も近々発表するご予定だそうですね?

「はい。9月か10月くらいには出せると思います」

●それはどういう本なんですか?

「これも7年半の旅のことなんですけど、1回目の『行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅』は、世界一すごいものを見つけてやろうっていう宝探しの感覚で、話が時系列で出発からゴールまで進んでいって、最後に見つけたのはなんだったかっていうプロット(筋書き)なんですけど、今回は世界一というものに焦点を当てて、色々な世界一を並列に並べていく感じになっています。世界一汚かったトイレとか(笑)、世界一美女が多かった国とか、美味かった飯、不味かった飯、世界一寂しげなところとか色々書きましたね。そういうのが目次にズラーッと並んでいて、好きなところから読めるようになっています」

●それは、“石田さんから見た”世界一?

「もちろん。独断です」

●新しい本がもうすぐ出るということで、楽しみにしています。じゃあ、石田さんはしばらくは旅には出ずに、執筆活動、ライター業をしているということですね。

「そうですね。こちらの旅をします」

●今日はどうもありがとうございました。

■このほかの石田ゆうすけさんのインタビューもご覧ください。

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■チャリダー「石田ゆうすけ」さん情報

行かずに死ねるか!〜世界9万5000km自転車ひとり旅
実業之日本社/定価、1,575円
 「石田」さんにとっての世界一を求めて約7年半自転車で世界を旅した時の模様を綴った本。強盗に襲われたり、マラリアで苦しんだりしながらも、世界中で素晴らしい出会いを経験。涙と笑いのエピソード満載!
 

 「石田ゆうすけ」さんのホームページには本の紹介や旅の概要をまとめたページ、近況報告などが載っているほか、講演活動もなさっている「石田」さんへの依頼の詳細なども掲載。
ウェブサイト:http://www2.ocn.ne.jp/~yusuke1/index.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. THESE DAYS / JACKSON BROWNE

M2. TRAVELLING BOY / ART GARFUNKLE

M3. WE ARE THE CHAMPION / QUEEN

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. CIRCLE IN THE SAND / BELINDA CARLISLE

M5. SOMEWHERE IN THE WORLD / SWING OUT SISTER

M6. WILD CHAILD / ENYA

M7. IN MY LIFE / CS&N

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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