2004.10.17放送

どうなる地球温暖化! WWFジャパン山岸尚之さん登場


 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは山岸尚之さんです。

 今月1日に新聞各紙が一面に「京都議定書、来年にも発効ロシア 批准を閣議決定」というニュースを一斉に報じました。これは地球温暖化問題を左右する大きな動きといえます。そこで(財)世界自然保護基金ジャパン、通称WWFジャパンの気候変動担当オフィサー「山岸尚之」さんを再びゲストにお迎えし、京都議定書のことや各国の対応についてうかがいます。

◎京都議定書とは?
●前回、話題になった映画「デイ・アフター・トゥモロー」。「映画の中の話だろう」と思っていても、今年の夏の暑さを思いだすと、温暖化という問題を直視しなければいけないと思いました。
「今年の夏は僕個人としても『何なんだろう』と思うことはありました。台風が東から西に移動したりとか、この時季に来ている台風の数としてはそんなに多くないと思うんですけど、日本に上陸した数は多いですし、ご指摘の通り暑い日がずっと続いていたっていう個人的には『これはおかしいんじゃないか』と思う部分はありましたね。
 でも、これを科学的に『温暖化のせいだ!』って断言できる人はなかなかいないと思うんですよ。これは単純に科学の立場として今年に起きたことを十分に検討しないままに『これがこうだから温暖化のせいです』と言うのはなかなか難しいと思うんですよ。だけど、10年後か20年後くらいになって『この時点で既にこういう変化が起きていたんだ』っていう言い方はされるかもしれないですよね。
 つい先日、開かれた気象学会とかでも、温暖化の影響が今後100年間、日本の気象にどのような影響を与えるのかという研究があって、それによると台風の数は2割くらい減るかもしれないと。だけど、台風の勢力は大型のものが増えるという、嬉しいのか怖いのかよく分からない研究結果が出されているんですよ」

●そういった中で、「ロシアが京都議定書を批准!」とか、「京都議定書、来年にも発効!」という記事が新聞にも出たりして、温暖化問題が身近なものになってきているんだなと感じるんですが、今更ではありますが京都議定書というものを簡単にご説明いただけますか?
「はい。京都議定書というのは、みなさんご存知の通り1997年に京都で採択された国際条約で、その内容を一言で言えば温暖化防止をするために各国が温室効果ガスを削減しなきゃいけませんねということを約束した条約なんですね。温暖化に関する条約というのはそれ以前にもありまして、1992年に採択された国連気候変動枠組条約というやたらと長ったらしい名前の条約があるんですが(笑)、それが温暖化問題について話し合わなくちゃいけませんねということを決めた条約で、それに基づいて毎年会合が持たれて、それの第3回会合(通称COP3)が京都で開かれた。で、その時に何をしなければならないかが具体的に決まったのが京都議定書なんですね。
 ただ、国際条約の難しいところは、特に京都議定書のように重要な条約でなおかつ参加する国の数が多い条約っていうのは、ただ単に採択すればそれでOKで効力が出てくるというものではなくて、各国が一度国々に持ち帰ってちゃんと批准をする。大体、多国間条約というのは条約自身の中に、『このくらいの国々が批准をしたら効力を持ちますよ』ということが書いてあるんですね。その条件はものによって違うんですけどね。 京都議定書の発効条件というのが2つありまして、1つ目が批准した国の数が55を越えるということ。これは難しくない話で、今、京都議定書を批准している国というのが126カ国あるんですよ。なので、それはクリアしています。だけど、もう1つの条件が非常にトリッキーで、批准をして削減目標を持っている先進国の1990年時の排出量の合計が、世界全体で55%を超えていることという条件がついているんですよ。で、みなさんご存知のように2001年の3月にアメリカが嫌だといって京都議定書からそっぽを向きましたよね。1990年の時点でアメリカの排出量は36%を占めるものなので、アメリカが抜けちゃうと、それ以外の主要先進国が批准をしないと55%を超えることは出来ないんですよ。日本もEUも批准をしていますし、残るはロシアの批准だけが待たれていたという状態だったんですよ」

◎日本が手本になろう!
●ここで、京都議定書に関する疑問をいくつかぶつけてみたいと思うのですが、まず、議定書が発効されるまで結構時間がかかっていますよね。これはなぜですか?
「先程、具体的に何をやるかを決めたといいましたけど、京都議定書の枠組みたいなところがありまして、要するに『温室効果ガスをこれくらい削減しましょうね』ということは決めたんですけど、じゃあそれをどういう風にやって、守れなかったときはどうするのかとか、そういう具体的なルールがまだ決まっていなかったんですね。それを話し合う会合というのがその後何回かもたれて、COP7(第7回締約国会議)の時にマラケシュ合意という合意が出来て、そこでルール・ブックが完成したんですね。で、それが終わりそうなメドが立って初めてEUも日本も批准して今に至るんです」

●日本って削減の目標を超えていないんですよね?
「おっしゃる通り非常に心配なところでして、2002年の段階の統計が一番新しいんですけど、2002年の時の日本の温室効果ガスの排出量というのが、京都議定書で定めてある基準年(1990年)というのがあるんですが、そこから比べて7.6%増えているんですね。じゃあ、京都議定書の中で日本の目標はいくつかというと、新聞などでご存知かも知れませんけど、6%削減なんですよ。ということは、2002年のレベルからどれくらい下げなくちゃいけないかを計算すると、12.6%減らさなくちゃいけないんですね。明らかに温室効果ガスの排出の傾向としては、目標達成の方向には向かっていないんですよ。だから、非常に危機的状況ですね」

●温室効果ガスの排出という点では中国はどうなんですか?
「その辺を疑問に思われる方って非常に多いと思うんですね。現に、2001年の世界の排出国のTOP5をあげていくと第1位がアメリカ、第2位が中国、第3位がロシアで第4位が日本、そして第5位がインドという並びになっているんです。じゃあ、『なぜ第2位の中国や第5位のインドが京都議定書のもとでは削減目標を持っていないの?』と疑問に思われる方は多いと思うんですよ。ですが、それはもし今温暖化が起きているとすれば、その原因を作ってきたのは紛れもなく先進国だろうと。途上国、特に90年代以降の中国なんかを見ると経済がブワーッと成長してすごい感じに見えますけど、もし、今温暖化が起きていてそれが大変なことになりそうになっているのだったら、そもそもの原因を作り出してきたのは、当初から発展していた先進国じゃないかと。
 で、国連気候変動枠組条約っていう長ったらしい条約にも(笑)、共通だが差異のある責任原則というのがあって、地球温暖化問題を解決しなくちゃいけないよという意味では、共通の責任を持っているんだけど、その責任の重さには差異がありますよね。まず、先進国がそれを示さなくてはいけないということなんですよ。で、その考え方に基づいて今回の、少なくとも2008年から2012年をカバーする京都議定書の中では、先進国のみが削減目標を持ちましょうと。途上国は少なくとも今回はなしということなんですね。そういう取り決めになったから京都議定書の中では入っていないんです」

●じゃあ、今後このままの状況で中国が進むと、京都議定書の次の場で引っ掛かってくる可能性はあるわけですね?
「そうですね。何らかの形で国際的な枠組の中に入っていただいて、それで削減の努力をしてもらうっていうことは必要になってくると思いますね。ただ、そのためにも必要なのは日本とか、本当はアメリカと(笑)、EUが着実に削減努力をしているんだっていうのを見せる必要があると思うんですよ。本来は、アメリカにやってもらわないと大変困るのですが、それだからこそ日本は頑張って環境先進国としてそういう範を見せていくと。なおかつ、それが決して経済成長にとって阻害するものではなく、むしろ環境と経済というものが相互を補い合って成長していくものなんだということを、自らの身をもって証明していく。それで中国を説得していくというのが必要だと思いますね」

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 私たちは普段、地球を取り巻く大気を自由に使い、「二酸化炭素」をどんどん排出。そこにはコスト感覚は全くなかったわけですが、「地球温暖化問題」が深刻な状況になったきたことで、経済的な手法を持ち込む必要に迫られています。
 その代表格が「環境税」と「排出量取引」。両方に共通している特徴は、「二酸化炭素」の排出に対して、価格を付けること。「環境税」では、「炭素」を排出したら、決められたお金を払う。一方、「排出量取引」では、「炭素」を排出するには「許可証」が必要になり、その許可証は、市場で売買できる、というものなんです。
 この「排出量取引」をもう少し詳しく説明すると、例えば、A社とB社という2つの会社があって、それぞれ1年間で排出する「二酸化炭素」の量が「10」ずつだとしましょう。それが「排出量取引」の約束によって、それぞれ「8」に減らさなければならないとします。A社は、排出を削減するのが簡単な会社で、安いコストで「6」まで削減。一方、B社は削減するためには多大なコストがかかるのでまったく削減できずに「10」のままだとします。このままだとB社は約束が守れませんよね。
 ところが、「排出量取引」を導入すると、安いコストで目標より「2つ」多く削減したA社は、その分をB社に売ることができ、その結果、目標より「2」多かったB社はコストをかけずに、約束を守れたことになるんです。つまり、「排出量取引」を導入すると、より多く削減した会社はその分を売ることができます。
 さらに「排出量取引」には、もうひとつ大きな意味があります。
 例えば、A社は1削減するのにコストが100円かかるとします。B社は1削減するのにコストが200円かかるとします。さっきの例でいくと、A社もB社もそれぞれ「2」削減しなくてはいけません。A社の削減コストは100円×2で200円、B社の削減コストは200円×2で400円。A社とB社だけで社会で成り立っているとすると、200円+400円で600円。つまり社会全体で二酸化炭素の削減にかかったコストは600円になります。
 ところが、取引があった場合、A社は「6」まで削減したので、10−6で「4」、つまり削減コストは100円×4で400円。B社はまったく削減できなかったので、当然削減コストは0円(A社にお金を払ってはいますが、その分をA社でやったとみなします)。
 さっきのコストと比べると、取引があった場合は社会全体で削減にかかったコストは400円、ない場合は600円。取引があるほうが社会全体で200円得をしたことになります。つまり、削減するための社会全体のコストも小さくできるということなんですね。
 そんな「排出量取引」という方法を考え出したのは、実は、アメリカ。以前、工場の排煙を削減するために、企業間の「排出量取引」を進めたら、うまくいったという実績があり、そこでアメリカは「京都議定書」の交渉過程の途中で、この「排出量取引」を、国際的なレベルで実行しようと提案しました。
 温暖化を防ぐために、経済的なコストがかかることは仕方がないので、そのコストをなるべく小さくできるように、国も地域も、企業も個人も、工夫してやるしかないところまできているのではないでしょうか
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◎アメリカの環境行政
●究極の質問です! アメリカはどうなっちゃうんですか?
「極めて現実的な見方をしますと、今ちょうど11月に大統領選がありますよね。ブッシュが勝つかケリーが勝つかということになっていて、ブッシュ大統領はみなさんご存知の通り気候変動問題に関しては極めて後ろ向きな方なので、ブッシュ大統領が再選した場合は現状がそのままという形だと思います。ケリーさんが大統領になった場合はどうなるかというところが疑問だと思うのですが、実はケリーさんになったとしてもアメリカが京都議定書に戻ってくるということは、まずないだろうといわれているんですね。 それはいくつか理由があって、アメリカの排出量が京都議定書の目標を達成するには遠く及ばないレベルで増加し続けていて“今さら”というところがあるんですね。排出の動向が非常に悪いというのと、もう1つは先程批准が大事だという話をしましたけども、アメリカでもそれは同じでして、議会の批准がないと最終的にアメリカは条約を締結したということにはならないんですね。1997年の京都議定書が採択された年の段階で、アメリカでバード・ヘーゲル決議というのが出されていて、その決議の中で途上国の意味ある参加なくしては京都議定書を批准しないぞという意見を、議会が全会一致に近い形で出していたんですよ。だから、そういう決議が議会で出されているという時点で、アメリカが批准をするというのはかなり確率としては低いものだったんですね。
 ただ、こういう暗い話ばかりをするのも何なので別の側面から見てみますと、アメリカがすごく面白いのは連邦政府レベルでやっていることと州のやっていることが全然違ったりするところで、東部の何個かの州が一緒になって排出量取引を始めようと動き出しているんですね。『州レベルで動いたってアメリカ全体で動かないと意味ないじゃん』って思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は世界の排出量のランキングの中に東部何州かのものを入れてみると、確か5位か6位くらいのランクに食い込んでくるくらいの排出量になるんです」

●その州だけで?
「州全体の排出量を加えるとね。アメリカって面白いのがボトム・アップで色々な動きが出てきて、最終的に連邦政府が調整せざるを得なくなって、連邦政府としても『州が勝手にここまでやっているんだったら、統一して何かを作らなきゃダメだ』ということになる可能性があるんですね。アメリカの環境行政ってそういうところがあって、州レベルで色々な取り組みがどんどん進んでいって、最終的には連邦政府が取り組みを決めるということが結構ありますね」

◎今後の京都議定書の動き
●ロシアが京都議定書を批准したとして、実際に国際協定としてはいつくらいに発効されて、それがどうなっていくのか、この先の流れを教えていただけますか?
「昨今の報道でロシアが批准しそうだという話は、プーチン大統領が批准の文章を準備しなさいねということを閣僚に命じて、閣僚が批准の文章を用意して、最終的に今月中にも議会に提出するかもしれないということなんですよね。で、議会が批准をすると、ロシアのWWFの内部の情報によれば、早くて11月上旬くらいに議会が批准の決議を出すんじゃないかということなんです。で、ロシアが批准したとなったら、京都議定書の中の決まりで批准したあと90日後に京都議定書を発効しますよと言っていますね。そうすると今度は、90日後というと大体2月くらいですよね。一番早くてそれくらいに発効します。
 発効するとなると、今まで京都議定書はただの紙だったんですが、これが国際条約として効力を持つということになると、2008年から2012年までに6%削減しなくてはいけませんねという、日本にとっての約束が国際的にも効力を持ったものになる。だから、日本は当然2008年から2012年の間に6%削減しましょうという約束を守るために色々努力をしていかなきゃいけませんね」

●もしも、日本が決められた約束事を守れなかった場合、国として日本が罰せられたりするんですか?
「それも難しい問題で、京都議定書みたいなタイプの条約の場合は、守れなかったらどうするのかということ自体が、本来は京都議定書の中に書いてあるはずなんですが、京都議定書の中の書かれ方はそれが十分ではないんですね。で、結論から言うと罰則は具体的に決まっていないんです。
 今のところ考えられているのは、排出が目標よりも超過してしまったら、超過分に対して1.3倍をかけて、その1.3倍をかけた分を次の削減期間でさらに削減しなくちゃいけないんですね。そういう仕組みが議論されているところです。例えば、6%削減ということは今の排出量が100だとすると、2008年から2012年の段階で94に減らさなければならないということですよね。それが仮に2増えて96になってしまったとします。そしたら、2に1.3をかけて2.6の分だけ次の約束期間、2013年以降に追加されてしまうという罰則です。そのほかにもいくつか細かいものがあるんですが、それが主なものになります」

●それに加えて個人個人の積み重ねも大事だと思うのですが、以前山岸さんにWWFジャパンでは一般の人達も参加できるキャンペーンを考えているとうかがったんですが、秋も近づきましたしどうなりましたか?(笑)
「非常にあせっているところなのですが(笑)、今、一生懸命その企画をしているところでして、発足自体はおそらく11月30日辺りになるかなと思いますので、是非みなさんその辺りに“WWFジャパンが何かやった”というニュースがどこかで流れていないかを、新聞なりウェブ・サイトなりをチェックしていただけたらと思いますのでよろしくお願いします」

●では、フリントストーンでは11月30日近辺に山岸さんに直接お電話します!(笑)
(笑う山岸さん)

●情報を教えていただきたいと思います。
「ええ、心臓に悪いですけど(笑)、大変ありがたいので是非ご連絡下さい」

●私達も楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
「どうもありがとうございました」

■ I N F O R M A T I O N ■
■(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)情報
 1971年にその活動をスタートさせたWWFジャパンでは様々な角度から自然保護活動を行なっています。そしてそんなWWFジャパンでは国内外で行なっている自然保護活動をサポートしてくださる会員を募集中。詳しくは電話で問い合わせるかホームページをご覧下さい。
問い合わせ:(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
TEL:03-3769-1241
ウェブサイト:http://www.wwf.or.jp/

■WWFジャパン〜地球温暖化
 WWFが現在特にに力を入れている活動の1つが、地球温暖化の防止。ホームページ内では温暖化がなぜ起こるのかに始まり、温暖化になるとこんな影響があるという予測や京都議定書のこと、そしてWWFで行なっているキャンペーンなどを掲載。また現在、一般の方にもっと地球温暖化問題について関心を持ってもらうための方法も11月下旬には決まる予定。
WWFジャパン内地球温暖化に関するウェブサイト:http://www.wwf.or.jp/climate/

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