2005年3月27日

加藤則芳さん、いよいよアパラチアン・トレイルに挑戦!

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは加藤則芳さんです。
加藤則芳さん

 自然保護の父、国立公園の父といわれるジョン・ミューアと、その功績をたたえて名付けられた、アメリカ西海岸にあるロング・トレイル「ジョン・ミューア・トレイル」を日本に紹介した「加藤則芳(かとう・のりよし)」さん。そんな「加藤」さんが10年来あたためていた計画をついに実行に移します。その計画とはアメリカ東部にある全長3500キロの超ロング・トレイル「アパラチアン・トレイル」を約6ヶ月かけて完全踏破すること。出発を前に心境や行程、その魅力についてうかがいます。

ワッペンのために3500キロを歩く!?

(上)アパラチアン・トレイルの
ルート・マップの一部
(下)広げるとこんなに長い!
さすが3500キロ!?
アパラチアン・トレイルの地図1
アパラチアン・トレイルの地図2

●最近、引っ越されて「森住みのものかき」ではなくて、「街住みのものかき」なったそうですが(笑)、今、ある計画を実行に移そうとされているそうですね。それは、アメリカのロング・トレイル、アパラチアン・トレイルを踏破するそうですが、このトレイルについて説明していただけますか?

「はい。アメリカの東側にありまして、みなさん、アメリカの地図を頭に思い浮かべて欲しいんですが、アパラチアン山脈というのが南はアラバマ州から、北に延びてカナダのラブラドール地方にまで延びる巨大な山脈があるんですね。これがアパラチアン・マウンテンなんです。ジョージア州からメイン州まで14の州にわたって3500キロの超ロング・トレイルがあるんですね。これが、アパラチアン山脈の稜線部分をアップダウンを繰り返しながら3500キロ延びているトレイルなんです。この全行程を一気に歩こうという計画なんです」

●この一気に歩くというのがキモなんですよね?

「そうです。以前、この番組でもアパラチアン山脈をテーマにお話をさせて頂いたんですが、その時はセクション・ハイキングという形をとったんですね。ある雑誌の企画で3年くらいかけて最終的に歩き通そうということだったんです。という、雑誌の考え方で始めたんですけど、とりあえずセクションで歩いて、それが終わったらまた一気に歩こうということも考えていたんですけど、その雑誌が途中で休刊になってしまって、企画自体が頓挫してしまったんですね。で、ようやく実現という段階になったんです。
 アメリカでは一気に歩くという意味なんですけど、これはスルー・ハイクっていう言い方をするんですね。アメリカのバックパッカーの間でアパラチアン・トレイルを歩くということは、究極の歩きなんですね。で、セクション・ハイキングで最終的にトータル3500キロ歩いてもそれはそれなりにすごいことなんですけど、一気に歩くとスルー・ハイカーって呼ばれます。マイルでいうと2200マイルなんですけど、2000マイルとして、一気に歩いた人のことをトゥー・サウザンズ・マイラーっていうんですね。で、アパラチアン・トレイル協議会というのがありまして、そこが一気に歩いた人に対してワッペンを作ってくれるんですよ。このワッペンが欲しくて歩くっていう、子供みたいなもんなの(笑)」

●(笑)。ちなみに2000マイルっていうと、日本で例えるとどれくらいの距離になるんですか?

「実際は2200マイルくらいです。キロでいうと3500キロなんですけど、北海道から九州まで日本を縦断する。それも、山の中を歩くということです。南アルプスの割と低いところの森林地帯のアップダウンを延々、北海道から九州まで歩くといった感じです」

●楽しそうー!(笑)

「前のセクション・ハイキングの時に、南部の850キロを歩いたんですね。その850キロというのはどういう距離かというと、東京から山口県までの距離なんですよ。特に南の方というのは、標高が割と低いんですね。日本と割と植生や気候も似ていまして、雨が多い。日本の森を思い浮かべていただくと分かるんですけど、日本の森林地帯をアップダウン繰り返しながら、東京から山口まで歩いたというのが850キロなんですよ。 で、今回スルー・ハイキングをするのにそれを含めて一からやり直すんですけど、850キロを実際歩いていますから、その時にイメージがあるんですね。それを考えると腰が引けます(笑)。3500キロという距離は分からないんですよ。ずっと計画たてて色々考えて装備や食料をそろえたりと色々やっているんだけど、あまりにも長すぎて感覚的によく分からないので、まぁなんとかなるだろうって感じなんだけど(笑)、850キロという距離を考えると具体的に腰が引けています」

●ほんの一部を思い出しただけでも腰が引けてしまうんですから、果たしてこの先どうなるんだろうって感じになりますよね。で、その先にワッペンが待っている・・・(笑)。

「ワッペンだけじゃないですけどね(笑)。でも、『ワッペンが欲しい』っていうのがいいなぁって自分では思っているんですけどね(笑)」

●私もそれがすごくいいような気がします(笑)。期間的にはどれくらいかかるんですか?

「実際には6カ月かけて歩くんですけど、当然6カ月分の食糧を持って歩くわけにはいかないですよね。前もって食糧を送っておくんですね。3500キロですから、麓には無数の町や村があるわけです。そういうところの郵便局に、今の予定だと30カ所くらいに前もって送っておくんですね」

●それをピックアップしながら進んでいくんですね。

「そうです。それが、下りたときにシャワーも浴びたいですからホテルなりモーテルなりに泊まって、食事は毎日フリーズドライですから栄養補給もしないといけないのでステーキも食べて、ということを繰り返すと、町に下りるのが30回で1カ月ですから合計で7カ月ということになります」

25キロを背負って、1日に25キロ歩きます。

 さて、4月1日に南から全長3500キロのロング・トレイルを歩き始める加藤さんの旅には、実はタイムリミットがあるんです。というのも、最終ポイントであるメイン州のマウント・カタディンは10月15日にはクローズしてしまうんです。つまり、その日までに歩き通さなければスルー・ハイクにならないということなんです。そんな、ただでさえ過酷な旅に、実は加藤さんは今回、もう一つの使命をもって挑むんです。

「今回はモバイル・コンピュータを持っていくんです。それで、毎日歩きながらメモをとるんですね。で、その晩テントの中で1日のジャーナルをまとめるんです。町へ下りたときに、場所によってはないところもあるんですけど、大体インターネットに繋ぐ環境があるんですね。そこで、BE-PALという雑誌のi BE-P@Lというインターネット版があるんですけど、そこに週に1度か10日に1度ずつくらいジャーナルを送るということを繰り返すんです」

●ということは、我々は日本にいながらにしてi BE-P@Lを通して、加藤さんの進み具合を知ることができるんですね。

「そうですね。1週間から10日に1度くらいずつになってしまいますけど、1週間10日遅れの臨場感は味わえると思います。戻ってきてからも雑誌に書いたり、最終的には本にまとめるんですけどね。それはそれで戻ってきてキチッとしたものをまとめるんですけど、歩きながら書くっていうのはまさに臨場感の面白さですよね」

●今、私の横には加藤さんの旅の計画表があるんですけど、細かいですね。1日に何マイル歩くというところから始まっているんですが、キロでいうとどれくらいなんですか?

「平均25キロです。日本の山で平均25キロ歩くっていうことは絶対に考えられないことなんです。アメリカでも本当は考えられないことなんですけど(笑)、そのくらいのスピードで歩かないと到達しないんですよ」

●無理があるっていうことなんですか?

「でも、だんだん慣れてきちゃうものなんです。最初はちょっとキツいですけどね。リズムを掴んでくるとそれくらいできるようになっていくんですね」

●途中で食糧をピックアップするっていっても、1週間分くらいは持ち歩いているわけですよね。そのバックパックの重さはどれくらいになるんですか?

「仕事ですから機材を持っていかなくちゃならない。それを除いて20キロが今の目標なんですよ。昨日、機材を全部量りましたらほぼ5キロでした。だから、合計で25キロ。これは普通のバックパッカーより5キロはハンディを負わなきゃいけない」

●話をうかがっているだけでも、うらやましい反面、「なぜ、そんな思いをしてまで行きたいんだろうなぁ」って思っちゃうんですよ(笑)。

「バカですよね(笑)。自分でも思いますね(笑)。歩くことがもともと好きだったんですね。子供の頃から山を登ってましたからね。ただ、私は、バックパッカーっていう言葉に対する一般の人のイメージというのは、バックパックを背負ってインドとかネパールとかを放浪するヒッピーみたいなイメージだと思うんですけど、確かにそれが一般的かもしれないですけど、私の場合はバックパックを背負って自然の中に入ることなんですね。普通の道を歩くことに興味はないです。人より自然が何倍も好きなんだと思います。走るように歩いていても、周りにあるものを見逃していないと思います。見逃したくないっていう気持ちがすごく強いんですよ。それだけ自然が好きなんだと思います。花やそこにいるちょっとした昆虫まで見逃したくないっていう気持ちがあるんですよ」

自然を見て歴史や政治を知る!?

加藤則芳さん

●自然って優しい面もあればすごく厳しい面もあるじゃないですか。でも、反対にすごく心が休まる風景だったり、出会いもあるんですね。

「アパラチアン・トレイルの本当の良さっていうのは、実は自然もそうだけど人なんですね。それはどういうことかというと、人、文化、歴史という言い方をしていいと思うんですね。つまり人文科学的な、社会科学的な面白さなんです。これが、他のトレイルとは一味もふた味も違うところなんですね。それは、先ほど言いましたように、アパラチアン山脈は東側にある大きな山脈なんですね。
 で、ピルグリム・ファーザスが初めてヨーロッパからアメリカのボストン郊外に上陸して以来、どんどんヨーロッパ人がアメリカに移住してきましたよね。それで、どんどん内へ移住していくと、そこに立ちはだかっていたのがアパラチアン山脈で、これが障壁になっていたんです。この障壁に向かって西へ西へ向かっていった人達がそこに吹き溜まっていったんですね。吹き溜まって200年もそこにいると、当然ひとつの文化が生まれてくるわけですよ。で、それがあるときオーヴァー・フロウするわけです。オーヴァー・フロウして一気に有名な西部開拓が始まっていくわけです。そういう場所なんですよ。だから、アメリカの歴史と文化の吹き溜まりなんですよ」

●それが歩きながら感じられるんですね。

「歩きながら感じられるのと、先程からお話ししているように2002年にセクション・ハイキングしたときは、車で山麓を巡って取材をしたんです。で、それは主に南側なんですけど、南側の山麓はかなり取材して段ボール6箱分の資料は持っているんですね。それが全部宝なんですよ。例えば南北戦争をひとつとっても、面白い歴史が山麓にたくさん散らばっている。
 前に話しましたが、ブルー・グラスというジャンルがあるんですけど、それのもとになったマウンテン・ミュージックとか、アパラチアン・ミュージックという音楽のジャンルがあるんですね。これがメチャクチャ面白いんですね。麓に人口が200〜300人の小さな村があるんですけど、いまだにそういう村で毎週金曜の夜や土曜の夜に、小さなジェネラル・ストアーでジャンボリーが行なわれるんですね。そこへ、おじいちゃんやおばあちゃんが集まってきて、ギターやフィドル(ヴァイオリン)やバンジョー、マンドリンを弾いて、独特な楽器もあるんですね。そういうのを弾きながら演奏して、クロッキー・ダンスというアイリッシュ・ダンスの流れを汲んでいる踊りを毎週踊っているんです」

●アパラチアン・トレイルのアップダウンを経験せずに麓を車で行くだけでも、かなり面白い旅が出来そうですね。

「それが色々な政治的、宗教的なところに繋がっていて、私は大学で政治学を専攻していたくらいですから、マキャベリズムといわれる政治的なドロドロしているものが大嫌いなんですけど、外から国際政治とか眺めるのが大好きなんですね。そういう目で見るとここほど面白いところはないんですよ。なぜ、日本人が首をかしげているブッシュが再選されたのか。なぜ、ブッシュのアメリカなのかということを、ここを歩くことによってある意味探れてしまう部分があるんです」

●加藤さんにピッタリの場所なんですね。

「そうなんです。自然が好きでトレイルを歩くことが好きで、アウトドアというジャンルで好きなことをやっているんですけど、プラス別の面で政治的なものをゲーム感覚で見るのが好きなんですね。国際政治がどうなっているかっていうのを、諸々情報を自分の中へ仕入れながら見ていくんです」

●自然の中に全てが隠されているんですね。

「そういうところなんです。ですから、自分で言うのもおかしいんですけど、俺向きのトレイルだと思っているんですよ(笑)」

バックパッカーの食事事情とは!?

●アパラチアン・トレイルは4月から10月まで歩くんですよね。

「10月までですね。日本に帰ってくるのが10月の末になると思います」

●準備にもすごく時間がかかると思うんですけど、あとは行ってみるしかないっていう感じですね。

「そうですね。ただ、すぐに行かなくちゃならないんですけど、準備は去年からずいぶんしているんですね。一番大変だったのが食糧計画だったんですけど、180日分の食糧計画を立てなければなりませんからね。それも全てフリーズドライですから。
 なおかつ2003年からアメリカは食べ物に関する輸入の法律が物凄く厳しくなったんですよ。肉類は一切ダメなんです。フリーズドライで持ち込むものでも、肉が入っているものだとか、肉が入っていなくてもこういうものはダメというのがあるんですね。そういうのを全部除かなくちゃいけないんですよ。除いた肉類とかはアメリカで手に入れなくちゃいけないんですね。ただ、なかなか向こうでそういうものを手に入れる時間がないので、できれば日本から用意していきたいんですよ。それが最後まで一番時間がかかっているんですね。持ち切れないのでそれを前もって郵送する。自分で持っていくものもあるんですけどね。
 イン・ヴォイスっていって内容をあらかじめ全部書いて、FDAっていうのがアメリカにありまして、政府の組織なんですけど、そこ宛てに内容を全部書かなくちゃならないんです。例えば、フリーズドライをひとつとっても、この中にどんなコンテンツがあるかっていうことも書くわけ」

●大変ですねぇ。もしかしたら行くまでが一番大変かもしれませんね。加藤さんの今回の旅のスケジュールを見ても、1日に歩かなきゃいけないスケジュールとか、かなりしんどいですね。

「それが楽しいんですよね」

●ニコニコしてらっしゃいますもんね(笑)。それらの模様はインターネットを通して定期的に見られるようになっているんですよね?

「はい。i BE-P@Lというインターネット上のBE-PALで見ることが出来ます。私、前から仲間にホームページを作れといわれていたんですけど、そういうことに全然興味がなくて作っていなかったんです。でも、アパラチアン・トレイルを歩くのを機会に自分のホームページを作りました。そこでも、町に下りたときにi BE-P@Lで書ききれなかったお話を載せようかなと思っています」

●たくさんあるでしょうからね。それでも書ききれなかったお話は、加藤さんがワッペンをゲットして帰ってきてから番組で聞かせて下さいね。

加藤則芳さん

「もちろん。トレイルを歩くことによって、先ほどお話ししたような社会科学的、人文科学的な面白さプラス、人という意味はもうひとつありまして、会うバックパッカー。これがなかなかなんですよ。半年かかる距離を歩いている人が結構いるんですよ。彼らのバック・グラウンドを知るだけでもすごく興味があるんですね。みなさん会社を辞めてまで歩いたりするわけですよ」

●次回はワッペンを見させていただきたいと思います(笑)。気を付けていってらっしゃい!

「そうですね。それが一番なんですよ。体を壊してしまったら元も子もないですからね」

●無事に戻ってきて下さいね。頑張って下さい。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの加藤則芳さんのインタビューもご覧ください。

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■作家/バックパッカー「加藤則芳」さん情報

 アメリカ東部を南北に縦断する全長3,500キロの超ロング・トレイル「アパラチアン・トレイル」を、4月1日から歩き始める「加藤」さん。現地から送る日記が雑誌「BE-PAL」のインターネット版「i BE-P@L」に随時アップされる他、「加藤」さんのオフィシャル・サイトにもこぼれ話が掲載されるので、要チェック!
i BE-P@L:http://www.bepal.net/e_appalachian/index.html
加藤則芳さんのHP:http://www.j-trek.jp/kato/

ジョン・ミューア・トレイルを行く〜バックパッキング340キロ
平凡社/定価2,310円
 国立公園の父、または自然保護の父といわれ、自然保護団体シエラクラブの生みの親でもある「ジョン・ミューア」の功績を讚えて名付けられた340キロの山岳トレイル「ジョン・ミューア・トレイル」を、ヨセミテからマウント・ホイットニーまで一気に踏破した記録。1999年度に「JTB紀行文学大賞」を受賞作品。
 

自然の歩き方50〜ソローの森から雨の屋久島へ
平凡社/定価1,365円
 環境や自然保護の現状からフィールドでの楽しみまで、国内外の50編の旅を写真とともに紹介。
 

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. TAKE ME HOME, COUNTRY ROADS / JOHN DENVER

M2. GEORGIA ON MY MIND / WILLIE NELSON

M3. BLUE EYES CRYING IN THE RAIN / OLIVIA NEWTON-JOHN

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. A HORSE WITH NO NAME / AMERICA

M5. WALKING MAN / JAMES TAYLOR

M6. DOWN THE ROAD〜MOUNTAIN PASS / DAN FOGELBERG

M7. APPALACHIAN LULLABY / NICOLETTE LARSON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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