2005年9月4日

歌う生物学・本川達雄さんの「おまけの人生」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは本川達雄さんです。
本川達雄さん

 ロング・セラー「ゾウの時間 ネズミの時間」で有名な“歌う生物学者”または“シンガー・ソングライター・バイオロジスト”、東京工業大学・教授の「本川達雄」さんをお迎えして、生物学的に見た人間の生き方などうかがいます。

ものを作ろう

「おまけの人生」

●前回は、70曲を収録したCD3枚組を発表した2年前に出演していただきましたが、この度、新しい御本が発売になりました。阪急コミュニケーションズからの「おまけの人生」という本なんですけど、これはエッセイをまとめたものなんですか?

「ええ、エッセイ集です。私もあと3年で還暦ですからね。昔で言えば本当のじい様ですよ(笑)。ですから、いかにこれからを生きていこうかということを考えたエッセイ集になっております」

●とても面白い御本なんですけど、この「おまけの人生」には本当に本川さんらしい発想、視点で人生観が書かれています。

「私は普段、新聞もテレビもない生活をしていますから、世の中と何のコンタクトもないので、私は私の考えで生活しています(笑)。『世間のことは何も知らないよ』という話です」

●それがとても面白いんですが、この夏休みの間に子供達が自然と触れる機会が増えていて、自然素材を使って自分達で遊ぶおもちゃを作るということが、少しずつ戻ってきているのかなという感じがします。

「そうですか。それはめでたいですね」

●それでもまだ少ないですよね。

「子供の理科離れっていうことはよく言われているんですけどね。僕らの時代っていうのはいくらでもその辺で遊んでいましたし、虫なんかもたくさんいたわけですね。僕、ずっと沖縄にいたんですけど、子育てなんていっても、それこそ沖縄だったら放し飼いにしておけばいいわけですよ(笑)。ところが東京に出てくると、子供をウロウロさせる場所がないんですね。そうすると結局、遊ばせるためにお金を払ってなんとか教室に行って、スイミングやらせてとか、お絵書きやらせてって全部管理された空間の中でしか、子供達は生きていないっていうところがあって、これではいくらいいことを教えても結局は全部管理されちゃているんですね。これだと自発性とか自由さが養われないし、ボーッとしたりとかできないですよね。今、沖縄のアーティストなんかすごく元気がいいでしょ。だからある程度野放しにしておかないと、人間、元気が良くならないんだと思いますね。東京に来ちゃうと、みんな管理されちゃって本当にいい子にならないんですね。そうすると、いくら勉強ができるっていっても、野性味がなくなっちゃうと、元気のいい歌なんか歌えないよね。仕事にしたって手際よくできるっていうんじゃなくて、元気がよくて新しいことをどんどんやろうっていうふうには、ならないんじゃないかという気がするんです」

●ものを作る=元気になるということなんですね。

「はい。ものを作るのはとてもいいことなんだけど、今、あまりにもキッチリしたものばかりを作るようになっちゃったわけ。そうなってくると素人がものを作ったりなんかしたってダメよ。やっぱりプロに頼まなきゃ。沖縄なんかだとみんなして、即興で歌って踊っちゃうわけですよ。昔の男女の掛け合いみたいなことが残っているわけですよ。僕が自分で曲を作るっていうのは沖縄に行ったら、みんな勝手にやっていたからなんですね。それまでは歌を作るっていうのはプロの作詞家がいて、プロの作曲家がいて、素人が何かをやるのは音楽という芸術に対して失礼じゃないかと遠慮していたんですけど、そうじゃなくて自分の思いを歌うっていうのは、自分が歌うので下手であろうと自分でやればいいでしょ。私、小さな瀬底島っていうところにずっといたんですけど、小さな島にいるとなんでも1人でやらなきゃいけないわけですよ。で、瀬底島の僕が行った臨海実験所っていう研究所の歌なんて誰も作ってくれないわけですよね。じゃあ、自分で歌を作ってみんなで夜、泡盛を飲んでワーッと言って歌えばいいじゃないのよって、なんでも自分でやっていると元気が出てくるんですね。ですからそういう意味では今、都会っていうものがなんでもプロにお任せして、自分は自分の専門だけやっている。すると非常に小奇麗にできちゃうけど、自分自身が全体として歌も歌うし、誌も書くし、理科もやるし、炊事洗濯もみんなやるしっていう全部できて元気のいいひとりの人間なんですけど、それを全部プロに任せて自分はただ何もしないでいるだけだと、自分自身で生きているということではないんじゃないかっていう気がするのね」

おまけの人生とは?

本川達雄さん

●学校の勉強って歴史のこととか、普通に暗記したりして覚えようとすると大変なんだけど、それを今どきで言うラップだったりメロディーに乗せたりして替え歌にすると、案外すんなり覚えられたりしますよね。

「私も理科の先生ですから、子供達に勉強して欲しいわけですね。今、理科っていうと特に生物学なんて覚える単語が多いでしょ。でも、『丸暗記はいけない』『考えさせなさい』って文部科学省の学習指導要領に書いてあるんですね。実際には考えるためにはものを覚えないとダメなんですよね。生物学なんて名前を覚えなかったら始まらないんですね。みんな『そこに草!』って言ったら草しかないんですよ。でもひとつずつ『これはスズメノカタビラ』だとか『これはオオイヌノフグリ』だとか、ひとつひとつに名前を付けていけば『あっ、違うものなのね』って言って、ひとつ覚えるたびに地球が豊かに感じられるようになってくると思うんですよ。だから僕は暗記っていうのは悪くないと思っているんです。この地球は豊かだって思わせるためには、まず、いくつも名前を覚えていくというのが重要だと思っているんですね。私達の体の中にはいろいろな器官があって名前がついているけれど、それはこんなにいろんな器官があるからこそ、複雑なことができるわけで、ですから覚えるのが大変なほど私達の体は複雑で恒久だし、覚えるのが大変なほど地球っていうのは、色々なものがあって豊かなんだっていう発想が大前提になきゃいけないだろうと思っているんですね。だけども、やはり覚えるのは大変ですから、じゃあ覚え方っていうのをそれぞれ工夫しましょうねっていうことで『歌う生物学』っていうのをやっているわけです。今回も年号を覚えるっていうやつがいくつか入っています」

●生物学を学ぶ意義っていうのは、先ほどもおっしゃっていた「自分達を知るため」なんですね。

「自分自身を知るっていうことが一番大事な話だし、生物としての自分が地球の中でどういう位置を占めているのかが分かるというのが教養っていうことだと思うんですね。そういう意味で生物学っていうのは一番大切な学問ですよと言いたいんです。少し身勝手な話ですけどね(笑)」

●地球自体が生きているわけですからね。

「僕らは地球の中心のことにはあまり関わっていないので、地球の上の本当に薄い表面に生物がみんないて、その生物の網の目の中で僕らは生きているわけです。生物圏の中で僕らは生きているわけですよね。ですから、そこのところをきちっと知らなければならないだろう。生物っていうのは自分の子孫を残してこそ価値があるんですね。子孫を残さなかったら生物としての価値は全然ないわけです。この頃、日本国は子供を作らないんですね」

●そうですね。ちょっと耳の痛い話です。申し訳ございません(笑)。

「いやいや、個人のことは言わないにしてもですね(笑)、基本的に自分の遺伝子を次に残さなければ生物としての価値はゼロなんですから」

●すみません(笑)。価値のない人間でございます(笑)。

「(笑)。そうだったらば、じゃあ何らかの価値を作って残せばいいわけですよ。それがおまけの人生の話なんですね」

●改めて本を読ませていただきたいと思います(笑)。子供のいない私はバトンを渡す相手がいないわけですから、数多いるそのほかの子供達に・・・。

「いやいや、この番組を聴いていらっしゃる方みんなが、エイミーさんの子供だと思えばいいんですよ」

●なーんだ! みんなちゃんと歯を磨いて寝るんだよ(笑)。

「(笑)。この年になったら生々しい生殖活動できないわけですよ。そしたら、動物っていうのは基本的に生殖活動が終わっちゃったものが長生きするということはないんですね。だから老いた動物というのはいないわけですよ。なぜかというと、生殖活動が終わったものが長生きしていれば、餌がそれほど豊富じゃないから、自分の子供と餌をとりあうわけでしょ。そうすると餌不足になって栄養が悪いから、自分の子供が孫を生めなくなっちゃうわけです。そんなことをやっていたら子孫が絶えちゃうわけだから、そんなものはいけないので、生殖活動が終わったらスーッといなくなるっていうのが動物としては正しい生き方なんです。人間だってついこの間まで人生50年って言っていたわけでしょ。大体50歳くらいで老化は現れるし閉経にはなるし、命はそこまでなのね。ですが、今は80歳まで生きるようになっちゃったわけですよ。そうするとそこの部分っていうのが、生物学的には全く意味のない部分なんですね。本当はない部分なのでおまけなんです。そのおまけをどうやって生きましょうかっていうのを考えたのが『おまけの人生』の話なわけです」

生き物によって時間の速度が違う

本川達雄さん

●本川先生というと、「ゾウの時間 ネズミの時間」のイメージが強くて、生き物の大きさ、流れる時間っていうのはそれぞれ違うんですね。

「ええ。ネズミなんかは心臓がバクバクバクバクいって早く打っているわけですよね。で、心臓だけじゃなくて呼吸も速いし、血の循環だって早いし、大きくなるまでの時間も早い。子供もすぐに産んで、寿命も短い。なんでも早いんですね。で、大きい生き物はどういうわけだか心臓もゆっくり打っているし、肺もゆっくりだし、子供が産めるようになるまでも時間がかかるし、子供を産んで死ぬまでの時間も長い。だけども、同じ哺乳類だったら一生の間に心臓が打つ回数が15億回打つとみんな死ぬっていうんですよ。これは、体がみんな同じように平等にできているんだね。それを早く動かすかゆっくり動かすかの違いだけなんだよね。動物っていうのはそれぞれの時間の中で生きているんだっていうのが、『ゾウの時間 ネズミの時間』の話なんですね。で、『ゾウの時間 ネズミの時間』はそこまでだったんですけど、そういう話を僕ら人間に当てはめるとどうなるか。心臓が15億回くらい打つと何歳かっていうと、たった30歳なんですね。だって、ゾウで人生70年なんですから。僕らはゾウよりずっと小さいんですからね。まぁ、30歳くらいですよね。これはそんなにおかしいことではないんですよ。つまり縄文時代の人の寿命が30歳くらいなんですよ。で、大体15歳で初潮ですから、すぐ結婚して子供を産めば30で孫の顔が見られるわけですよ。そうすると、子育てのノウハウを全部教えてちょうど30歳くらいで死んでいけば、それで生き物としてはなんら悪いことはないわけですよ」

●すでに全うしてしまっているんですね。

「ええ。室町時代だって寿命が30歳代の前半ですよ。ですから、人間なんてずーっと500万年の人類の歴史があるけれど、ずっと30歳程度の寿命で生きてきたわけですよね。それで、僕らは先ほどの『ゾウの時間 ネズミの時間』の話で言うと、小さい生き物っていうのはすごく早いんですよね。早いやつはエネルギーもたくさん使うんです。実はエネルギー消費量と時間の速度は比例するんですよね。で、どういうわけだか、小さい生き物はエネルギーをたくさん使って、時間をパーッと早く使ってる。ゾウなんかはゆっくり生きているわけで、時間が違う。そうするとエネルギーの消費量と時間の速度が比例するっていうことをそのまま僕らの体に当てはめると、小さい赤ん坊なんて体重に対してものすごくエネルギーを使っているんです。心臓ももちろん早いんですよ。で、20歳くらいまでに体重に対するネルギー消費量はどんどん落ちていきます。心拍数も大きく出てきます。また20歳から歳をとっていくにしたがって、すこしずつゆっくりですけど、エネルギー消費量は落ちていく。ということは、一生の間にも時間が変わっているんじゃないかと思うんですね」

●ネズミの時間からゾウの時間へと・・・。

「そう! 子供はネズミの時間みたいなんですよ。で、歳をとってくるとゾウの時間になっちゃう。そうすると、子供と老人ではエネルギー消費量が3倍以上違うわけですよ。そうすると、子供と青年と老人とではそれぞれ時間が違うんじゃないかと思うんです。時間が違えばある意味では世界が違うっていってもいいわけですよ。そういう時間の中でどう生きていくかっていう、生き方とか価値観とか世界観っていうのがみんな違ってこなきゃいけないんじゃないかと思うんです。だから、60過ぎたらおまけの人生なんだって言い方をしたときに、これは違う生を生きているんだ。今までなかった部分を生きているんだ。そこは時間も違うんだ。ですから、違った生き方をすればいいんじゃないか。そこは、生殖活動には関わらないですから、生殖活動が終わっちゃったら遺伝子なんかどうでもいいわけですから、もう遺伝子の支配下にないわけですから、そこから先こそが本当に人間らしい、動物ではない生き方ができるわけですね。ですから、体にガタが来ても生きていられるということでニコニコしていればよろしい。私達はどう生きたらいいだろうかっていうことを人間として、人間の尊厳の部分をおまけの人生の中でちゃんと考えるべきだろうと思うんです。ですから、若者というのはダメなんですよ(笑)。動物としてもう少し子作りに励んでもらえばいいんです(笑)」

●まだ動物ですからね(笑)。すみません、私もまだ動物なんですけど(笑)。

「そうですね(笑)。お若いです」

●もうちょっとすると私も人間になれます。

「そうですか。お仲間にはまだしばらく時間がありますけどもね(笑)」

自分が時間の主治医

本川達雄さん

●ゾウさんもネズミさんも同じように時間の上で生きていますよね。

「ゾウもネズミも時計の時間でいえば共通で、共通のベルトコンベアーの上に乗せられてずーっと流されていく。こういうふうに普段は考えているんですね。これは物理学的な時間の見方です。それに対して、生物学的に時間を見ると、実は生物っていうのはエネルギーを使って自分で時間のベルトを回しているんだ。ですから、ゾウはエネルギーをあまり使わずゆっくり回している。ネズミは自分で早く回している。ですから、それぞれの時間をベルトを回して作りだしているんだ。そういう見方をすると、僕らは時間にせき立てられて、ある意味では時間の奴隷になっているんですね。特に、現代人っていうのは非常に忙しい。それに対して僕らは時間の奴隷じゃなくて、自分が時間の主治医なんだよっていう考え方が必要だと思うんです。ですから、僕印、私印の時間があるんです。そこにはゾウ印の時間もあるだろう、ネズミ印の時間もあるだろう。で、現代社会の問題点っていうのは、古典物理学的な時間にキチッキチッと縛られて、それ以外の時間の見方ができないっていうところなんです。そういう意味で、物理学の時間とは違った時間の見方をするっていうのはとても重要だと思っています」

●時間に縛られたくはないのですが、番組としての時間もありますので(笑)、また今度ゆっくりお話をうかがえればと思います。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの本川達雄さんのインタビューもご覧ください。

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■東京工業大学大学院 生命理工学研究科の教授
「本川達雄」さん著書紹介

歌う生物学

新刊『おまけの人生』
阪急コミュニケーションズ/定価1,575円
 ロングセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者「本川」先生が、生物学的にみた人間の生き方について、ユニークでユーモアたっぷりの“本川流”の視点で綴ったエッセイ集。“歌う生物学者”と呼ばれる「本川」先生らしく、歌詞とメロディーの譜面付きで何曲かの曲も紹介されている。

CD3枚付きの本『歌う生物学〜必修編』
阪急コミュニケーションズ/定価3,990円
 とかく暗記する必要の多い高校の生物学の基本キーワードをもれなく盛り込み、歌として要点をわかりやすく解説。70もの“生物の歌”の歌詞と楽譜が掲載されているだけではなく、付属CD3枚に、掲載された全70曲を収録。まさに生物学を歌って覚えられる高校生のマスト・アイテム!

本川達雄さんのHP:http://www.motokawa.bio.titech.ac.jp/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. TEACHER I NEED YOU / ELTON JOHN

M2. ものを作ろう / 本川達雄

M3. WHAT IS LIFE / GEORGE HARRISON

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. HAVE A GOOD TIME / PAUL SIMON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. 一生のうた / 本川達雄

M6. いのちの時間 / 本川達雄

M7. YOUR LIFE IS NOW / JOHN MELLENCAMP

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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