2005年9月11日

坂本達さんの井戸掘りプロジェクト・完結編

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは坂本達さんです。
坂本達さん

 “4年3ヶ月も有給休暇をもらって世界一周55,000キロを自転車で走ってきちゃった男”株式会社ミキハウスの「坂本達」さんを再びゲストにお迎えします。「坂本」さんは旅の途中、ギニアの村でマラリアと赤痢を患いましたが、その村の医者に命を救ってもらいました。その恩返しにと村人が必要としている井戸を造ろうと“井戸掘りプロジェクト”を進め、ついに今年完成させました。その報告をしていただきます。

こうして井戸が出来ました!

●前回は井戸掘りプロジェクトのお話をうかがって、完成するまでにはもう少しかかりそうということだったのですが、ついに完成しました!

「やった!(笑)ありがとうございます」

●やった! 長かったですよね。

「長かったです(笑)。井戸に着手すると言ってから、かれこれ2年かかりました」

●そもそも、世界一周の自転車旅をしているときにマラリアと赤痢になってしまって、その時走っていたのがギニアで、そこのドンゴル村の人に助けてもらったんですよね。

「ええ、そうです。倒れたのはカリア村っていう別の村だったんですけど、命を助けてもらった恩返しに何かできないかということで、助けてくれたお医者さんのお父さんの村に井戸を掘ろうということになって、それを2年がかりでやってきたところなんです」

●旅自体は今からどれくらい前になるんですか。

「ギニアを走っていたのが8年前ですね」

●8年前に命を助けられて、やっと恩を返せたっていう感じなんですね。

「そうですね。恩が返せたというふうに思っているわけではないんですけど、ひとつの形になっているので、ずっと8年間続けてきたということですね。機械一切なしで、つるはし1個とスコップ1本とバケツ1個で、掘りだすのは村人や子供が全部やって、結局、村人たち全員がそのプロジェクトに携わったということで、すごくよかったのが村人たちの中に『これは自分たちの井戸だ』という意識が芽生えたことなんですね。急に機械で掘って出来たって渡してもありがたみもなければ、壊れても修理が出来ずに、ただ修理の人が来るのを待つしかなくなってしまうんですね。今回、2カ月半かかって、女性も老人も子供も全員が手伝ったから、『自分たちの井戸だ』という気持ちで、壊れたら自分達で直そうという意識があるんですね。井戸を掘るところから始めたわけじゃなくて、井戸を管理する組織、水管理委員会というのを作って、それが結局、1年半以上かかったので、井戸自体は2カ月半で終わったんですけど、それが結果、一番いい形で出来たんだなぁと思いますね。作りながらも僕も現地語を覚えていって、現地の公用語はフランス語なんですけど、部族語も覚えて、部族語でコミュニケーションをとるようになって、彼らにも僕が日本語を教えて、井戸を掘りながら『カタイ! カタイ!』とか言ったりしていたんですよ(笑)。もう、それがおかしくて(笑)。結局、そういうコミュニケーションがあって初めて出来るのであって、行って言葉も通じないのに勝手に作っても、『よそから来て、去っていった』となっちゃいますよね。でもこの日本人は、言葉も覚えているぞと。同じものを同じように手で食っているぞ。イズラム教の国なので、一緒にお祈りをしているぞと。というところで、みんなが協力してくれたんだなぁと思いますね。
 今まで不衛生な水で病気になるということが多くて、平均寿命も46歳なんですよ。90歳とか長寿の方もいらっしゃるんですけど、結局、乳幼児のうちに水やマラリアが原因で亡くなる子供が多くて、平均寿命がすごく下がってしまうんですね。そういう環境の人達は薬が欲しいけど、病気にならなければもっといいわけですよね。だからキレイな水が欲しい。井戸を掘る企画も4回あったんですけど、4回とも水が出なくて、今回5回目で初めて水が出たという状況なんです」

●坂本さんのホームページに載っていたんですけど、ユニセフの調べでギニアの農村人口のうち、安全な水を手に入れることが出来るのはわずか42パーセントなんだそうですね。で、それを読んだときに『そんなに低いんだ』と思いましたし、私達ってすごく水を無駄にしているじゃないですか。水道水という安全なお水なのにも関わらず、『おいしくない』とか言ってペットボトルのお水を買ったりしていますしね。

「だから僕、『日本は水道水で洗車している』なんて言えないんですよ」

●そうですよね。

「『車を洗っているよ』なんて言えないんですよ。半分以上の人が汚染された水を飲まざるを得ない。それで病気になってしまうということなんですね」

ギニアにいるヤギ『太郎』と『花子』

2005年6月1日、ドンゴル村に井戸完成!竣工式にて記念撮影!
© Tatsu Sakamoto
記念撮影
完成した井戸で水汲みをする女性たち
© Tatsu Sakamoto
水くみ

●井戸が完成して初めて水が出てきた瞬間、村人達はどうでしたか?

「普段、子供や女の人が水を汲んだりして苦労しているので、女の人が喜んでくれたし、子供達はもしかしたら井戸からキレイな水が出るのを見たのが初めてかもしれないので、水が出ているのを凝視しているような感じでした。もともと僕、井戸を掘ったこともないし、資金ももとはゼロで、おかげさまで本の印税が資金になったんですけど、掘った経験もなければ知識もないし、NGOのような組織もなくて全く1人なんですけど、これが実現したのは全て人との繋がりで、全部タイミングのいい時に人が現れてくれたし、必要な情報が現れてくれたし、全部が繋がって実現したんですね。あとは、やはり村人達が2カ月半、僕がいない間も1日も休まずやっていたので、それが本当に泣けてきましたね」

●恩返しの「井戸掘りプロジェクト」がついに完成したということで、お礼としてヤギをいただいたそうですね。

「はい。向こうではお客様に『よく来ていただいた』ということで、施しをするんですけど、一番最初に行った時にはニワトリを1羽いただいて、2回目に行った時はニワトリを3羽いただいて、3回目に行った時は5羽いただいて、今回はヤギ1頭とニワトリ3羽いただきました。もう、どんどん増えていったんです(笑)」

●ニワトリぐらいだと、絞めて捌いておいしくいただくということも出来るんでしょうけど、ヤギはちょっと大変ですよね(笑)。

「そうですね(笑)。僕もビックリしました。食糧ということもあって、ヤギは本当に貴重な財産ですからね。最初は僕に『日本に持って帰れ』って言うわけですね(笑)。もしくは、『日本大使館に持っていけ』と言うんですよ。僕は坂本達ですけど、現地に行くと初めて村に来た日本人であるし、日本代表でもあるんですね。イコ−ル『日本大使に持っていってくれ』って言われるんですけど、実は前回ニワトリを5羽いただいたときに3羽日本大使に持っていったんですね。でも、ニワトリだったら話のネタにもなりますけど、ヤギを持ってこられても大使困るだろうなぁと思って(笑)、結局、『太郎』という名前を付けて(笑)、今、シェリフ(世界一周の時の坂本さんの命の恩人でギニアの村の医師)の家族が飼ってくれているんです」

●ギニア生まれの太郎君(笑)。

「そうです(笑)。もう1匹、『花子』っていうヤギがいるんですよ(笑)」

●その名付け親はもしかして・・・?

「僕です(笑)。3回目に行った時に生後2カ月か3カ月くらいの小さなヤギを飼っていて、名前はついていないって言うので、メスだったから『花子』ってつけたんですよ。そして4回目に行ったらみんなが『ハナコ、ハナコ』って呼んでいるんですよ(笑)。シェリフのお母さんが76歳のお年寄りなんですけど、『ハナコ、ハナコ』って呼ぶとこっちを向くんですよ。でもよく見ているとコツがあって、動物って『チッチッ!』って舌を鳴らすとこっちを向くじゃないですか。だから、『ハナコ、ハナコ、チッチッ!』ってやるとこっちを向くんですよ。『ハナコ、ハナコ』って呼ぶだけではこっちを向かないんですよ。シェリフは『“ハナコ”って呼ぶと反応するから達、見てろ!』って言って、『ハナコ、ハナコ、チッチッ!』ってやるとこっちを向くんですよ。『おぉ、スゲェ!』って思ったんですけど、結局、『チッチッ!』でこっちを向いていたんですよ(笑)。で、僕が試しに『ハナコ、ハナコ』って呼んでもこっちを向かないんですよ(笑)」

●なるほどね(笑)。その子は『花子』と名付けられたんですね。で、『花子』に対して『太郎』と名付けたんですね。安易だなぁー(笑)。

「(笑)。あともうひとつ、関係ないんですけど、カフェっていうか万屋があって、飲み物も出すので、カフェ『ありがとう』っていう名前なんです。ギニアにラベっていう大きな街があるんですけど、そのはずれに住んでいて、ラベのタタっていう地区のカフェ、『ありがとう』(笑)」

●タタ地区のカフェ『ありがとう』(笑)。

「是非、行って下さい(笑)」

ギニア名は『ママドゥー・ムフタール・タツ・ジャロ』

シェリフさんのお母さんとシェリフさんとたちゅさん
© Tatsu Sakamoto
シェリフとお母さん

●坂本さんにはギニアの現地名もあるそうですね。ママドゥー・ムフタール・タツ・ジャロ?

「はい(笑)。ちょっと長いですね」

●キレイな発音で言うと?

「(本場の発音で)ママドゥー・ムフタール・タツ・ジャロ。井戸の脇にプレートが立っていて、『シェリフ・ドクターとママドゥー・ムフタール・タツ・ジャロと本を買って下さった全ての方のおかげで井戸が出来ました』っていうプレートがあるんですけど、ジャロっていうのがプル族の部族の人達の名字のひとつなんですね。そのジャロっていう名前をもらうことはすごく名誉なことですし、現地の人に『僕はジャロだ』って言うと、『おおーっ!』って表情がコロッと変わって同じ家族だというふうに受け入れてくれるんですね」

●タツは達さんのタツでしょうけど、ママドゥー・ムフタールというのはどういう意味なんですか?

「ママドゥーっていうのはイスラムの人達の名前で、よくモハメッドとかママドゥーっていうんですけど、ムフタールっていうのはいわゆるファースト・ネームで、タツっていうのが・・・」

●ミドル・ネームなんですね。

「いえ、それもファースト・ネームなんです。だから僕、ファースト・ネームがふたつあって、ムフタールとタツがファースト・ネームなんです」

●じゃあ、現地に行くとなんて呼ばれるんですか?

「僕は現地ではムフタールと呼ばれます」

●でも、シェリフさんのお母さんは、達さんのことを「たちゅ」って呼ぶそうですね(笑)。

「そうですね(笑)。村の人達は僕の『タツ』という名前をあまり知らないんですよ。ムフタールと呼ばれます。ジャロについては、村の人達みんながジャロなんです」

●全員ジャロなんですね(笑)。

「一部、バーと呼ばれる人達もいますけど、村人は『バー』か『ジャロ』なんです」

●ちなみにこの名前はどなたがつけたものなんですか?

「シェリフさんが僕につけてくれました」

●どういういきさつでこの名前を付けることになったんですか?

「同じ家族だということで、名前をくれるんですね。他所から来た外国人ではなくて、同じ仲間だという意味で、受け入れてもらったということなんですね。3回目に行った時に『名前をやろう』みたいな話になって、それで『ムフタール』だというふうに言われて、シェリフの家族は村とは別のところにいるので、シェリフの家族は身近なので『たちゅ』って呼んでいるんですけどね(笑)」

●『たつ』が言いにくくて『たちゅ』になっちゃうんですね(笑)。

「そのようです(笑)。井戸を掘った村のところはファースト・ネームまで知らないので『ムフタール』と呼びます」

●井戸掘りプロジェクトが完成しましたが、今、振り返ってみて思うことはありますか?

「大変だったこととかっていうのは、大変と思うと大変になるので、何事も起きて当たり前と思っていたので、大変という思いはあまりなかったですね。井戸のプロジェクトをやっているときに途中で単純に言葉が通じなかったり、価値観の違いとかでコミュニケーションがとれなかったりとか、僕の精神的なものもあって、途中でプロジェクトを投げ出してしまってもいいかなと正直、思ったこともあるんですよね。自転車で世界一周をしてきたときと同じで、例えばアフリカ大陸も『果たしてこの大陸に終わりが来るんだろうか』と、先が見えなくて、1日1日限界までやって寝て、朝起きたら回復しているっていう、その回復していることに感動するような日々だったので、アフリカが終わるのかどうかっていう先の見えない不安と、投げ出したらどんなに楽だろうっていう日々だったんですけど、それと同じような経緯で井戸も先の見えない『出来るのだろうか』という中だったんですけど、自分を信じ込ませるしかなかったですね。自分を信じ込ませることで、色々なアイディアが出てきたり、諦めなかったから出会いがあったと思うので、それで出来たのかなぁと思いますね。振り返ってみて、世界一周したときと同じですね」

●信じてよかったですね。

「信じるしかなかったですね」

『やった。』の続編『ほった。』!?

坂本達さん

●井戸が完成して恩返しが一区切りついたわけですけど、今後の予定等はありますか?

「帰国して5年が経っているんですけど、やるにつれて『これは一生付き合っていくのかな』っていう感覚になっていまして、それがたまたま形になったんですけど、形にならなくてもずっと繋がっていくっていう、細く長くというふうに感じまして、その中でも目標みたいなものがあるんですけど、シェリフさんの診療所のお手伝いをしたいと思っていまして、彼が仮設診療所みたいなのを作っているんですけど、そこにみんな来るんですね。あと、ちょっと離れたところにいわゆる病院があるんですけど、そこは値段も高くて混んでいて親切じゃないんですね。だから、ちゃんとした診療が出来る診療所にしたいですね。電気がないのでジェネレーターとか、トイレもないのでトイレとか、そこは井戸もないので井戸とか、キレイな井戸がないので水質検査をして、ちゃんとした水が出るような井戸とか、そういうものを作るお手伝いが出きればと思っています」

●坂本さんはそれ以外にもピース・トーク・マラソンというのにも参加していて、あちこちで講演されているんですよね。

「ええ。3年半かけて全都道府県をまわって、これ、自転車じゃないんですけど(笑)、平和と国際協力についてのシンポジウムで、平和と国際協力というとちょっと距離感があると思うんですけど、それが実は身近なことで、身近にできるあいさつをしたり、自分の出来ることをすることが結局、そういうことに繋がっているんだというのを分かりやすく説明しています。色々なミュージシャンがいたり、サッカー選手が来たりして、私も講演をさせていただいて、身近に感じるというような企画なんです。すごく面白いです。目から鱗が落ちるようなイベントです。全国でやっています」

●今後、坂本さんが近くで講演されるようなことがあれば紹介していきたいと思います。これからの旅の予定とかありますか?

「またですか?(笑)」

●もう5年近く経ちますから、また大量の有給休暇をもらって、どこか行くんじゃないかなぁなんて期待もしているんですけど(笑)、今のところ計画はないんですか?

「今のところはないですね。来年、年明けに本を出版予定なので、年内は執筆活動をしています。『やった。』に続いて『ほった。』っていうタイトルなんかどうかなぁって思っているんですけど(笑)。それと、文庫本ももしかしたら勧められるかもしれないので、年内は本を書きながら、講演をしていると思います」

●今日はどうもありがとうございました。

■このほかの坂本 達さんのインタビューもご覧ください。

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■(株)ミキハウス「坂本 達」さん情報

トークイベント
 スライドやビデオをまじえて、世界一周の旅のことや「井戸掘りプロジェクト」のことなど、ナマで聞けるチャンス!

  • 日時/場所/TEL:
    • 10月3日(月)午後7時30分〜 パタゴニア鎌倉ストア  0467-23-8970
    • 10月4日(火)午後8時〜    パタゴニア神田ストア  03-3518-0571
    • 10月19日(水)午後8時30分〜 パタゴニア渋谷ストア  03-5469-2100
  • 参加費:無料(要予約)
  • 問い合わせ/予約:各パタゴニアストア
やった。

やった。〜4年3カ月も有給休暇をもらって世界一周5万5000キロを自転車で走ってきちゃった男
ミキハウス/定価1,785円
 世界の人たちがどのように生き、何を感じ、考えているかを肌で知りたかったという「坂本」さんが、4年以上の有給休暇を取り、自転車で43カ国、5万5000キロを走った時の模様を綴ったエッセイ集。
 尚、この本の印税は旅の途中、命を救ってくれたギニアの村への恩返し・井戸掘りプロジェクトなどの経費として使われている。
 

坂本 達さんのHP:http://www.mikihouse.co.jp/tatsu

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. WHAT'S UP / 4 NON BLONDES

M2. WISHING WELL / TERENCE TRENT D'ARBY

M3. UNDER AFRICAN SKIES / PAUL SIMON

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. さざ波 / ジョン・海山・ネプチューン

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. 永遠のFULL MOON / 山下達郎

M6. DON'T STOP BELIEVIN' / JOURNEY

M7. IT'S AIN'T OVER 'TIL IT'S OVER / LENNY KRAVITZ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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