2005年10月2日

「バイオミミクリって何だ?」
〜ジャパン・フォー・サステナビリティの小林一紀さんを迎えて〜

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは小林一紀さんです。
小林一紀さん

 非営利団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」のマネージャー「小林一紀」さんをお迎えします。今回は同団体の活動のひとつ「バイオミミクリ・プロジェクト」をクローズアップ! 聴き慣れない“バイオミミクリ”とは一体何なのか! このプロジェクトについて、そしてジャパン・フォー・サステナビリティの活動について、うかがいます。

バイオミミクリとは!?

●早速なんですが、ジャパン・フォー・サステナビリティ(以下:JFS)というのはどういう団体なんですか?

「3年前にできた非営利の組織なんですけど、環境を守るための優れた日本の取り組みを世界に発信していこうというミッションを持った組織です。例えば、ドイツやスウェーデンといった海外の国の環境が進んでいるっていう話をよく聞くんですよ。よく考えてみると日本でも色々な取り組みがあると。でも、それが英語になっていないために、海外から見たときに日本でどんなことが起こっているか分からないんですね」

●ということは、海外では日本のやってきたこと、やっていることが知られていないっていうことなんですね。

「そうですね。我々は日々、燃料電池がどうとか、日本の取り組みがどうって聞いているんですけど、本当にほとんど知らないんですね。考えてみればその通りで、英語で発信するのはなかなか大変なので、企業の色々な取り組みはプレス・リリースとかで発信されるんですけど、市民の取り組みとか政府の取り組みはほとんど出来ないので、知られていないんですね。それで、たまたま我々の共同代表に環境ジャーナリストの枝廣というのがいるんですけど、地球白書で有名なレスター・ブラウンさんの通訳としてお手伝いをしていたんですが、2001年にレスター・ブラウンさんがいるワールドウォッチ研究所で、年次会合みたいなものがあったんです。で、そこに参加させてもらったんですね。で、そこで日本の取り組みを紹介したいから『5分でいいから下さい』と言って、紹介させてもらったらすごい反響だったんですね」

●「日本も(環境への取り組みを)やっているんじゃないか!」という感じだったんですね。

「『なぜ、教えてくれなかったんだ!』とビックリされてたんですね。僕らも『全然知らないんだな』って逆にビックリしました(笑)。そういうのを日々の活動で伝えていく組織を作ろうということで出来たのがこの組織なんです」

●設立して3年と、まだ新しい団体なんですね。

「まだ出来たてホヤホヤの組織です」

●そんな中で我々が気になった言葉があるんですが、その言葉っていうのが「バイオミミクリ」で「バイオミミクリ・プロジェクト」というのを活動の1つとして行なっているそうですが、この「バイオミミクリ」というのはどういうものなんですか?

「バイオは生物とか生命といった意味ですよね。ミミクリはミミック(mimic)という英語なんですけど・・・」

●「ミミック」という気持ちの悪い映画はありましたね(笑)。昆虫のようなものが人間に化けて、人を殺していってしまうというホラー映画がありました。

「これはホラーではないんですけど(笑)、模倣するとか、真似るという意味がありまして、我々『まねび』と呼んでいます。真似て、学ぶということですね」

●「まねび」ね!

「生物に学んで模倣していく技術という意味があります。実はこの言葉自体は10年ぐらい前にあったんですね。アメリカの科学ジャーナリストの方がそういった名前の本を書いたんです。その中で色々な事例を紹介して、自然から学ぶことでこんなことが出来たと。私がそれを読んだときに『ちょっと待って下さい』と。もともと日本人のほうが自然と一体になったりだとか、自然に寄り添って生きるような感覚、自然感を持っているんじゃないかなと思ったんです。そしたら、自然に学んで真似をしていく、そしてその段階で環境負荷を減らしていくという研究が、実は日本でもたくさんあるんじゃないかと思ったんですね」

●そうだ!(笑)

「『そうに違いない!』と思って(笑)、我々がそれを発掘してそういう事例を紹介していこうと。インターネットを使って海外に日本の事例を紹介しようと。で、それを発掘して発信するというのがバイオミミクリ・プロジェクトなんですね」

カタツムリのおかげでバスルームがキレイに!?

●すでに実用化されている技術、「まねび」がいくつかあると思うんですが、例えばどういうものがあるんですか?

「例えば、みなさんがよく知っている新幹線。これ実は鳥に学んだものなんです。500系の新幹線といって、先が細長くなっている新幹線をみなさん見たことあると思うんですけど、今、実は新幹線というのは早く走るというのはそれほど難しくないそうなんです。ただ、走るときに空気抵抗などによって騒音が起きてしまうんですね。それが問題だということで、大体10年くらい前になるんですけど、開発をしているときに騒音の問題が大きくて、実験すらさせてもらえなかったんですね。近隣の方から苦情が出るからです。それで、それを研究されていた当時のJR西日本の実験長である中津さんという方がすごく悩んでいたんですね。そんなときに、野鳥の会の方から『鳥の中で1番静かに飛ぶのはフクロウだ』と聞いたそうなんです。なぜ、フクロウは静かに飛ぶのかということに興味を持たれて、その方フクロウの大研究を始めたんです。フクロウのはく製を借りてきて、研究ですから実際に風を当てて、空気抵抗がどうなるかっていう風洞実験をしたんですね。で、研究をしていったところ、フクロウの羽にあるからくりがあって、それで音が鳴らないということが分かったんです。そのからくりっていうのは、フクロウの羽の一番前のところ、空気が1番当たるところが小さなギザギザの形になっていたんですね。それが空気に当たるときに、小さな渦を巻き起こすそうなんですね。もともと音っていうのは、大きな渦が起きたときに音が鳴ります。なので、最初から小さな渦を作る。それによって音が鳴らないんですね」

●なるほどね。

「その仕組みが分かったときに、これを新幹線でも応用出来ないかということで、実際の応用には5年くらいかかったそうなんですけど、新幹線の車体と電線を結ぶところにあるパンタグラフというのがあって、そこがどうしても音が大きかったんですね。そんなところにギザギザの原理を応用したところ、空気抵抗が減って音が鳴らなくなったということなんですね」

●要するに、高速で走る新幹線が静かなのはフクロウのおかげなんですね。他に「おかげ」はありますか?(笑)

「おかげ(笑)。カタツムリに学んだという事例があります。これは住宅設備メーカーの方なんですけど、今、東北大学にいらっしゃる石田先生という方が、カタツムリが掃除をするわけでもないのに、なぜ殻がツルツルなのかと疑問を持たれたんですね。本当はたくさん汚れがつくはずなのに、掃除しなくてもいつもピカピカである。それを不思議に思って、同じような原理を応用したら、例えば壁。一生懸命洗剤を使って洗わなくても、自然に汚れが落ちる」

●なぜカタツムリの殻は汚れがつかないんですか?

「私、生物のことは専門ではないんですけど、教えていただいたところによると、殻の表面に極めて細かい溝があると。この溝が油さえ癒着しない汚れ防止機構だっていうことを突き止めたということなんですね」

●細かくデコボコしているから、それが汚れをつけないということなんですね。

「そうなんです。ただ、その構造がナノレベルの構造になっていて、見ているだけでは分からないんですね。今の科学の技術で詳しく見ていくことによって、その構造になっていることが分かったんですね」

●なるほどね。ウチのバスルームはつい最近リフォームしたので、カタツムリの技術がウチのバスルームをキレイにしてくれているんですね(笑)。

「活躍しているんですね(笑)」

●他にはどんな事例があるんですか?

「他には、みなさんがよく見たことがあると思うんですけど、蓮。蓮の葉っぱに水の滴がコロコロと転がっていって、ベトッとならない。そこから蓮の葉っぱの構造をよく見て、それを服に応用して繊維に活かした例があります。雨が降ってもその水を弾くという繊維。それは蓮の葉っぱの構造を参考にして作りました」

ヤモリのおかげで車が縦に走る!?

●多分、バイオミミクリになると思うんですけど、蚊から注射針が生まれたとうかがったんですが、これについて教えていただけますか?

「蚊が我々の血を吸うときに、あまり気が付かないですよね。あまり痛くない。昔の注射針っていうのは、痛かったんですね。我々の子供の頃も痛かったと思うんですけど、子供さんが痛くて泣いていたんですね(笑)。でも、蚊の針は痛くないぞと。じゃあ、蚊の針はどうなっているのかというのを研究された方がいて、それはどうもギザギザになっていて、摩擦が起きないような構造になっていたそうなんですね」

●かえってギザギザしていたほうが痛くないということなんですね。

「そうですね。不思議ですよね。肌にペタッとくっつくものがギリギリまで付いていて、パッと離れるので痛い。でも、ギザギザにすることによってそうならない。その原理を注射針に応用して、痛くない注射針が出来たということなんですね」

●これから研究されていくものがあると思うんですが、例えばどんなものがありますか?

「シロアリのシロアリ塚っていうのをみなさんテレビで観たことがあると思うんですけど、モコッと大きなあのシロアリ塚が、周りの温度が寒いときは0℃、暑いときは50℃になるそうなんです。人間はそんな環境には住めないんですけど、あのシロアリ塚の構造がよく作られていて、通気性がよくて、しかも寒いときには熱を保温して、暑いときには熱を放つようになっているんですね。で、シーズンを通してずっと30℃くらいに保たれて、中の温度が一定なんだそうです」

●キープされているんですか?

「はい」

●クーラーや暖房器具を一切使わないで、シロアリ達は快適に暮らしているんですね。

「はい。その中で繁殖をしたり、場合によってはその中でキノコを育てたりするそうなんです。これ、今、実は最先端の科学者達が研究しているんですよ。それでもすごい仕組みになっているらしくて、まだまだ分からないことがいっぱいあるそうなんです」

●じゃあ、このシロアリ塚に関しては今後も研究が続くんですね。

「ええ、どんどん進むと思います。で、今のところの応用事例としては、空気の流れというものをできるだけ解析して、そういう家を造ったという事例があります」

●それは、やはり快適に過ごせる家なんですか?

「はい。温度が比較的安定していて、通気性もいいし、保温性もいいし、省エネであるという家が実際にもう造られて販売されています。でも、まだまだ研究はこれからという感じです」

●他に、小林さんが「これはすごいぞ!」って思うような例はありますか?

「お風呂に入っていると窓にピタピタとくっついているヤモリ(笑)。あのヤモリがなぜ、ツルツルのガラスの表面をペタペタと歩けるのか。しかも、なぜ全速力で走れるのか。これは、科学の研究者達もまだ分かっていないそうなんですね。どうも、ヤモリの手の表面のところにナノレベルのすごい構造があるらしくて、それを使っているんですね。もし、それが出来るようになれば、例えば今、車は地面だけを走っているけれども、ヤモリのように縦に走れるかもしれない(笑)」

●それはどうかなぁー(笑)。

「『それがどうした!?』とおっしゃるかもしれないですけどね(笑)。でも、それは真剣に今、研究者が考えていることなんですよ」

●でも、何でも応用1つですからね。応用の仕方次第では、私達が今パッと思いつくレベルじゃないものに・・・。

「成りえますよね。我々が研究していて思ったのが、生物は38億年の歴史がある。人間は数百万とか、産業革命以降の技術なんていうのは200〜300年という中で、人間が自然を征服したように思っているけれども、とんでもない。生物が進化させてきた、環境負荷を発生させない、他の生物とのバランスを保つような技術を持っている。それを学ぶ文明を我々がこれから身に付けなければならないんじゃないかということなんです。我々が今やろうとしているのが、色々な事例がある。で、これは研究者や専門家でなくても、我々の生活の中でちょっと自然を改めて見てみれば、『すごいな』っていうものがたくさんあるはずなんですね。例えば、ハチが静止して『ブーン』と止まって飛んでいる。そこから急にバッと動きますよね。あの動きはもちろん人間には出来ないんですけど、あれがどれくらい凄いかっていうのは、あの動きをもし人間の大きさでやったとすると、東京から名古屋まで4秒で動く動きなんだそうです(笑)」

●すごいですね(笑)。

「すごいですよね(笑)。人間がもしそれをやっちゃったら、身体がバラバラになっちゃうらしいんですけど(笑)、でも、本当に凄いことはいくらでもある。そういう『凄い』ってことは誰でも気付くものですよね。だから、そういう自然の凄いっていうものを、とにかくたくさん集めて、それが技術になるならないはまず置いといて、それをインターネット上で大公開する。僕を含めて日常生活の中で自然の凄さを『あっ、凄いな』って思っても、それはそれで終わってしまう。でも、見る人が見れば、そしてタイミングがよければ、これは凄い宝庫なんですよね。だから、そういうのを色々集めて掘り起こして、インターネット上に置いといて、それに研究者の方も入ってもらって、色々な可能性を探る。それによって、我々の生活の環境負荷をどうやったら下げていけるか。我々がどう豊かになっていけるか。そういう目をもって『これはイケる』っていう技術を拾って、開発していくことが必要じゃないかと思っています」

175カ国に情報を発信しています!

小林一紀さん

●バイオミミクリ・プロジェクト以外で、JFSの活動にはどんなものがあるんですか?

「我々は300名くらいのボランティアさんから成り立っていまして、毎月30本の日本の取り組みを取材をして、記事を作って、国内外に発信しています。で、最初、我々が国外の人に発信しても、どのくらいの人に興味を持ってもらえるのかなっていうのがあったんですけど、今なんと175カ国に発信しているんですね。これ、国連に加盟している国が180〜190カ国だそうなので、ほとんどの国の方に発信しています。無料でメール登録できるので、日本からの情報が欲しいと思えば、登録されて毎月発信しているんです」

●ということは、そういう人達も一緒になってバイオミミクリ・プロジェクトに参加すると、世界中から自然から真似て学べるものが集まってきますね! 管理が大変になるんじゃないですか?(笑)

「『どうなってしまうんだろう』という感じです(笑)」

●分類化するのも・・・。

「大変ですね。最近立ち上がった研究会がありまして、ネイチャー・テック研究会というんですけど、そこには企業の方、研究所の方、大学教授の方、いっぱい集まってきてまして、そこで色々な事例を研究して発表していこうというふうになっています」

●専門家達が集まって発表する場もあれば、ホームページなどを通して一般の誰でもが参加しながら身近の自然から得るアイディアを載せて発表する場もあるんですね。

「それを作っていこうと」

●これから?

「これからなんです(笑)」

●(笑)。バイオミミクリ・プロジェクトをはじめ、これからも色々な部分で自然から学び、真似ていくことと思いますが、人間も自然の一部ですから、本来は真似て学ばなくてもよかったはずのものが、今、ここまで来てしまっているという部分もあると思うんですね。でも、まだまだたくさんありそうですね。

「ある意味、無限ですよね。生命の数だけ不思議があって、我々はそれを見とる目をもう一度養わなければならないんじゃないかと思いますね」

●今日はどうもありがとうございました。


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■「非営利団体ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)」情報

 日本における多様な環境への取り組み、知恵、思想を海外に発信し、日本がより主体的に世界を持続可能な方向へ向けることに寄与することを目指す目的で2002年8月に設立された環境系の団体。
 今回お話の中心となった「バイオミミクリ・プロジェクト」の“バイオミミクリ(生物に学び、模倣する技術)”に関して「JFS」は特徴をふたつあげている。
 1つは、自然のデザインやプロセスを、モデルやヒントにして、人間社会の問題を解決すること。
 そして もう1つは、ライフサイクルを通した、環境負荷を下げること。
 詳しくは「バイオミミクリ・プロジェクト」専用ページをご覧ください。
「バイオミミクリ・プロジェクト」専用ページ:http://www.japanfs.org/ja/biomimicry/index.html

 尚、「JFS」では、個人サポーターを随時、募集中。会員になると、毎月ニュース・レターが配信されるなどの特典あり。

  • 年会費:一口、5,000円
  • 問い合わせ/申し込み:非営利団体ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. STRANGE WORLD / SARAH McLACHLAN

M2. YOU LEARN / ALANIS MORISSETTE

M3. WONDER / NATALIE MERCHANT

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. ISLAND OF LIFE / JON ANDERSON & KITARO

M5. WHILE YOU SEE A CHANCE / STEVE WINWOOD

M6. MOTHER EARTH / NITTY GRITTY DIRT BAND

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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