2006年1月15日

ケニア初の日本人獣医師・神戸俊平さんとアフリカ

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは神戸俊平さんです。
神戸俊平さん

 30数年前にアフリカに渡った際に、すっかりアフリカが気に入ってしまい、現地で獣医さんの資格をとりなおし、ケニア初の日本人獣医師となった「神戸俊平(かんべ・しゅんぺい)」さんをゲストにお迎えします。アフリカでの獣医師としての仕事のことや、ゾウの保護運動のことなどうかがいます。

ジャングルは地球の田舎

●今日はよろしくお願いします。ジャンボ!

「ジャンボ!」
(スワヒリ語で「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」といった挨拶の意味)

●唯一知っているスワヒリ語で御挨拶しましたが(笑)、神戸さんは日本で獣医さんをなさっていたんですよね?

「はい。東北で3年やりまして、アフリカのナイロビ大学を出て、そこで獣医の資格をまたとって、ケニアで獣医師をやっております」

●そんな中で、最初はアフリカを5年、放浪なさっていたそうですね?

「ええ。ナイロビ大学に入る前なんですけど、一応、北から南まで、地中海から喜望峰までウロウロしていました。アフリカ大陸っていったって、ジャングルとか砂漠とかサバンナとか大湿地とか色々あるので、そういうところはどういう環境なのか、どういう動物がいるのかが見たかったので、バックバッカーとして廻りました」

●当時、バックパッキングで廻るっていっても、今とは全然違いますもんね。

「情報がなかったですね」

●その中でバンブーテ族という熱帯林の森の中に住んでいる身長1m50cmくらいの小柄な民族とも生活されたそうですね。

「はい。コンゴのジャングルに住んでいる狩猟採集民族なんですけど、半年くらい一緒にいました」

●どういう生活をしているんですか?

「森の中で、男の人は弓矢でサルとか動物を捕って、女の人は木の根っことか果物とかを採ってきて食べているんです。それで葉っぱと枝の、お椀を伏せたような家に住んでいるんですよ。それだけなんだけど、その人達と一緒に6ヶ月いました」

●ホームページとかを拝見していると、「バンブーテはエコロジストの先祖」っていう書き方をなさっていらっしゃいますけど、これは非常にインパクトのある表現ですよね。

「そうですね。物があっても採りすぎたり、全部収穫するっていう考えがなくて、必要な部分だけ採る。サルの群れが逃げていくのを一網打尽に全部捕って駆るんじゃなくて、自分のお腹が減った分だけ1頭か2頭。それから木の根っこにしても、たくさん掘ればそれだけ収穫がたくさんあるのに、自分が必要な分だけ採って、後は土をかぶせて自然にっていう生活スタイルが、私たちから見れば環境の中ですごく人間らしく生活しているように思えました」

●また、「ジャングルは地球の田舎」という表現もされていましたね。

「これは説明しづらいけど、うっそうとしている森なんだけど、『きっと僕達人類はこういうところから派生したんだな』って思わせる自然の畏敬の念を感じるじゃないですか。例えば、大きな山や森を目の前にして、小さな人間の存在を思うとき、自然に対してとても感動するじゃないですか。だから、コンゴのジャングルっていうのは、そういう意味ですごく『田舎』を感じました」

●そんな色々な経験をして、「住もう!」と思ったキッカケは何だったんですか?

「何十年も住んでいるんだけど、今でも『住もう!』っていう意識はなくて、獣医になってNGO活動をやっていって、ずっといるっていうだけで、『骨を埋めるんですか?』とか(笑)、似たような質問をよく聞かれるんだけど、あんまりそういう意識はないんですよ」

●ナイロビの大学院に入学して、向こうで獣医師の資格を取ってらっしゃいますよね。やはり、日本での獣医師の資格とかなり違うんですか?

「仕事の内容は同じですよ。日本の資格もとても難しかったですしね。向こうの仕事の内容と日本の違うところは、熱帯伝染病、日本では教科書には載っているけれども、実際には見ることのない病気として口蹄疫とか、東海岸熱、ツェツェバエによる眠り病、狂犬病、こういった病気は日本では教科書や研究所でしか見られない病気なので、そういうものが本当に身の回りにあって、向こうの獣医はそういう病気に対処しているのがとても違います」

日本の税金とフラミンゴの関係とは!?

●神戸さんはナイロビで獣医業をしてらっしゃる以外にも、色々な環境保護活動を精力的にやっていらっしゃいますが、実は私、アフリカに80年代半ばに行ったことがあるんです。で、そのケニアですごく印象に残ったのが、ナクル湖という湖にフラミンゴがまるで桜のごとくピンク色にバーッと集まっていて、近づいてみるとそれがフラミンゴの大群だったんです。みんな同じ方向に向かってある程度歩くと、クルッと回って逆向きに歩くっていうのが今でもすごく印象に残っているのですが、そこで大ナクル水道計画っていうのが持ち上がっているそうですね。

「そう。今、おっしゃられた日本の海外援助(ODA)のひとつの計画で、86年に上水ダムをナクル湖の外に作りまして、その上水がナクル市に流れ込む。その排水がナクル湖に流れ込むことによって湖が汚染されて、それによってフラミンゴの数が減っていると僕達は心配しているわけです。環境に影響を与えたODA、私たちの税金がそういうところに使われたと僕は思って、ODAの正しい使われ方、緩和措置の正しいあり方などを日本政府に提言したり、『そういうことはやめてくれ』という運動をしています」

●こういう問題って非常に難しいなって思うのが、住んでいる人達にとってはキレイなお水っていうのはとても大切。でも、一方では同じようにその地で生きている生き物たちっていうのもたくさんいて、その全てをひっくるめて環境というか、その場が成り立つと思うので・・・。

「そうですね。いつも言われている、開発と環境保全はいつもぶつかり合っているわけですね。どんなところでも。それは難しいです。説明をさせていただきますと、ナクル湖っていうのは日本でいう田沢湖の2倍くらい。で、この湖には流出河川がない。ということは湖がどんどん蒸発するわけです。そのことによって湖の水質が強アルカリ性になっていまして、そこに3種類の藻が異常発生するんですけど、それを食べに来るフラミンゴが今、おっしゃったように桜のように素晴らしい。それが今、ケニアの観光産業の看板になっているんですけど、こういう特異なエコロジー・システムの中に日本のODAによる排水が流入したっていうことで、エコロジーのバランス、特に重金属汚染なんですけど、湖水の汚染によって、フラミンゴに限らず水鳥の数がだんだん減っていっていると私たちは見ています。
 で、きっとこういったアフリカの奥地で日本の税金がどういうふうに使われているかなんて、番組を聞いていらっしゃる方も知らないと思うんですけど、私たちの税金が正しく使われているのか、払った側の、あるいは日本政府のことですけど、ちゃんと責任をもって最後まで見届けることが大切だと思っています」

●それ以外に私たちが知らず知らずで加担してしまっているようなことが、色々なところであると思うんですけど、神戸さんから見るアフリカ・ケニアでのもので1番大きいのは、このナクル湖水道計画ですか?

「他にも色々な案件がありまして、ノーベル賞をもらったワンガリ・マータイという方がいらっしゃいますけど、ナイロビのそばにその方が植林をしている森があります。そこにナイロビ・バイパスを造ろうとしています。変なのは環境副大臣が植林をして、公共道路省ではバイパスを造るといっている。同じ森で植林したり、バイパスを造ったりして、まさに開発と環境保全のぶつかり合いがあるところですけど、そういったバイパス計画も12年前の日本のODA、JICAという組織がフィジビリティ・スタディという可能性調査をした案件が今、行なわれようとしています。それも、日本が何らかの形で関わっているわけです。そのほかに有名な鈴木宗男議員絡みのソンドゥ・ミリウ・ハイドロ・ダム、日本政府はダムと呼ばないで堰と呼んでいるんですけど、建設が続行中です。
 ですので、ここ30年間くらいを見ていると、かなり色々な大型インフラODAがケニアでも行なわれています。これはケニアだけの視野なので、例えばアフリカ大陸や東南アジアや南米について、どういう案件が行なわれているのか、私たちの税金がどういうふうに使われているのか、みんな責任を持って見てもらいたいと思いますね」

アフリカゾウ移動計画!

神戸俊平さん

●アフリカでの動物の問題で、誰もが一番知っていることが象牙問題だと思うんですね。これはテレビでも取り上げられたりしていて、みんなが買わなければ需要と供給の関係で密猟もなくなるといわれているんですけど、この被害というのは今でも続いているんですか?

「そうですね。密猟は未だに続いています。やはり、貧困問題を抱えるアフリカでは自分の目の前を貴重なお金になるものがウロウロ歩いていたりすれば、殺してとって売りたくなりますよね。ということで、ワシントン条約で13年くらい前に国際商取引は禁止されているものの、ゾウの密猟はアフリカ各地で未だに進んでいます。『ゾウが増えたんじゃないか?』ってよくいわれますけど、局所的に増えているところもあるかも知れないけど、一時の10分の1くらいに数が減ってしまったのが増えているとはいえ、もとの状況に戻るまではかなり時間がかかると思います」

●すごく初歩的な質問になるんですが、ゾウにとっての象牙の役割とは何になるんですか?

「牙で地面に穴を掘って水場を掘り下げたりとか、木に刺して木の皮とか枝とかをとって食べたり、象牙には象牙なりのちゃんとした役割があるわけです」

●じゃあ、ゾウにとっても象牙は大きいほうがいいんですね?

「メスゾウが発情して、そこへ小さい象牙を持ったゾウと、大きい象牙を持ったゾウが周りに行くと、大きい象牙の方に行くみたいですね」

●やはり大きいほうがいいんですね。

「種の保存として大きな牙を持っているほうが、メスにとってアトラクティブらしいですよ」

●強そうに見えますもんね。

「それが今では仇となって、牙が大きいほど殺されているんですけど、繁殖、種の保存としてから見るとメスは正直だから、大きいほうに行くというのはそういうことじゃないかな」

●この番組でも龍村仁監督のドキュメンタリー映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』の第1番でダフニー・シェルドリックさんという、密猟で親を殺されてしまった子ゾウ達を保護して、還えすという運動をずっとやってらっしゃる方がいるんですが、神戸さんも御一緒されたことがあるんですよね?

「ええ。ナイロビのうちの近所で彼女がそういう活動をしていまして、ウチの『アフリカと神戸俊平友の会』でも集めたお金を持っていったり、象牙を買わないでっていう日本語のポスターなんかも、シェルドリックさんのところに貼ってもらったりとか、色々関係があります。色々な会議でも時々会いますよ」

●また、アフリカゾウの移動計画というかなり凄まじい計画があるみたいですね。

「ええ。なぜやるかというと、ゾウが近隣の農家の畑の作物、パイナップルだとかバナナを食べたり、夜中にいきなり出会って殺されちゃったりとか、いわゆるゾウとのコンフリクトが大きく問題になってしまったということで、ゾウを空いている安全な場所に移動させましょうということでゾウを移動させています」

●でも、ゾウを移動させるっていっても「こっちの方が空いていて安全だから、こっちに来て下さい」てわけにもいきませんもんね(笑)。

「4〜5トンのゾウを麻酔で倒すんですけど、エトロフィンという麻酔薬をヘリコプターの上から撃つんです。5トンのゾウが倒れるなんていう麻酔薬が、仮に人間に刺さったりしたら即死します。そのくらいの劇薬なんです。5トンのゾウが倒れてもちゃんと横に倒れてくれないと、ゾウっていうのは体重が重いので、自分の内臓とかを寝ている間に圧迫して呼吸困難に陥ってしまったりするんですね。寝方によっては呼吸困難に陥って死んでしまったりとか、難しい技術的な問題があるんです。そういった問題をクリアしつつ、以前たくさんいた場所だけども密猟者にたくさん殺されちゃって、ゾウのポピュレーションが少なくなっちゃったという場所に送っています。この間、先々月にやったのは約700頭くらいいる、インド洋側に面した地域から400頭をツァボ・ナショナル・パーク、シェルドリックさんが子ゾウを野生に還えす同じツァボ国立公園ですけど、そこの北の方、ゾウのポピュレーションの少ないところに400頭を移動させているところです」

●うまく住みついてくれるといいですね。

「みんなもそう願っているんですけど、その後、その土地にどうアダプトしていったか、その後の追跡調査、モニタリングをしていかなきゃいけないので、発信機をつけたゾウが5〜6頭いますので、今後はアンテナを振ってどこにいるのかを調査していく予定です」

マサイの「伝統と文明」

●私たち、ザ・フリントストーンでもアフリカを何度も取り上げる中で、やはりアフリカのケニアというとマサイ族のイメージが強いですよね。でも、そのマサイの生活も観光客の西洋の影響を受けて、どんどん変わってきているという話を聞くんですけど、伝統的な生活をする中で、マサイの人々にも色々な問題が起こっているそうですね。

「いわゆる文明が発達していっているわけで、伝統生活か文明かですよね。で、一夫多妻の生活を今まで続けていますけど、ひとつの屋根の下に学校に行っている子供、それから昔ながらの戦士が同じ生活をしているっていうことは、マサイ自身もこんがらがっているんじゃないかと思うんですよね。そういう状況で、マサイ自身が言うには『社会が目まぐるしく変わっていくこの時代に、私たち牧畜民がこの伝統的なマサイの生活を続けていけるかどうか』を真剣に考えているわけですよね。牧畜って言うのは環境の厳しいところですよね。水が少なくて農耕ができないところで、家畜を介して生活が成り立つ。そういう人のほうが先に環境の変化、温暖化とかを受けやすい生活なので、そういうところからマサイも含めて、これから伝統的な生活ができなくなっていくんじゃないですかね」

●そういう意味では教育がとても大事になってきますね。

「伝統生活を送っている人達にはマサイの教育っていうのがあったわけですよね。例えば、薬草をどうやって利用していくかとか、足跡を見て『このライオンは右に行ったぞー!』とか、そういう自然の中で役に立つ教育っていうものもあったわけですよね。そういう自分達の伝統生活に重要な勉強と、かたや日本で文部省がつくっているような教育はだんだん離れていっているじゃないですか。そういう地域の中で重要な勉強をいわゆる西洋教育の時間がとっちゃっているわけですから。その辺はマサイ自身、アフリカ人自身が決めていくことなのかなと思います。こんがらがっているわけですから、どっちがいいとは言えないんだけど、マサイ自身も快適な生活をしたいでしょうし、実際に今、自転車に乗って携帯電話をぶら下げてサバンナをウロウロしているわけですよ。だから将来どういうふうになっていくのか。今はそういう状況です」

●最近、現地のことをたくさん知るエコ・ツアーというのをよく耳にするんですけど、アフリカのものもありますし、神戸さん自身もエコ・ツアーをやっていらっしゃるんですよね。

「はい。外貨を落として快適なサファリをするっていうだけではなくて、マサイが持っている薬草の使い方とかを逆に勉強させてもらうわけですよね。そういうエコロジー・ツアーを企画しています」

●そのツアーはこれから行なわれるんですね。

「そうですね。場所はマサイマラというんですけど、有名なタンザニアのセレンゲッティ・ナショナルパークからヌーが何万頭も500キロの大移動をする場所で、そういう企画をたてているところです」

●いつくらいになりそうですか?

「夏くらいには始めたいと思っていますので、番組を聞いていらっしゃる方で興味がある方は御連絡下さい(笑)」

●これは決定したら番組にもお知らせいただいて、ツアーを組んでみんなで行けたらなと思いますので、そのときはよろしくお願いします。

「カリブ。ウェルカム」

●カリブはウェルカムでしたっけ?

「そうですね。覚えていませんか?(笑)」

●覚えてないです(笑)。ありがとうございましたは?

「アサンテサーナ」

●あ、そうですね! アサンテサーナ。

「アサンテサーナ。どうもありがとうございました」


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■アフリカ・ケニアの獣医さん「神戸俊平」さん情報

『サバンナの話をしよう〜獣医・俊平のアフリカ日記』
『アフリカゾウ56頭移動大作戦』

 アフリカに魅せられてケニアに移り住み、獣医師としての仕事をしながらアフリカゾウなどの保護運動を行なっている「神戸」さんを支援するために、94年に設立されたNGO『アフリカと神戸俊平 友の会』では随時、資金援助、また、ボランティアで活動をサポートしてくださる会員を募集中。『友の会』の会員になると年3回発行予定の『ナイロビ通信』が送られてくる。
 尚、日本で集めた資金は、マサイの家畜診療やゾウの密猟防止などの保護運動、また、エイズやストリート・チルドレン問題などに使われています。皆さんもぜひご協力ください。

問い合わせ:人と自然の研究所内 東京事務局
  TEL:03-5485-5723

『サバンナの話をしよう
 〜獣医・俊平のアフリカ日記』

時事通信社/定価1,680円
 アフリカの野生動物の声に耳を傾け、自然の生態系を守りながらツェツェバエと闘う「神戸」さんの感動の日々を綴った本。

『アフリカゾウ56頭移動大作戦』
学習研究社/定価1,260円
 アフリカゾウの密猟と象牙の密輸。そんなゾウの保護に立ち上がった「神戸」さんとケニアのレンジャーの感動のドキュメント。

・「神戸俊平」さんのHP:
  http://www.kambevet.org/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. AFRICA / TOTO

M2. THE DOCTOR / THE DOOBIE BROTHERS

M3. ALL 'BOUT THE MONEY / MEJA

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. SWEET LULLABY / DEEP FOREST

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. TWILIGHT TIME / THE PLATTERS

M6. EBONY & IVORY / PAUL McCARTNEY & STEVIE WONDER

M7. UNDER AFRICAN SKIES / PAUL SIMON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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