2006年2月12日

獣医師・森田正治さんと野生動物の保護を考える

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは森田正治さんです。
森田正治さん

 北海道・中標津(なかしべつ)の獣医さんで、道東動物・自然研究所・理事長「森田正治(もりた・まさはる)」さんをお迎えし、釧路湿原や野付半島(のつけはんとう)周辺の野生動物の状況や、傷ついた動物たちの治療活動についてうかがいます。

野生動物の保護は人間側の改善から

●森田さんは獣医としてのお仕事以外にも、NPO道東動物・自然研究所の理事長でもあり、道東野生動物保護センターのセンター長も兼務していらっしゃいますが、まず、道東動物・自然研究所というのをご紹介していただけますか?

「はい。カッコイイ名前なんですけど(笑)、実は20年ほど前から野生動物の保護を始めまして、15年ほど前に道東野生動物保護センターをスタートさせてからずっとやってきたんですけど、野生動物保護センターを発展させるべく、NPO法人に申請しているんです。まもなく認可が下りると思うんですけど、野生動物の保護だけではなくて、野生動物の教育、自然の教育、あるいはエコツーリズムなんかもやるような幅広い活動をしたいと思っています。特に、教育に力を入れたいなと思っています」

●一部だけを切り取るわけにもいかないですもんね。野生動物を保護するということは、イコールその環境をも守らないとどうにもなりませんもんね。

「そうですね。20年ほどやってまして、およそ2000件くらい持ち込まれているんですけど、その中の8割が人為的原因。交通事故、窓ガラスや建物にぶつかったとか、電線に接触したとか、釣り針を飲んだとか、鉛を飲んで中毒になったとか、人間が原因の理由で持ち込まれるわけですね。そうなると、予防しなくちゃいけない。治療するだけでは根本解決にはなりませんよね。予防となると、そういう人為的な原因も取り除かなくちゃならないし、道路で交通事故に遭うということは、自然のある中に道路ができちゃったわけですね。ということも含めると、自然環境が悪くなっているから、自然を守らないといけない。つまり、これ以上自然が壊されるとますます事故が増えてしまう。ということで、自然全体も見ながら個体も見ると。両方を見ながら車の両輪のようにやっていかないと根本解決にならないだろうと。そういうことで『動物と自然の研究所』というネーミングにしたんですね」

●ましてや相手が動物ということになると、教育するといっても「人間がここに道路を造ったからここに来ないように」って説明しても分かるものでもないですし(笑)、ということは加害者である人間に注意を呼びかけるしかないんですね。

「そうです。例えば、北海道には『動物注意』というシカの表示がされた看板があちこちにあるんですよ。そういうところはシカにぶつかる季節や時間帯が決まっているんですね」

●いつぐらいのどんな時間帯なんですか?

「エゾシカの場合は大体、秋の事故が多いんです。10月、11月と春の3月。よく見ると道路の両側が青々しているんですね、つまり、芝が張ってあるんですよ。それが、排気ガスによって温度が上がるわけですから、秋遅くまで青々しているわけですね。そうすると、冬の前にお腹いっぱい食べなきゃいけないシカ達が、道路に寄ってくる。すると、当然ぶつかる。3月になると、太陽が当たる斜面なんか特に雪解けが早いですから、青々していてシカが道路に出てくる。で、道路の法面に張ってあるのがほとんど牧草なんです。で、ゴルフ場で使われているようなまずくて固い芝が張ってあれば、大しておいしくないから集まってこないんですが、なんといってもシカの好きな牧草が道路の両側にあるわけですから・・・」

●そりゃ、行っちゃいますよね。

「そりゃあ、『シカさん、来なさい来なさい』と言っているようなものですね。それを人工芝でもいいから別の芝にしてくれと言っているんだけど、なかなか『コストが高くなる』とか言ってやってくれなくてね。今、言ったようにシカだけじゃなくて、窓ガラスなんかもそうですね。大きな窓ガラスを張って、外側に庭木を植えておくと、鏡の作用で向こうにも木が生えていると鳥が錯覚して、ガラスにぶつかっちゃうんですね」

●反射して、あるように見えてしまうんですね。

「そうです。それを防ぐためには窓ガラスの内側にレースのカーテンを張るとか、あるいはお辞儀をさせるくらいにちょっと傾けるんですね。そのことによって木が映りませんから鏡の作用にならない。あるいは、帯広市なんかでは『動物注意』のほかに『リス注意』の看板があって、看板を立てるだけで相当数の事故が防げているらしいですね。そういった些細なことなんですけど、少しずつ改善していけば、相当数助けることが出来るんですよね。でも、残念ながら保護される件数がどんどん増えていっている。それは、やはり先程から言っているように、野生動物達にとっては窮屈な世界になってきたんですね。つまり、人間が野生界に進出してきているということもいえますね」

動物の権利を守りたい

●森田さんがご覧になっていて、野生動物界での一番大きな変化ってなんですか?

「今、『エゾシカが増えて困った困った』と言って、一生懸命、数を減らすべく努力をされています。実は、15年くらい前はウチで保護したシカに発信機をつけて、知床で放してるんですよ。知床にはあまりシカがいなかったんですよ。それが今は、シカがたくさん増えてしまった。なぜシカが増えたかというと、地球温暖化が原因なんです。地球温暖化ということは雪が少ない。雪が多いとシカ達にとっては大変なんです。なぜかというと、雪の下にある笹を掘って食べられない。仕方ないから木の皮を食べる。お腹の足しにはなるけど、栄養はない。で、足が細いですから大雪になると動けない。そういうこともあって、今までは弱いシカ達が淘汰されてきたわけね。で、雪の量が少なくなって、だんだん生き延びられるようになった。そしてもうひとつの理由が農業の振興。実は昔より今、牧草畑がどんどん増えているんですね。『シカさん、食べなさい』と言ったつもりはないんだろうけど(笑)、結果的に食べてますね。そういったことで、ここ10年〜15年でシカがぐっと増えてきたんですね。で、よくオオカミがいなくなったからシカが増えたという説があるんですが、オオカミは100年前に絶滅しているんですね。それからシカがずっと増えてきたのなら、オオカミが原因かもしれませんが、増えたのがここ10年〜15年ですから。そういったことで最近シカが増えたというのは、やはり人間が悪いのかなというふうに思います。
 だから、シカを保護していたら『お前、数が多いのにシカを助けてどうするの!』ってよく言われるんです(笑)。でも、昔は少なかったんですから。だから今、数がたくさんいるからといって、10年後、20年後は分かりませんよね。逆に自然環境が悪くなるから今、シマフクロウだとかタンチョウだとか、ワシなんかの数が減ってきて、いわゆる希少種といわれる。数が減っているのも人間が原因ですが、実はカラスやカモメのように数が増えているのも人間が原因なんですね。だから、数が多い少ないで判断しちゃいけないんじゃないかなぁと思いますね。どうしても少ないと天然記念物だとか、法律で守ろうとしてますよね。それもとても大事なことなんですけど、やはりそればかりに目を奪われてはいけない。つまり私、動物に差別したくないんですね。だって、カラスが増えたのはカラスに責任があるのか、シカが増えたのはシカに責任があるのか、やはり人間にも大きく責任があるわけで、そのことを棚に上げといて、数が多いとか少ないという議論はおかしいんじゃないかと思うんです」

●森田さんのお話をうかがっているだけで、人間って本当にどうしようもない生き物かもしれないなって思っちゃったりするんですけど、どうするのがいいのでしょうか?

「正直言って、動物に対する考え方が非常に遅れていると思います。私もあちこち海外に行って見てますけども、そういった意味では、例えば移入種といわれるアライグマの問題、タイワンリスの問題、あるいはシマリスの問題が、関東圏では深刻な問題になっていますね。これは、人間が捨てたからどんどん増えていったわけで、イヌでもネコでも数十万頭が捨てられて、安楽死させられているんですね。実は、捨て犬、捨て猫というのは、法律では50万円以下の罰金なんですよ。捨てるということは、犯罪なんですよ。なのに、簡単に捨てちゃうんですね。そういったことを含めて、動物に対する考え、気持ちが安易じゃないかなと思うんです。そういった意味でもうちょっと動物をキチッと見ていただきたいなと思うんですが、例えば私が住んでいる北海道では、負傷動物に対して助成金を出す制度があるんですよ。で、飼い主さんが見つかれば、飼い主さんから治療代をいただきます。しかし、見つからない場合は行政からいただくようになっています。野生動物もそうです。ただ困るのは、飼い主さんが見つからなかったときにどうするか、あるいは治療した野生動物を野生に返せない場合は、飼うしかないですよね。一生、障害動物として面倒を見なきゃならない。そのシステムが非常に遅れているんですね。ですから、やむなく安楽死させられている場合もあるんですよ。
 そういった意味で里親制度ももうちょっと普及させないといけないし、野生動物も野生動物リハビリテーターという制度を確立させたいと思うんです。野生動物看護士ですな。学校で教えたり、講習会をやったりしながら、獣医師以外の方が野生動物の看護士として、助けていただく。看護はもちろんのこと、野生に復帰できない動物達を世話していただくと。そういう制度にしていかないと、一生懸命治療をしても、引き取り手がなくて安楽死では、なんのために治療したのか分からなくなってしまう。実は野生動物リハビリテーターという制度がアメリカにあるんですよ。それの日本版を作っていきたいなということで、今、色々と準備をしています。ですから、これはイヌやネコを含めたことなんですが、私は動物の権利、動物の福祉ということを、ちゃんと考えなきゃならないんじゃないかなと思うんです」

獣医師が動物医師と呼ばれる時代に!

●森田さんは獣医さんの先輩として、今の若い獣医さんとか、そういう学校に通っていらっしゃる学生さん達をどうご覧になりますか?

「私は若い獣医学生さん達にこういうことを言っています。将来、動物医師といわれるように頑張って欲しいと。もともと、獣医師のことを英語でベテリナリアンと呼ぶんですが、ベテリナリアンとは動物医師という意味なんです。獣医の獣というのは『けもの』という字ですよね。獣というのはHair(毛)なんですね。Hairの生えている動物の医者なんですね。ということは、毛の生えていない鳥だとか、鱗のある魚っていうのは、獣医系の大学では治し方を教えていないんですよ。だから、獣医師というよりも正確には、犬猫医師といったほうが正確かもしれないね」

●今は特に?

「はい。以前は牛馬医師でしたね。20年〜30年前は犬猫の勉強よりも、牛とか馬の勉強がメインでした。今は犬猫がメインで、牛に聴診器を当てたことがないという学生もいるくらいですからね。そういうことで、名実ともに動物医師であって欲しいんですね。つまり、国際的に欧米諸国の仲間入りが出来るように、野生動物を含めた、魚達も含めた色々な動物を診られるお医者さんに、そういう免許になって欲しい。
 実は、大学の中で野生動物の治し方を教えている学校はほとんどないんですね。ですから毎年夏、私のところに全国から学生達が勉強に来るんです。実は、日本に野生動物の治し方が書いてある教科書はないんです」

●ないんですか?

「はい。まもなく『野生動物のレスキューマニュアル』という本が出ます。私一人が書いたわけではなくて、私が編集者で色々な先生方に御協力いただきました。つまり、動物病院に1冊置いておくことによって、分からなくてもその本を見ながら治療をしていただこうと、あるいは手当てしていただこうと思っております。そういう本があれば大学で勉強していなくても、習っていなくても、治療できるんじゃないかなという思いがあってね。それもやっとのことですね」

●日本ってもともと自然が多い国ですし、そういう意味では野生の動物達っていうのも大きいものから小さいものまで色々、全てを含めるとかなりたくさんいるじゃないですか。今まで、マニュアルがなかったのが不思議ですよね。

「そうですね。20年前に私が野生動物の保護を始めたころには、本当の変わり者ですからね。『あんなのは放っておくものだ』というような感じで。最近ではやっとメジャーになってきましたよ(笑)」

●(笑)。これも時代の流れでしょうか?

「そうですね。で、獣医学生の大半が動物を助けたいという気持ちがあって、獣医の学校に入った人が多いんですよ。でも、いざ学校に入ると何も教えてくれない(笑)。なので、ちょっと困ったなという感じで夏、私のところにワンサワンサと勉強に来るのはそういう理由があるからなんですね」

●森田さんのところに来る学生さん達を見ていてどうですか?

「私がいるところは北海道のはじっこですよ。知床のすぐそばに住んでいるんですが、夏はシーズンで交通費が高いんですね(笑)。受講料を払いながらわざわざ西日本から来ている人が多いんですよ。そうなると根性だよね。1週間で7教科ある研修をして帰るときには、みんな活き活きして帰りますね。で、自分は野生動物のことだけじゃなくて、幅広く視野を広げましょうと言っています。例えば、獣医学的なことだけじゃなくて、政治的なことも、経済的なことも勉強しないと根本改正にはならないんですね。先ほど言ったように、農業が栄えたから自然が壊されて野生動物が困っているわけですから。もう、経済学的なこと、政治学的なことも知っておかないとまずいわけですねよ。そういうことで、色々なお話をするなり、色々な人達の話を聞いてもらう。そういう中で自信を持って、帰ってくれる若者たちは年々優秀ですよ」

●今後の動物医界は非常に楽しみですね!

「はい。私の生きている間は『動物医師』というネーミングはないと思います。あるいは獣医学部が動物医学部に変わることはないと思いますけど、本当は変わって欲しいんですけどね。今の若い人達に頑張っていただければ、10年後、20年後、30年後には動物医師という名前に変わる時代が来るんじゃないかと期待しています。そのために獣医師界を始めとして、最近は色々な勉強会をやっているし、大学も少しずつ変わってきていますので、これからますます期待がもてると思います」

命の尊さと自然の大切さを伝えていきたい

●森田さんから見て、野生動物を保護する重要性ってどんなことがあげられるでしょううか?

「うーん、野生動物と接触が多い人と少ない人の違いもあるでしょうし、そういった意味でなかなか難しいんですが、ひとつは野生動物は自然環境のひとつの指標だと思っています。つまり、数が減ったとか増えたっていうのも、自然が壊れているというひとつの指標ですし、数が減ったとか増えたとか、傷ついたも含めて、野生動物を見て、自然の状態がこうなんだというふうに理解していただくといいのかなと思うんです。そういった意味で、個体を助けても全体は良くならない。1頭1羽を助けても大きな自然は守れないんですね。ただ、言えることは傷ついたり、数が減ったりする動物を通して、ひとつの命として見ていただきたいなと思うんです。人間の場合、命の尊さっていうのを学習する機会がなかなかないんですよ。例えば、赤ちゃんが生まれるときも病院。そして、人が亡くなるときも病院なんですね。すると、命が誕生する、失われていくっていうのを目で見ることがないんですよ。そういった命を大事にしたりする学習を子供達にしてもらうためには、やはり動物を通してしかないのかなと思うんです。そういった意味で、傷ついた野生動物達を里親として保護していただくのもありがたいです。あるいは、イヌやネコ達から学習していってもらいたいなと思います。それが、飼えなかったら小鳥を飼う。あるいは魚を飼う。それもダメだったら、動物園へ行って見るとか、そういった意味で是非、動物と接することをお薦めしたいと思います」

●大人の方は責任を持った接し方をしていただきたいですよね。

「もちろんです。実は、これから団塊の世代といわれています人達が定年を迎えて、『さて、これから自分は何をしたらいいのか』というときに是非、獣医師免許を持っている人はもちろんのこと、それ以外の方も野生動物のレスキューに協力していただきたいなと思います。非常に遅れた分野ですので、もちろんイヌやネコ達の里親さんも大歓迎ですが、傷ついた野生動物達が残念ながらたくさんいますので、そういった面倒も見ていただけるような方々が増えていけばと思います。命の尊さと自然の大切さのメッセージを伝えていくことができればいいなと思っています」

●森田さんはそれを歌を通してもやっていらっしゃいますので、いずれフリントストーン主催のコンサートなんかも開ければいいなと思っております。

「ハハハハ(笑)。その時はよろしくお願いします」

●こちらこそよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。


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■北海道中標津の獣医師「森田正治」さん情報

『野生動物のレスキューマニュアル』近日発売!
文永堂出版/定価7,140円
 「森田」さんを始め、その道の専門家が原稿を寄せた野生動物救護の実践書。全国の獣医さんや“動物医”を志す学生さん、そして 自然保護や調査の現場で野生動物と接する機会の多い方にぜひ参考にして欲しい一冊!

 北海道中標津で森田動物病院の院長を務める「森田」さんは「道東動物・自然研究所(NPO法人申請中)」の理事長や「道東野生動物保護センター」のセンター長、また「別海町野付半島ネイチャーセンター」のセンター長も務めながら、自然を守る活動やエコツーリズムなどの自然案内人を養成するような教育など、野生動物だけではなく、動物たちを取り巻く環境をも保護するために日々精力的に活動されています。

・森田動物病院のHP:http://www.aurens.or.jp/hp/animal/top.html
・道東野生動物保護センターのHP:
  http://www.aurens.or.jp/hp/animal/html/doutou.html
・別海町野付半島ネイチャーセンターのHP:
  http://www.aurens.or.jp/~todowara/index.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. TWO PRINCES / SPIN DOCTORS

M2. WILDFLOWERS / RELISH

M3. HEADED IN THE RIGHT DIRECTION / INDIA ARIE

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. DON'T LOOK BACK / BOSTON

M5. CHANGE / FISHBONE

M6. FIND A WAY TO MY HEART / PHIL COLLINS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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