2006年8月13日

「ふしぎ大陸南極展2006」取材レポート

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは南極展取材レポートです。

 現在、東京・上野の国立科学博物館で開催中の『ふしぎ大陸南極展2006』の取材レポート。様々な見どころをお伝えするほか、南極越冬隊に同行した記者の方にもお話をうかがいます。

国立科学博物館・入り口
はく製あれこれ
南極観測船「しらせ」
南極観測船「しらせ」
新型の雪上車
新型の雪上車

南極観測50周年を記念した展覧会

 今回、レポートをお届けする『ふしぎ大陸南極展2006』は、日本の南極観測50周年を記念して開催されているもので、南極点を目指した探検の時代から地球環境の変化を調べるための、現在行なっている観測までを、当時の貴重な資料や機材、標本や映像などで紹介しているんですが、そんな『ふしぎ大陸南極展2006』の展示の意義について国立科学博物館・地学研究部の横山一己さんにうかがいました。

横山さん「今年が南極観測50周年というのが一番大きなことですね。もうひとつは最近、環境問題が大きくなっていますよね。オゾン・ホールや二酸化炭素を含めて、南極観測の重要性が高まっていますよね。だから、できるだけ色々な人に来てもらって、環境問題っていうのは非常に重要だということを理解してもらうために、このような展示がしてあります」

映画の主人公にもなったカラフト犬「タロ」と「ジロ」
カラフト犬「タロ」と「ジロ」

 そんな『南極展』の展示内容を、かいつまんで説明すると、まず、南極探検の歴史をひも解くコーナーでは、探検家「アムンゼン」や「スコット」と同時期の、1911年に南極点到達を目指した「白瀬中尉」の逸話や足跡を中心に紹介。
 そして、50年前の「第1次南極観測隊」の映像や、防寒服、通信機器の展示、また、映画『南極物語』の主人公となった、カラフト犬「タロ」と「ジロ」のはく製や、古い小型の雪上車、更には、当時の隊員の宿舎となった「組み立て式・住宅」なども展示。
 一転、居住性が、はるかに良くなった現在の「昭和基地」の部屋があったり、最新の大型雪上車や観測機器なども見ることが出来ます。
 また、大型のハイビジョン・コーナーでは、神秘的なオーロラの映像、生き物コーナーでは、ペンギンやアザラシなどのはく製や、5.5メートルもある「シロナガス・クジラ」の頭の骨なども展示されています。
 他にも、新種の恐竜化石の初公開や、地球環境の変化を調べるために、氷をドリルで掘削して、2,500メートルの深さから採取した数十万年前の氷のサンプルなど、この『南極展』でないと見ることのできない展示物が目白押し。
 また、今回、大好評なのは“触れる”展示。なんと南極の氷や、日本が世界に誇る隕石コレクションの一部を触れるほか、クジラのヒゲやペンギンの翼にも触れるので、子供たちも喜んでいました。
 更に、展示会場の外には、マイナス5度を体験できる部屋もあって、まさに参加者体験型の『南極展』となっています。

シロナガスクジラの頭の骨、5.5メートル!
シロナガスクジラの頭の骨
触れるシロナガスクジラのヒゲ!硬いぞ〜!
シロナガスクジラのヒゲ
古い小型の雪上車
古い小型の雪上車
マイナス5度前後を体感できる部屋
マイナス5度前後を体感できる部屋

46億年前の隕石や月や火星の隕石が一同に!

国立科学博物館・地学研究部・地学第一研究室・室長「横山一己」さん
横山一己さん

●今回の『南極展』の中で、特に興味深かったのが、特別に展示されている隕石コレクション。そんな隕石についても「横山」さんに聞いてみました。

横山さん「極地研究所が南極観測で隕石を世界最大のコレクションで持っているんですけど、それが火星であろうと月であろうと、46億年前の隕石だろうと一番たくさん持っていて、それを中心に研究しているんですね。で、このコレクションは日本の研究者だけではなくて、世界中の研究者が研究しています。それを極地研究所が研究のためだったら全て貸し出すという体制をとっていますので、石そのものは汚いものですけど、非常に貴重です。特に46億年前の世界、地球が誕生したときはどうだったのかというのを調べるには一番重要ですね」

●それは、南極が一番いい形で保存されているからですか?

横山さん「そうですね。陸上に降った石だと、他のと見分けが付かないっていうのと、東京などは暖かいですから風化したり腐ってしまって分からなくなってしまうんですけど、南極の場合は非常に新鮮な状態で、昔のままで保存されていますので、大きなものも非常に大量に採取することができるんですね」

日本が世界に誇る隕石コレクションの一部
隕石コレクションの一部
隕石の断面の拡大写真
隕石の断面の拡大写真
触れる隕石!
触れる隕石!

●ということは、まだ氷の中に眠っていて明らかになっていない未知なる隕石などがあるかもしれないわけですね。

横山さん「そうですね。今まで日本が16000点、アメリカが1万数千点で、合計して3万点近くしか集めていないんですね。ところがこの3万点というのは今まで世界中のコレクトされたものが3000点〜5000点ですから、遥かに多いんですね。まだ、採取もここ20年くらいですので、これからどんどん採取されて、月や火星だけじゃなくて、もっと古い時代、太陽系ができた頃の色々なものが集められると思っています」

●この地球温暖化の影響っていうのは、南極にも確実にあると思うんですが、どう影響してくるんですか?

横山さん「それが一番重要なんですね。南極の氷が溶けたら海水面が上昇しますから、東京なんてほとんどダメですよね。みなさん、せいぜい海抜数メートルのところで生活されていますので、ダメージは非常に強いんですが、今のところ、南極の氷が溶けているという情報はありません。環境問題で一番重要なのは、気温や二酸化炭素もありますけど、氷がどれだけ溶けているかを調べることが重要ですね。それで、モルディブとか非常に低地帯の国々がありますよね。それが一番重要なんですけど、今のところ、溶けているという報告はないです。これで安心しているわけではないんですけど、二酸化炭素は確実に上昇しますので、温暖化に向かっているだろうとは思っていますけどね。ただ、ここで『確実に温暖化します!』って言うわけにいかないんですね。そういう証拠は見つかっていません。
 北極とか北半球に関しては、意外と『氷が溶けている』、『氷河が後退している』という情報がたくさんあるんですけど、ただ、そこは太平洋とか大きな海に影響を及ぼすものではないので、一番大きいのが南極なんですね。そこが溶け出すっていうのは、はっきり言って水位が上がるっていうことですから非常に重要なんですけど、世界各国が観測場を持っていますので、そこで全体の討議の中では必ずしも溶けているわけではないという情報になっています」

●日本が南極観測を始めて50年ということですけど、この50年間での一番大きな変化というのはやはり二酸化炭素の上昇なんですか?

横山さん「そうですね。二酸化炭素は上昇しっぱなしですので、今後、二酸化炭素だけではなくて、今、新しいのをどんどん作っていっているじゃないですか。フロンだってそうなんですね。フロンなんて関係なかったでしょ。ずっとフロンを作ってきて、それがいつしかフロンが大きな影響を及ぼすんだってことになってきたんですけど、それ以外にも人間は生産していますから、そういう新しいものがどうやって、環境に影響するかっていうのをこれから調べていく必要があると思っています」

●それが今後の課題ですか?

横山さん「そうですね。だから、常時、向こう(南極)であらゆる空気、あらゆる環境をずっと継続して観測していくことが、今後の地球環境の方向を教えてくれるかなと我々は思っています」

地球全体のことを南極で調べている

 ここからは第45次南極観測の越冬隊に同行された朝日新聞社・社会部記者の中山由美さんにお話をうかがっていきたいと思います。

朝日新聞社・社会部記者「中山由美」さん
中山由美さん

●先ほど、南極展を拝見してきたんですけど、まず、50年の歴史の中でも観測隊のみなさんが住んでいるプレハブについてうかがいたいと思います。50年前はかなり簡単な作りで「本当に南極で大丈夫だったの?」って思うくらいだったんですが、最近のものだとかなり今風で、パソコンが置いてあったりして、一見、快適ではあるんですけど、やはり狭いし、生活は大変だったんじゃないですか?

中山さん「でも、南極に行っていることを考えるとかなり快適ですよ。基地の中にいると、人によっては『ビジネス・ホテル級だ』って言う人もいるんですけど、お風呂にも入れますし、温度も20℃ちょっとくらいあって、半袖でもいられるくらいなんですね。とても快適な環境です」

●先ほど、横山先生もおっしゃっていたんですけど、中は快適になっていて、自宅にいるのと大して変わらなくはなったけれども、一歩外に出たらやはり南極っていう厳しい自然なわけじゃないですか。それにもかなりカルチャー・ショックがあったんじゃないですか?

中山さん「ええ。50年経って、住むところはいかに快適になったり、雪上車や色々な機械にしても、ものすごく便利になって、今、GPSもありますよね。でも、やはり一歩外に出れば、自然は50年前と変わらないわけですよ。逆に便利なことに慣れすぎちゃうと、外には危険もあるし、自然のことを知らなきゃいけないっていうのを、改めて感じさせられますよね。かつての方がそういうことへの意識が高かったような気がします」

●普段が今ほど便利になっていなかったからですね。

中山さん「そうです。ずっと基地の中にいると、日本にいる感覚と似てきちゃいますよね。で、外に一歩出たときに、いろいろなことに気をつけなくちゃいけないんだっていうのを、改めて感じさせられましたね。本当にお天気がよければ、海が凍って、海の上をトコトコ歩いていってお散歩なんかできるんですけど、ただ、冬になるとブリザードっていう南極圏特有の雪嵐が来ます。で、ブリザードになると、ものすごい吹雪で目の前が全然見えなくなるんですね。それはすごく危険なので、そういう時は外出禁止になります」

●今現在、日本が夏ですから、南極は冬になるんですか?

中山さん「そうですね。極夜が明けたころですね。極夜って白夜の反対で太陽が出ない季節なんですけど、私たちのときは5月31日から7月の半ばまで43日間、昭和基地には全くお日様が上がりませんでした。ようやく7月下旬からほんのりと太陽が射して、今ようやく外で、また活動ができるようになってきたところです。暗くて寒い季節が終わりかけて、これから暖かくなって太陽も出てくるぞっていう感じです」

●それはいわゆる日本に四季でいう春の・・・。

中山さん「冬明けってやつですね」

中山由美さん

●その時期のワクワク感があるんですね。

中山さん「そうですね。特に冬って太陽の陽射しがないと、暗いじゃないですか。すると、その時期は長い時間、外にいたり、あまり遠くまでは行けませんよね。どうしても、閉じ込められている感じがあるんですよね。ですから、太陽が戻ってきたときっていうのはすごく嬉しくて、1ヶ月半見なかった太陽の光が見えた瞬間っていうのは、涙が出そうになるくらい嬉しいですよ。『わぁー、暖かい色だなぁ』っていうなんともいえない、色に暖かさを感じました。で、だんだん日が長くなっていって、外に出られる時間が増えて活動ができるっていうので、気持ちもすごく躍動的になっていきますね」

●日本に戻られてからの生活で、だいぶ変わられたんじゃないですか?

中山さん「そうですね。私がすごくギャップを感じたのは、あんな大自然の中で人工的なものって建物と雪上車くらいなんですね。あとは、ほとんど手付かずの自然ですよね。逆に今、東京に住んでいると、人工的なものに囲まれて、なんか箱の中にいるような感じがしてしまうんですね。逆に自然そのものを感じられるものってないじゃないですか。で、東京の都心なんかでは空を見上げても、ビルに遮られていてすごく空が狭いなって思うんですよ。そういうときに『同じ地球なのになぁ』ってギャップを感じますね」

●日本に戻られてからご自身の生活に何か変化はありましたか?

中山さん「南極に行って一番感じたのは、みんな南極観測って南極のことを調べているって思うじゃないですか。私が一番勉強したのは、南極観測隊員って地球環境、地球全体のことを南極という場所で調べているんだなっていうことをものすごく実感したんですね。そういう意味で自分で体感して、地球環境のことを考えるようになりました。ただ、そういうグローバルな意味もそうなんですけど、もっと自分たちの生活の部分で感じるところが多いんですよ。例えば、水って向こうでは雪を溶かして作らないとないわけですよね。そうすると、昼と夕方に毎日雪を溜めて溶かして、お風呂に入ったり、料理に使ったり。でも、無駄に使えばあっという間になくなっちゃうから、自分たちでまた一生懸命作らなくちゃいけない。電気の場合、使いすぎちゃうと、発電機が危なくなっちゃうから下げなくちゃいけない。あるいは、たくさん使えば自分たちで燃料を入れなきゃいけない。すごく切実にエネルギーとか水とか、そういったものは限りがあるし、ちゃんと自分たちで作らなければ、無尽蔵に来るわけじゃないっていうことを生活のレベルで考えさせられましたね。実は、東京でもそれって同じはずなのに、どうしても水道の蛇口をひねれば水は出てくるし、電気だってお金を払っていれば来るし、自分がそんなにケチケチしなくても、足りなくなって困るっていう切実感がないじゃないですか。ただ、それも実際は変わらないんだなってことに気が付きました。ただ、都会の生活の中でその切実感が薄れているということを考えさせられました」

南極との交信もできる!

 実際に「南極観測隊・越冬隊」に同行取材された中山さんに『ふしぎ大陸南極展2006』の見どころを聞いてみました。

南極の氷を触れるのだ!
南極の氷

中山さん「じっくり見ていると色々なことが分かります。南極の探検史から最先端の観測のことまで分かります。夏休みの勉強にはピッタリです。でも、一生懸命勉強することもそうなんですけど、実際に自分で触って、模型とか色々なものを見て体感することができます。隕石に触れるんですよ! それから、ペンギンの翼とかも触れますし、あるいは低温室もあるから南極の寒さも体験できます。何よりも私が触って欲しいのが、南極から観測隊員が持ってきた氷山の氷。ドンと置いてありますから絶対に触ってほしいですね。今、南極から石ころとかを持ち帰ってはいけないので、持って帰ってもいいものはあの氷だけなんですよ。それと、南極の昭和基地とテレビ会議で交信していますので、毎日ではないんですけど、午後の時間帯でやっているときもありますから、そうすると会場に行けば昭和基地の映像と繋がるわけですよね」

●直接話ができるんですね。

中山さん「隊員さんが出てきますよ」

 ちなみに、フリント取材陣が訪れた日は、残念ながら「昭和基地」との中継はなかったんですが、実際に隊員の方とお話ができたら、すごく楽しいでしょうね。
 さて、一方、国立科学博物館・地学研究部の横山一己さんは見どころについて、こんな風に語っていました。

横山さん「今回の展示で見ていただきたいのは、100年前に白瀬信という人が、自分が11歳のときに極地探検を目指したんですけど、その人が40年後の50歳でアムンゼン、スコットという世界の錚々たる探検家とともに、南極探検を同時にやったんですね。非常に小さな漁船で無事に帰られてきたんですけど、そういう、子供が夢に抱くような展示もありますので、是非そういう観点からも見てもらいたいと思っています。もうひとつが、50年前に色々な子供たちから寄付金が集められて南極観測が始まったんですけど、そういう子供たちが不思議なことに、極地研究所の教授になったりして、子供の頃から夢を抱かれて何度も南極に行かれているという先生方もいらっしゃるんですね。会場には50年前の寄付者の名前があります。個人名が1名だけありますけど、その方は数回越冬していますし、今、教授をされています。できるだけ子供の夢は壊さないように、できるだけ大きな夢を持って展示を見てもらえればいいかなぁと思っています」

 『ふしぎ大陸南極展2006』は9月3日まで開催されているので、皆さんも是非、国立科学博物館に足を運んで、南極観測の歴史、そして今を感じていただきたいと思います。横山さん、中山さん、どうもありがとうございました。


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■『ふしぎ大陸南極展2006』

 日本の南極観測50周年を記念して開催されているこの展覧会では南極点を目指した探検の時代から、地球環境の変化を調べるための、現在行なっている観測までを、当時の貴重な資料や機材、標本や映像などで紹介。

  • 会期:9月3日(日)まで
  • 会場:国立科学博物館(上野公園内)
  • 時間:午前9時〜午後5時 金曜日のみ午後8時まで
  • 観覧料:大学生以上1,300円、小・中・高校生600円
  • 問い合わせ:
『こちら南極 ただいまマイナス60度』

■朝日新聞記者「中山由美」さんの本

『こちら南極 ただいまマイナス60度
 〜越冬460日のホワイトメール』

草思社/定価1,680円
 日本の女性記者として初めて1年4ヶ月に及ぶ第45次南極観測の越冬隊に同行した朝日新聞社・社会部の記者「中山由美」さんのリポート日誌。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. HOT FUN IN THE SUMMERTIME / THE BEACH BOYS

M2. I'VE GOT A FEELING / THE BEATLES

M3. WONDERLAND / BIG COUNTRY

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. YOU'RE AN OCEAN / FASTBALL

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. RHYTHM IS GONNA GET YOU / GLORIA ESTEFAN & MIAMI SOUND MACHINE

M6. MILES AWAY / WINGER

M7. TAKES A LITTLE TIME / AMY GRANT

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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