2007年12月23日

思いの全てが込められた本「マザーツリー〜母なる樹の物語」を発表
作家のC.W.ニコルさんを迎えて

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストはC.W.ニコルさんです。
C.W.ニコルさん
“日本の親父”と慕っていた「どろ亀」先生(東京大学・名誉教授「高橋延清」先生)にもらった“カメのピンバッチ”を指しておどけるニコルさん。「どろ亀」先生から「腹が立ったときに、この亀をなでなでして(心を落ち着けてから)物を言いなさい」といわれたそうです。

 作家のC.W.ニコルさんをお迎えし、ご本人が作家人生の代表作と自負する新刊「マザーツリー〜母なる樹の物語」についてうかがうほか、長野県信濃町にある「アファンの森」の近況もお伝えします。

ヤドリギが付いたオークは神の木

●ご無沙汰です。

「久しぶりだね」

●この度、ニコルさんは素敵なご本を書かれました。以前に番組でもご紹介させていただいた「マザーツリー〜母なる樹の物語」という本なんですけど、この本は日本の架空の村で500年ほど前に生まれたミズナラの木があって、それが後にはサラの木っていう名前になったんですけど、そのサラの木自身に500年の間に起こったこととか、自分の周りで起こっていること、川や自然のお友達から聞いた話を全部含めて語られているという本で、時代的には戦国時代になるんですか?

「そうです。戦国時代から現在まで。この本は日本語で書いた3番目の小説なんです」

●翻訳家を使ってとかではなくて、ニコルさんが自分で日本語で書いたんですか?

「はい。自分で書きました。その前はケルトの物語だったんですよ。そのケルトの物語では大きなオーク・ツリーが、船を作るために切られるんですね。その儀式を細かく書いたんですよ。キリスト教の前のケルトの儀式。でも、『しつこい』とか『長い』って言われて、随分編集されたんですね(笑)。で、僕がブーブー文句を言ったら(笑)、私を22年間守ってくれたり、しかってくれたりしているマネージャーがいるんですけど、そのマネージャーが『別に書けばいいじゃない』って言ってくれたので、書くことにしたんです。で、日本を舞台に書くとしたらミズナラの木がいいかなと思ったんですね」

●ケルトでは、「マザーツリー〜母なる樹の物語」でも描かれているナラ(オーク)っていうのは、神様の木だといわれているんですよね。

「そうです。寄生っていうと悪いイメージがあるけど、ケルトの場合、ヤドリギは木に悪くないんですね。ヤドリギが付いているオークは特に、神の木だとされたんですね。そして、暗闇が一番長い冬至の日にケルトのシャーマンがそういう木に上がって、ヤドリギを切りました。鉄は絶対に使ってはいけなかったんですね。黒曜石か金だといわれているんだけど、金だと柔らかくてどう切るかわからないから、おそらく黒曜石だと思うんですね。真冬は木が裸になっているでしょ。でも、ヤドリギは青々としているでしょ。だから、世の中に春が来る、世の中に光が戻ってくるシンボルになったんですよ」

●命が舞い戻ってくるという感じなんですね。

「はい。だから、今のクリスマスでも西洋の家に行くと、ヤドリギをぶら下げているでしょ。それで、その木の下で女性がボーっと立っているか、わざと立っていると、誰でもチューしていいの」

●嫌な人が来たらスッとどかなくちゃいけないんですよね(笑)。

「そう(笑)。あれはオークの木です。それで、本当に古いミズナラにも寄生するんですよ。ヤドリギがミズナラにも付いていましたから、本当に神の木だと思ったんですね」

ニコルさんの思いの全てが込められた本

●「マザーツリー〜母なる樹の物語」の中では、500年のときを経た、サラの木と名付けられたミズナラの木が主人公として、その周りの岩や川、滝などが支えるような形で話がどんどん展開していくんですけど、設定が日本の架空の村ということなので、日本の歴史や伝統、習慣も含まれていますし、イギリスとかケルトの文化も出てくるんですね。

C.W.ニコルさん

「日本のほうが、『神様がたくさんいる』とか、『木にも石にも滝にも魂がある』という考えをずっと持っていました。キリスト教とか、イスラム教とか、ユダヤ教になると、『神は1つだ』とか『その神に従え』ということしかなかったんですね。でも、もともと森の民族は、木は生き物だとしていたんですね。そして、木は光の世界と暗闇の世界の両方を知っているでしょ。根の国が暗闇の世界で、幹や葉が光の世界。だから、人間をしかりたかったんですね。思い出して。日本人はなぜ、日本人なの? なぜ、こんなに素晴らしい文化があったの? なぜ、こんなに人口密度が高い島国に、これだけの面積の森が残っているの? それを木の声と石の声と、川や滝の声で伝えたかったんですね。本当は、どちらかというと私の遺言みたいな感じですね」

●ニコルさんの思いの全てが「マザーツリー〜母なる樹の物語」に込められているんですね。

「そうですね。45年前の昭和37年にはじめて日本に来て、その頃から日本の自然、そしてその自然が作った優れた文化にずっと憧れていたんですね。で、27年前から長野県の黒姫に住んで、25年前から自分も森作りのチャレンジを始めました。それから、何千回、何万回と『どうして日本に来たんですか?』とか、『どうして森は大事なんですか?』とか、『どうして田舎に住んでいるんですか?』って聞かれたんですね。だから、この本を読んで分かってよと。是非、読んでください」

ケルトと日本は似ている!?

●「マザーツリー〜母なる樹の物語」を読みながら感じたことでもあるんですけど、おとぎ話も日本とケルトでは似ているものがありますね。ご本では浦島太郎の話に触れられているんですが、ケルトと日本って似ていますね。

「ケルトにはティル・ナ・ノーグという伝説があります。ケルトは北のほうにも南のほうにもいますから、話の中で場所によってはアザラシだし、場所によってはカメなんですね。とにかく、ある男が浜を歩いていたら、海の動物が悪い子達にいじめられているんです。そして、その男はその動物を助けるんですね。その動物がカメやアザラシか、場所によってはサメですね。その男を海の中へ招待するんですよ。これは、龍のお城なんですね。そこでずっと大盤振る舞いで、美しい娘達もいるし、その美しい娘と結婚しなさいといわれるんですけど、その男はどうしても自分が生まれたところへもう一度行きたいと。そして、帰ったら急に年をとるんですよね。そっくりでしょ?」

●そっくりですね!

「そういう話が結構あるんですよ。地図で見たら当たり前です。ヨーロッパとアジアは繋がっています。1つの大陸です。大昔、今のイラクやインドは全部森だったんですね。すごく奥深い森だったんです。そこの民族は森が消えるのとともに移動するんです。ある民族は西へ、ある民族は東へ。西へずーっと移動した者がケルト人ですね。なので、日本の先祖の中にはヨーロッパ・アジアの大陸の真ん中から、大昔に移動してきた者もいます。島になると、色々な芸術や模様、伝説、音が残るんですね」

自然保護は放置じゃない

●C.W.ニコル・アファンの森財団を設立したのが2002年で、5年経ったわけなんですけど、アファンの森に入られて何年経つんですか?

C.W.ニコルさん

「黒姫に27年住んでいますけど、森作りをしたいと思い始めてから、25年ですね」

●前回、私達がうかがったときも、その前うかがったときから比べるとどんどん変わっていました。

「どんどん大きくなっているでしょ? 足していますから」

●大きくなったらなったで、手入れも大変でしょうし、そこに暮らす生き物も増えるでしょうけど、今はどんな風になっているんですか?

「ずっと調査をやっています。今、私がすごく面白いなと思っている調査は、水の中に棲んでいる生物、水生昆虫とか、そういう調査をやっているんですよ。実は、3年前に手に入ったある場所が、戦争の間に鉄を採っていた場所で赤土が多いんですね。そこで、デコボコの穴が出来て、水には下に流れる水と、表面に流れる水とあるでしょ? で、下に流れていた水が止まってしまったので、土の中で水が腐り始めたんですね」

●動かないから?

「動かなくて酸素が入らないから。そして、そういうところで木が出ても、水が淀んでいて木の根が窒息したり、木が弱ったりするんですよ。我々がそういう状態で土地を手に入れて、1年環境アセスメントをやりました。どんな鳥がいるか、どんな昆虫がいるか、どんな木がいるか、元気かどうか、正常かどうか。それで、今まで放置された森を、手当てしました。今回は森を作ろうよと。川を作ろうよと。それで、480メートルの小川を作ったんですね。ひいたんじゃなくて、作ったんです。川の段差は480メートルの長さの中で7メートルあります。酸素が混ざるような小さな滝をいっぱい作って、水の音が楽しめる川を作ったんですよ。で、土手に20種類以上の木を植えました。それから、周りの元気な木から種が飛んでくる。2年でその小さな川に長野県にいるトンボの種類がほとんど入っちゃったんですね」

●たった2年で?

「そうです。アファンの森には色々な小川があるんですけど、今までサンショウウオは入っていなかったんですね。でも、この新しい小川に入ったんですよ。僕らが入れたんじゃないのよ。入ったのよ。だから、保護は放置じゃないぞと。自然に任せたほうがいいっていう時間もありますけど、人間が荒らした自然を放置したら、そのうち大きな木が出来るかもしれません。でも、その間に色々な生物が消えてしまう。それが分かって手当てしたり、直したりすると、特に日本の自然は元気になります」

●「マザーツリー〜母なる樹の物語」を読みながら、500年のときを経たミズナラのサラの木を思うと、アファンの森ってきっとこんな感じなのかなって、ニコルさんの中ではイメージが出来ているんじゃないですか?

「出来ていますね。ただ、私は神様じゃないから、我が地球の温暖化とか色々な変化がありますから、その中でどうなるかなという心配もあります。ただ、日本の自然には種類がたくさんあります。木の種類、花の種類、アファンの森にも木は70種類ありますし、その中で生き残る大木は絶対います。財団になったから誰も切らないでしょう。100年の間は切らないね。それで、ずっと調査をやったり、記録をとっていますから、小さな森の回復の物語は、今、作っている最中です」

●どんな状況になったとしても、「マザーツリー〜母なる樹の物語」のエンディングのようになるといいですね。

「まだ、言わないでね(笑)」

●読んでのお楽しみということで(笑)。ザ・フリントストーンも来年の春にでもアファンの森に遊びに行かせていただきます。

「是非。冬至の日忘れないで。ヤドリギの下でボーっと立っていると、チューされるぞ!(笑)」

●男の人は歯を磨いてチューしてくださいね(笑)。今日はどうもありがとうございました。

■このほかのC.W.ニコルさんのインタビューもご覧ください。
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 日本の文化を“自然が造った文化”と表現されていたニコルさん。「マザーツリー〜母なる樹の物語」を読むと、通勤/通学の時、普段は気にもせず通り過ぎている街路樹に「おはよう」「ただいま」って、つい声をかけたくなってしまう・・・。すると自然と穏やかで優しい気持ちになれる・・・。ときに優しくときに厳しい自然。そんな自然が造った文化に暮らす民は、本来、助け合いの精神や優しさに満ちた民のはずだということを、この本は思い出させてくれました。

このページのトップへ

■作家・C.W.ニコルさん情報

『マザーツリー〜母なる樹の物語』
『マザーツリー〜母なる樹の物語』

新刊『マザーツリー〜母なる樹の物語
静山社/定価1,890円
 「ニコル」さんが作家人生の代表作と自負し、自ら日本語で書き下ろした大人のファンタシー作品。表紙の絵や挿し絵を「片岡鶴太郎」さんが担当されたことでも話題となっている本。樹齢500年のミズナラの大木にまつわる、「ニコル」さんにしか書けない作品です。ぜひ読んで下さい。
 

トークCD『心から日本を愛す』
ソニー・ミュージックショップ/定価2,100円
 「ニコル」さんが、ご自分の半生を語ったCD。アファンの森で録音した自然音も一部収録。日本を思う熱い気持ちが伝わってくるという評判のこのCDは、当初「ソニー・ミュージックダイレクト」が運営する「CDクラブ」に入会しないと購入できなかったのですが、この度インターネット上のサイト「ソニー・ミュージックショップ」からでも直接、ご購入いただけるようになりました。ぜひチェックしてくださいね。
・ソニー・ミュージックショップ
 http://www.sonymusicshop.jp/otonanotokushu/index.html

「C.W.ニコル・アファンの森財団」公式サイト
 「ニコル」さんが理事長を務めるC.W.ニコル・アファンの森財団のオフィシャル・サイトでは、アファンの森の近況などが写真とともに紹介されています。ぜひご覧下さい。
・C.W.ニコル・アファンの森財団http://www.afan.or.jp

このページのトップへ

オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. DRIVING HOME FOR CHRISTMAS / CHRIS REA

M2. THE REBEL JESUS / THE CHIEFTAINS with JACKSON BROWNE

M3. CHRISTMAS BEAR / C.W.ニコル

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. WINTER WONDERLAND / COCTEAU TWINS

M5. THAT DAY IS DONE / THE FAIRFIELD FOUR with ELVIS COSTELLO

M6. HAPPY X'MAS (WAR IS OVER) / JOHN LENNON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
このページのトップへ

新着情報へ  今週のゲストトークへ  今までのゲストトーク・リストへ  イベント情報へ
今後の放送予定へ  地球の雑学へ  リンク集へ  ジジクリ写真館へ 

番組へのご意見・ご感想をメールでお寄せください。お待ちしています。

Copyright © UNITED PROJECTS LTD. All Rights Reserved.
photos Copyright © 1992-2007 Kenji Kurihara All Rights Reserved.