2008年2月17日

モンベルの会長、辰野勇さんに聞く
日本のアウトドア文化の変遷とモンベルの今後

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは辰野勇さんです。
辰野勇さん

 日本を代表するアウトドア・グッズ&ウエアのメイカー、モンベルの会長、辰野勇さんをお迎えし、日本のアウトドア文化の変遷と、モンベルのヴィジョンなどうかがいます。

モンベルの商品作りのモットーは、社員が欲しいものを作る!?

●ザ・フリントストーンではここ最近、毎年恒例で「トライ&キャリー」にお邪魔をして色々お話をうかがっているんですけど、今日はじっくり辰野会長にお話をうかがいたいと思います。モンベルは1975年に創業されたということなので、今年で33年目になるんですね。1975年くらいっていうと今と比べるとフィールドにしても、アクティヴィティにしても全然違いますよね。モンベルをスタートさせたときに、今のようになっているっていう予想はあったんですか?

「確かに32年前の我々を取り巻くビジネスの環境っていうのは、まずアウトドアという言葉がなかったんですよね。当時のマーケットとしては登山がマーケットの全てで、それに付帯して、山登りするには野営しなければならない。ですから、キャンプを目的にどこかへ出かけるというのは考えられなかったんですね。で、キャンプっていうのは目的を達するために致し方なく必要なものであって、今みたいに食料もおいしいものをいっぱい持っていって、ただ外でテントを張って寝るっていうような概念はなかったですよね」

●モンベルができた頃っていうのは、ちょうど私はガールスカウトで三角テントに飯ごうを持ってキャンプをしていたぐらいだったので、キャンプっていうとイメージ的には、虫もいっぱい入ってきてっていうのが強かったんですね。

「野営ですね(笑)」

●そうですね、本当に野営ですね(笑)。そこら辺から枝を拾ってきて焚き火をして、岩を組んでっていうイメージしかなかったので、そこから比べると最近のテントは「なんて楽でいいんでしょう!」って思うくらいの変化もあるんですけど、アウトドアという言葉もなかった時代ですもんね。時代を追っていっていただきたいと思いますが、1970年代はそういう時代で、1980年代、1990年代はどう見ますか?

「1970年代は、モンベルが1975年にスタートしたわけですから5年しかないわけですけど、その当時は僕自身がまだ現役で登っていた時代で、その頃の日本には快適というには程遠い、むしろ非常に使い心地の悪いものしかなかったわけですね。そこで、いかに自分たちが合理的に、機能的に使えるものが出来ないかと思ってずっと作ってきました。で、僕はたまたま会社を始める前に繊維商社にいましたので、その繊維商社で新しい素材を手にすることができたんです。例えば、防弾チョッキなどに使われるケブラーっていう素材とか、消防服に使われるような不燃のノーメックスという素材とかを扱っていて、『こんなに素晴らしい繊維があるんだったら、登山用具でこんなものを作ったらいいんじゃないか』って思ったんですね。それまでは全然紹介されていなかったんですよ。素材革命の時代ですよ。ゴアテックスが生まれてきたり、まさに素材革命が起こっていって、より快適な道具作りというほうに向いていきました。
 それから1980年代、1990年代って動いていくわけですけど、商品に関しては、モンベルという会社の物作りを考えたときに、実は今もそうなんですけど、一貫して『何を作ったら売れるかなぁ』じゃなくて、自分が何が欲しいかっていうのがまずありきなんですね。今、社員が約800人くらいいますけど、彼らはすでにアウトドアのフィールドでなんらかを実践している人たちですから、企画会議をやって『来年はどんなものを作りたいか?』って聞くと、山のようにブワーッと出てくるわけですよ。それは全部、自分が欲しいもの(笑)。ま、営業がたまにどこどこのお客さんが『こんなの欲しい』っておっしゃっていましたってことはあるけどね。でも、基本的には自分たちの欲しいもののほうが多いですね。やはり、商品を一番理解している立場ですから、何が必要か、何を作りたいかというのが割と分かるんですね。だから、僕も社員も年々歳をとる。それぞれ子供が生まれる。そうすると、ベビー用品がいいんじゃないかとかね(笑)。最近、エコツーリズムという言葉が大分定着してきましたが、その頃は『エゴ商品開発』でしたね(笑)。しかし、自分たちが欲しいものを作るっていうことはやっぱり一番大事なことじゃないかなと僕は思うんです」

●それってすなわち、フィールドに出ている人たちのニーズの代表みたいなものですもんね。

「そうなんですよ。だから、自分たちが消費者でもあり、製造する立場でもあると。自分が欲しいものを実現していくわけですから、これほど楽しいことはないですよ」

「LIGHT AND FAST」がコンセプト

●1975年にモンベルを創業して、今年で33年目に入るわけなんですが、この間って自然に対する接し方が年代毎に変わっていったと思うんですね。この番組ザ・フリントストーンは1992年に始まったんですけど、ちょうどそれぐらいからアウトドアがブーム化してしまい、それまでの野外活動とは違って、流行としてお祭りのように見られた時期もありましたよね。

「実は僕、オートキャンプってすごく戸惑いがあって、もちろん僕らも車で行って色々なところでキャンプをするんですけど、集会みたいなところでみんながテントを張っているでしょ。で、僕はたまにそういうところへ参加するんですけど、僕が持っていくテントっていうのは山のテントですから、地べたにベタっと張り付けて、しゃがみ込んでバーナーを焚いて、食事も小さなコッヘルでチョメチョメやっているわけですよ。横ではすごいのが繰り広げられていて、テーブルがあってイスがあるでしょ。ビックリして、『モンベルの社長がこんなんでいいのかな?』っていじけてね(笑)、みんなすごいセレブに見えるわけですよ。で、よそが作っているご飯もおいしそうでしたし、失敬して食べたこともあるけど、正直、『こんなキャンプもあるのか!』って自分自身が戸惑ったことを思い出しますね」

●キャンプのあり方が変わりましたよね。

「きっと、あれは楽しいんでしょうね。楽しいですよ、やっぱり」

●アウトドアってピクニックの延長みたいな感覚に変わってきているのかなって気がしますよね。

「ちょっと語弊があるかもしれないけど、アメリカでは自分の庭先でやることを、日本の場合は庭先がないじゃないですか。それを、川原に出かけていったり、色々なところで実現している感じなのかなと思いましてね。アメリカ人のお宅にお邪魔をして、『よし辰野、今日はバーベキュー・パーティーやるぞ!』とか言って、庭でバーっとやるじゃないですか。あれですよね。でも、僕はそういうことではなくて、リュックサックに詰めて担いで歩ける範囲でやるから軽量でコンパクト。今もそうなんですけど、ずっと一貫してアメリカのマーケットでキャッチフレーズみたいにお話しするのは、『LIGHT AND FAST』。軽いことは早い。どういうことかというと、野外の環境では山登りや岩登りなんかに行くと危険ですよね。で、軽くして早く行動することが安全に繋がるということなんですよ。ですから、『LIGHT AND FAST』っていうのは、軽くて早く行動できるというタームなんですね。だから、オートキャンプの重いやつっていうのは真逆にあって、ちょっとコンセプトとは違うんですね。僕はそれを否定しているわけではなくて、ニーズはあると思うんですけど、僕らは1975年からずっと山登りを主体にやってきたものですから、先ほどお話しにあったアウトドア・ブームといわれた時代に非常に戸惑いを感じて、多分、アメリカではそういうものがホームセンターで売られていたんだと思うんですね。ところが、日本ではそれを受け入れる売り場がなかったから、結果として山の専門店にきたということで、その辺の混乱の時期があったというのは否めないと思いますね。それから、ホームセンターがやられていたアウトドアの売り場と、専門店の中にあったアウトドアの商品構成がなんとなく融合してきて、今は全体としてアウトドア・ショップという、比較的アメリカのお店作りに近い形にようやくなったというか、結果としてなったということだと思います」

自然の水先案内人になりたい

●モンベルがこの先、この地球環境の中で果たしていく役割だったり、こうありたいなというヴィジョンを教えていただけますか?

「でっかくきましたね!(笑)」

●(笑)。というのは、モンベルとかアウトドア、自然環境に関わっている方たちが昔から普通にやってきたことっていうのが、最終的にやらなきゃいけない状況になってきているじゃないですか。

「これはとんでもない質問なんですね。というのは、これはまさに天に唾を吐くような話で、全部自分に返ってくるので本当にうかつなことは言えないんですけど、まず、1つだけ前提として聞いていただきたいのが、アウトドアを楽しんでいる我々というのは、決して自然の味方とは言い切れない。実は我々、自然をコンシュームしているわけですね。自然の中に道を作って歩いて。本当にストイックに自然保護をおっしゃる方は、それすら認められない。自然保護の一番いい方法は行かないことですけど、それだと本当の自然の素晴らしさが分からないじゃないですか。やっぱり、見てこそ、人間がいてこそ価値が理解できるわけで、そういう意味で最小限のインパクトで、アメリカでは『LEAVE NO TRACE』っていう動きもありますけど、概念としてできるだけインパクトを残さないということを、おこがましいんですけど、啓蒙していくということが、わが国日本ではやっと、これから始まっていく。だから、そういうことを何らかのキッカケでアウトドアをはじめた人たちに、大したことは出来ませんが、出来ることから少しずつみなさん方に伝えていきたいですね。それから、一緒に山へ行き、スノーシューで雪山を歩いたり、カヌーで川を下ったりしながら、自然というものの水先案内を我々に務めさせていただければなと思っています」

モンベルクラブの会員が100万人になることがこの先の目標

●モンベルが創業33年目を迎え、辰野さんは昨年12月にモンベルの社長から会長に就任されたわけですが、これで1つの区切りがつきまして、この先のことが気になるんですが、どのくらい先までイメージされているんですか?

「そうですね。会社を作ったときは30年先をイメージして会社を進めてきて、現在、ほぼそのイメージ通りになりましたけど、次の30年先、モンベルは一体、どこへ向かって走っていくのか。僕は去年の12月1日に会長になって、それは次のジェネレーションへの準備でもあるわけですけど、ようやく60歳になりましたので、次の30年を考えたときにもちろん僕はビジネスの世界にはいない。この世にいるかどうかも分からない。でも、自分にはどんな会社になっているかが想像できるんですよ。非常に簡単な話なんですけど、2つ条件がある。1つは30年後にモンベルはみなさんから必要とされているかどうか。すなわち、モンベルという会社が30年後になっても、社会の一員として必要とされているかどうかというのが1つ。それからもう1つが、それが経済バランスとしてちゃんととれているかどうか、この2点です。これは、企業に限らず、何においても一緒だと思うんです。行政にしても、社会福祉法人にしても、何においても、本当に必要とされているかと同時に、それが経済的にちゃんと自己完結できているかどうか。モンベルの場合は一義的に物作りをやっていますから、本当に皆さんが必要としている物作りをし続けているかどうか。それから、非常に口幅ったいですけど、いわゆるCSR、社会的な存在意義を果たしているだろうかといったことだと思うんですね。そして、それが経済的に完結しているかどうか。この2点を満たさない限りは、我々はありえないなということなんですね。
 で、ぼちぼち新入社員の面接の時期が始まるんですけど、去年、ある受講生の1人が僕に質問したんです。『モンベルの事業計画はどうなっていますか?』って偉そうなことを聞いてくるやつがいましてね(笑)、だから、『そんなものはありません』と答えたんです。でも、『もし、あるとしたら、モンベルクラブの会員が100万人になることが僕のゴールだ』って言ったんですね。で、このモンベルクラブのクラブ組織というのは、今から20年位前に、年会費を1500円いただいて始めたんです。モンベルクラブの会員が100万人になるということは、それが全てを言い尽くしているんですよ。当然、ビジネス規模としてもそれを満たすものが出来てくるでしょうし、1500円の年会費を払うということは、まさに自分の財布の中からお金を出して、一票投じているのと同じことなんですよ。これは、信任票ですよ。だから今、14万人の指示を受けているんですよ。これ、もう市政に出て行けますね(笑)。100万人になったら国政に出て行こうかなんて、そんな思いは全くありませんけど(笑)、本当は日本も政治家は有料で会員制にして、何人会員がいるかで決めればいいかと思うくらいですよ(笑)」

●(笑)。1人1人が1500円というお金を出しているわけですから、この一票のほうが重いですよね。

「もちろんですとも。ということは、100万人の会員になったら面白いと思いません? それは爽快ですよ。『OUTWARD』という年4回の季刊誌に物を書かせてもらってるんですけど、これを100万人が読むんですよ。もちろん、ベイエフエムのザ・フリントストーンもたくさんの方が聞かれていると思うんですけど、みなさん試聴者がいてこそ、こっちもテンションが上がるじゃないですか。誰も聞いていなかったらつらいよね」

●つらいねー。聞いてくれていますよね、みんなー?(笑)

「聞いてるよね?(笑) うん。その季刊誌は書店に並ぶんじゃないんですよ。間違いなく今、14万人の人の手元に届くんですよ。そして、間違いなく読まれる。100万人になってもその人たちは間違いなく読む。これは、我々の自然に対する思いとか、当たり前のことが当たり前に理解されていく社会を目指してやっていきたいなぁ」

●そう考えると、私は30年後のモンベルは安泰と見た!

「本当!?(笑) もう1点、塾をやろうかなと思っているの。その塾はどんなものになるかは分からないけど、自分の考えっていうのは書いてみないとまとまらないことってあるでしょ。こういうところでお話をさせていただけることでまとまることっていうのもあるじゃないですか。それを、1つのテキストっていうか、自分の指針にして、これから志を持って何かをやろうとしている若い人たちに、自分のつたない経験の中から伝えることができたらいいなぁと思っています。
 人間って、自分の居場所ができて初めて、今の場所を明け渡すことができるので、これがなければ僕は90歳まで会社の経営をやっていると思うのでね(笑)。これは、みんなにとってハッピーなことではないかもしれないから(笑)、居場所作りをこれから進めていこうと思っています」

●これからは、会長、塾長、横笛奏者として・・・。

「それを忘れちゃダメですよ!(笑)」

●(笑)。いっぱいの顔をもって、どんどん活動されていくと思うので、また、それぞれの顔で今後もお話うかがいたいなと思います。

「注目しておいてください」

●今日はどうもありがとうございました。

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 辰野さんは同じテーマで3つの立場から3冊の本を書く予定だそうで、すでに出版社も決まっており、あとは辰野さんが書くだけ! 早く読んでみたいですよね〜。
 そんな辰野さんが会長を務める株式会社モンベルは、1975年の創業以来、スタッフ自らが欲しい、必要だと思うモノを作ってきたと話されていましたが、そんなモンベルの製品は日本におけるアウトドア文化の変化を表わしているといえるかもしれません。辰野さんは1990年代のアウトドア・ブーム、そのキャンプスタイルに戸惑いを覚えたともおっしゃっていましたけど、考えてみれば1970年代、キャンプが野営と呼ばれていた時代には、ファミリーキャンプなんてほとんど聞いたこともなかったですよね。でも今ではモンベルにも赤ちゃん用のグッズやワンちゃん用のグッズまで揃っている・・・。ちなみに、個人的には愛犬、すずのためにドッグキャリングパックをゲットしたいと思っています!(笑)

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■株式会社モンベル情報

 日本を代表するアウトドア・ウエア&グッズのメイカー、株式会社モンベルでは今年も様々な催しやアウトドアの体験プログラム、ツアーなどを実施します。そんな中からいくつかご紹介しましょう。

「トライ&キャリー」
 ゴールデンウィーク恒例、カヌー/カヤックの一大イベント。石川県羽咋市にある「モンベル流通センター」と美しい千里浜海岸周辺で、カヌー/カヤックの体験ほか、楽しいイベントが盛りだくさん!
 日程:5月3日〜5日
 参加費:無料(一部のプログラムを除く)
   尚、事前の申し込みが必要

「モンベルゆかりの地
 〜スイス・グリンデルワルト・トレッキング・ツアー」

 株式会社モンベルの会長、辰野勇さんと行くツアー。
 日程:6月14日〜21日
 参加料金:42万1,200円

「モンベルクラブ」会員 随時募集中!
 会員になると『OUTWARD』という冊子やカタログが送られてくるほか、様々な特典も受けられます。
 入会費:無料
 年会費:1,500円

・株式会社モンベルのHPhttp://www.montbell.jp/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. ALL THIS TIME / STING

M2. 遥かなるカイラス / 東風人

M3. SISTER GOLDEN HAIR / AMERICA

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. BLUE PLANET〜ふるさとの星よいつまでも〜 / 油井昌由樹

M5. LISTEN TO WHAT THE MAN SAID / WINGS

M6. TALK ABOUT THE PASSION / R.E.M.

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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