2010年5月30日

「空へ続く道」。HABUさんの“空と道”、そして写真へのこだわり

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、HABUさんです。
HABUさん

 空や雲の写真を撮り続けていらっしゃる写真家の「HABU」さんは、この度、ピエブックスから「空へ続く道」という写真集を出版され、それを記念した写真展も開催されました。
 今回は、その写真展会場である、コニカミノルタプラザにお邪魔をして、空と大地、そして「空へ続く道」のお話をうかがってきました。

 

コンセプトは「旅は自由、空に夢、道には希望」

●今回のゲストは、写真家のHABUさんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●この度、3月に写真集「空へ続く道」を出版されましたが、写真集「空へ続く道」の主役は、空ではなくて、道なんですか?

「これは、両方なんですよね。本をまとめているときに『旅は自由、空に夢、道には希望』というフレーズが浮かんだんです。」

●それは素敵です!

「旅をしているときって、自由で、希望を持って、夢を追いかけているというイメージが浮かんで、それに繋がる写真を集めようと思ったんですね。そのコンセプトが固まったときに、必然的にどの写真を選ぶかが見えてきたんです。」

●今回の写真集のために撮ったというより、今まで撮った写真の集大成なんですね。

「そうですね。今回の写真の中で1番古いのは、23年前の写真です。」

●そうなんですか!?

「最初は道の写真集を出版しようと思っていまして、ストックしていた写真の中から道の写真を集めたんですね。そこで、さっきのコンセプトが見えてきて、それに当てはまるものをセレクトしたんです。」

●そうだったんですね。そもそも、なぜ“道”をコンセプトにしようと思ったんですか?

「僕は十数年、“空”をテーマに写真を撮っていて、空の写真集を色々出しているんですけど、基本的には、車で移動しながら、形のいい雲を探して、あちこちをさまようんですね。自分で車を運転しているので、大体、空と道を見ているんですよ(笑)。そうしている内に、自分の好きな道のタイプみたいなものが色々見えてきて、そういう道を見つけると、その都度写真を撮るんですね。今見ている道と、気に入った雲を組み合わせるのが1番簡単なので、必然的にそういう写真が多くなるんですよ。今まで雲を中心に撮ってきたんですけど、たまには道にスポットを当ててみようと思ったのが、今回の写真集なんです。雲の写真と同じように、道の写真もたくさんあったんです(笑)」

●(笑)。ストックがたくさんあったから、今回の写真集ができたんですね。雲って動きがあって、いつも表情が違うと思うんですが、道は動かないものなので、同じ風景なのかなって思うんですけど、実際はどうなんですか?

「写真を見ていただければ分かると思うんですが、バリエーションがたくさんあるんですよね。色々なところに旅をしていますし、道路を走っていて、砂利道があったら『ちょっと入ってみようかな』って思って、入っちゃう癖がすぐ出ちゃうんですよね。同じ様な道で空と組み合わせて、写真を撮っても、面白くないんですよ。なので、変わったものを探しながら移動しているので、面白そうな道があったら、入ってみるんです。そこには何もなくても、空と道を組み合わせれば、写真は撮れるので、必然的に増えてくるんですね。」

●今回、写真を見せていただいて、そういうことをすごく感じました。道というと、東京に住んでいると、どうしてもアスファルトの道ばかりを思い出すんですけど、砂浜の道や砂利道があったりして、「道って色々な表情があるんだな」って感じました。

「白線が引いてあるような道があれば、線路があったり、砂漠で動物が歩いたような跡があったりして、“誰かが歩いたら道”という考え方にして、色々な表情の道を集めてみました。」

●雨が降っている道もあって、これも表情が全然違った道だと思いました。

「今まで同じような道、同じ構図だったのが、こういう風景をスパイスみたいに入れると、また違った視点で見ることができて、見ている方も楽しくなるんじゃないかなって思ったんですね。」

●本当そうですね。こういう写真があることで、他の写真との違いが分かって、面白いと思いました。今回の写真集を見て感じたのは、手前の道幅が広くて、奥に行くにつれて、道は細くなるんですが、すごく遠くまで、道が続いているのが想像できて、その写真の中に自分がいるような感覚になったんですね。

「本当ですか!? そう言っていただけると嬉しいです(笑)」

●(笑)。そういうことも意識して撮影しているんですか?

「とにかく、広いところが好きなんですよ。広いところって、こっちの地平線から、反対側の地平線まで、全部空じゃないですか。前後左右、全ての空が被写体になりうるんですよね。雲がでていると『こっちの雲もいいし、あっちの雲もいい、後ろの雲も前の雲もいい』という感じで、真っ平らなところを、道が切り裂いていく感じが好きで、そこを、雲を追いかけて走っているイメージが、写真を撮り始めたころからずっと持っていたんですね。だから、そういう景色に出会うと、思わず車を停めて、写真を撮ろうという気持ちになりますね。道にも、カッコいい道や懐かしい道、自分の子供の頃を思い出す道など、色々なイメージを喚起してくれる要素があると思うので、自分の中にある、何かのボタンが押されたときに、どういう風に撮れば、それが写真になるかって考えますね。」

 

自分が『これだ!』と思ったときに、シャッターを押す

●HABUさんは今回、道の写真集を出版されましたけど、今までずっと撮っていらっしゃる、道や雲の写真は、どのぐらいの間撮ってきたんですか?

「オーストラリアと出会って、オーストラリアの広さや、空の大きさに惹かれて、写真家になろうと思ったんですけど、自分のテーマが“雲”だということに気が付いたのは13年ぐらい前なんですよ。ある展示会で、空をメインにした写真を10枚ぐらい展示したんですけど、そのときに改めて『自分の撮りたい写真は“空”なんだ』ということに気が付いたんですね。そこからは、ずっと“空”がテーマですね。」

●そのテーマが決まるまでは、自分の中で葛藤とかあったりしたんですか?

「そうなんですよ! コアラを撮ったり、カンガルーを撮ったり、アザラシを撮ったり、建物を撮ったりしていましたね。」

●そもそも、オーストラリアに行こうと思ったきっかけは何だったんですか?

「僕はサラリーマンを10年間やっていまして、衣料関係で広告を作っていたんですね。あるとき、水着カタログの製作のために、初めてオーストラリアに行ったんです。2週間ぐらい、色々なロケ地を回って撮影をしたんですけど、オーストラリアにいればいるほど、オーストラリアがどんどん好きになっていきまして『この国に住んでみたい』って思ったんですよ。ちょうど、会社の仕事がマンネリ化してきたこともあって、思い切って辞めて、オーストラリアに行ったんです。最初、英語学校に行きまして、それから車を買って、人生で初めて、あてのない旅をして、それが今でも続いているという感じですね(笑)」

●(笑)。きっかけはお仕事だったけど、それがいつの間にかライフ・ワークになったという感じですね。写真はどうして撮ろうと思ったんですか?

「そういう仕事をやっていたので、『簡単な写真は自分で撮れるようになろう』と思って、27歳から始めたんですよ。周りのカメラマンの仕事ぶりを見ながら、独学で覚えました。」

●学校には通わなかったんですか?

「通わなかったですね。」

●独学でも、写真って上手く撮れるようになるんですね。

「撮れますね。独学で覚えた人って多いですよ。」

●実は、私も最近カメラを買ったんですね。上手く撮れるようになりたいなと思っているんですけど、上手く撮ることができるコツってありますか?

「たくさん撮って、どれが自分が好きな写真なのか、その中から選別していくんです。つまり、自分の好きな写真の範囲を狭くしていくこと、それが自分らしさになっていくんです。自分が何が好きなのか分からないうちはダメなので、自分が撮った写真の中から『これは好き、これはあまりよくない』という風に選んでいって、“ベスト・オブ・自分”みたいなものを作っていくと、なんとなく自分の写真のスタイルが見えてくると思うんですね。技術は、本に書いてあるから、それを読みつつ、失敗しながら覚えていけばいいので、1番大事なのは“センスを磨いていくこと”、“自分らしさを見極めていくこと”だと思いますね。」

●そうなんですね。光のことなどを考えながら、教科書に載っているような綺麗な構図で写真を撮らないといけないのかなって、勝手に思っていました。

「失敗をしたら『次はどうすれば失敗しないんだろう』と考えればいいんですけど、基本として、自分が『これだ!』と思ったときに、その『これだ!』が写るようにシャッターを押すことなんですね。思った瞬間にシャッターを押す。後で、その写真を見たときに、それが写っているかどうかを確認して、写っていなかったらダメで、写っていたら、ベスト・オブ・自分に入れておけばいいんです。」

●それって、かなり難しそうですね。要は、自分の心が震えたときに、シャッターを押すということですよね?

「空の写真は特にそうで、空模様って、一瞬で変わるんですね。風が強いときに、色々な形の雲がたくさん出るんです。風が強いときって、雲の流れが速いので、自分が『これだ!』と思ったときにすぐシャッターを押しますね。」

●あらかじめ写真の構図を決めるのではなくて、自分が「いいな」と思ったときに、すぐシャッターを押すということなんですね。

「まずシャッターを押す。露出の設定とか、そんなことは後から考えればいいんです。写真の旅をしているときは、撮った後に『もう少し暗めの写真を撮っておこうかな』とか『もう少し明るめの写真を撮っておこうかな』という調整はしますけど、そのときに合った露出にしておいて、押せば写るようにしておくんですね。それは、失敗していく内に覚えたことであって、やっぱり『これだ!』と思った瞬間を、1枚の写真に封じ込めるという気持ちが大事ですね。気合いですよ、気合い(笑)」

●気合いですか(笑)。そうですね(笑)。

「その気合いが、写真に写るかということだと思いますね。」

 

写真は想像力の扉

●今回の写真を見て、『旅に出たくなる』って感じたんですね。来場された方から、こういう感想がきたりするんですか?

「そうですね。全部、旅をしているときの写真ですからね(笑)。特にオーストラリアはそうなんですけど、僕の旅では、常に空と触れ合っていたいので、基本的にはテントで過ごすんですよ。それも、町外れじゃなくて、町から遠いところに行って、テントで泊まるんです。そうすると、自然の中に24時間いるじゃないですか。すると、段々と、都会に染み付いた垢みたいなものとか、『いい格好をしないといけない』という、心の鎧のようなものが取れてきて、自分が自然の一部になったような感覚になるんですよね。そうすると、撮りたい風景が、向こうから目の中に飛び込んでくるんですよね。」

●そういった努力もしているから、自然に近い雰囲気が写真から出ているんですね。

「頭で考えて、カッコいい写真を撮ろうとしても、相手は自然なので、無理なんですよね(笑)。だから、今いい写真が撮れなくても焦らない精神状態やコンディションに持っていくことが最初の仕事で、後はリラックスして、雲の流れに身を任せ、『綺麗だな』って思ったら撮るという感じですね。」

●HABUさんは、撮影にどのぐらいの期間をかけるんですか?

「2ヶ月のときもあるんですが、最近は子供も連れていきますので、大体1ヶ月ですね。子供が小さい頃は3ヶ月ぐらい行っていたときもありましたし、1人のときは6ヶ月とか、ビザの続く限りとか、そういう感じでしたね。」

●お子さんと一緒に行くと、それまで撮ってきた写真とは雰囲気が違ったりするんですか?

「そういうことは、あまり意識をしたことはないんですけど、子供が小さいときに自然の中で遊ばせていると、活き活きとしているので、子供の後ろ姿と空を組み合わせて撮ってみたりとかして、バリエーションは増えますね。」

●特に心境的な変化ってないんですか?

「寂しくはなくなりますよね。やっぱり、1人で長い旅をしていると、寂しくなるんですが、その寂しくなった気持ちというのは大事で、その寂しい気持ちを写真に出せばいいんですよ。そうすると、その写真を見て、その気持ちに共感してくれる人がいるんですよ。」

●やっぱり、写真を見にきてくれた方の感想って、HABUさんが感じた気持ちに対しての感想が多いんですか?

「どうなんでしょうか。それは人それぞれだと思いますよ。自分の写真は、見る人の心の中にある想像力を駆り立てるスイッチを押す道具だと思っているんですね。僕は“写真は想像力の扉”と言っているんですけど、勝手に自分の思い出とオーバーラップさせて、ストーリーを構築してもいいし、『写真の向こうはどうなってるんだろう』と思って、写真の中に入り込んで、想像してもいいので、とにかく想像力を広げてくれれば、僕はそれで満足ですね。そうなると、写真がエンターテイメントとして成立するじゃないですか。それって素敵なことだと思いますね。」

 

自然には、撮るものがないことはない

●HABUさんは、今後も空や道の写真を撮り続けていくんですか?

「もちろんです。6月10日に『空の鼓動』という新しい写真集を出版するんですが、それは全部雲の写真です。ここ最近は、海の写真だったり、道の写真がメインだったりしたので、最初に戻って、直球で勝負させてもらいます。」

●原点に戻ろうと思ったきっかけって何だったんですか?

「ずっと空の写真集を出版してきて、マンネリ化してきたこともありまして、写真詩集を作ってみたり、エッセイを書いてみたり、海を主役にしてみたり、今回のように、道と空を組み合わせてみたりして、色々なことをやってみたんですよ。そういうことをやってきたので、1番得意としている、空の写真が溜まってきたので、『そろそろ1冊にまとめないといけないな』と思い、今回の写真集と同時進行で製作してきました。」

●今度の写真集も楽しみです! たくさんあると思うんですけど、今回の写真集の中で「特にこの写真を見てもらいたい」という、オススメの写真ってありますか?

「例えば、赤土の砂漠だけで、何もない写真があるんですけど、あそこに行ったのは10年ぐらい前なんですけど、1週間ぐらい雲が出なかったんですよ。」

●そんなことってあるんですね。

「あります。なので、撮るものがなくて、あるのは赤土と空だけだったんです。それでも、朝には霧がでたり、荒野に行ったりするんですけど、やっぱり雲はなくて、全然バリエーションがなくて悩んでいたんですけど、あるとき、今、360度見渡しても、自分1人しかいないという、自分の存在感のすごさに気がついたんです。走っても、距離感がないし、時間の感覚もないんです。何メートル走ったか分からないし、何分走ったかも分からない。それが面白くなってきて、『何もないものを撮ればいいんだ』って思ったんですね。だから、『撮るものがないことはないんだ』ということを気づかせてくれた写真ですね。」

●それは深いですね。

「自然を相手にしていると、時々、神々しい瞬間とか、こっちの思い通りにはならないんだけど、神様が、いい子にしていたから奇跡を見せてくれたようなことに出会うことがあって、そういうものを僕が宝物として持っているんだから、もっとみんなに分けてあげたいって思うんですよね。だから、写真集の構成もそういう感じになっているんですよね。」

●きっと、日常生活では見ることができない、神々しい瞬間を、写真で見ることができるというのは、すごく素敵なことだと感じたんですけど、そういうところも写真の魅力ですか?

「そうですね。写真って言葉じゃなく、イメージを伝えているので、そのイメージを人の心を動かすんです。例えば、戦争の悲惨さを伝える写真もあるし、写真にも色々な種類があると思うんですね。僕はいつも、見た人の気持ちが、ちょっとでもリラックスするような写真を見せられればいいなと思っています。」

●今後も、素敵な写真をたくさん撮って、色々なお話をうかがえればと思います。今回のゲストは、写真家・HABUさんでした。ありがとうございました。

このほかの HABUさんのインタビューもご覧ください。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今週はコニカミノルタプラザの写真展会場で、写真家のHABUさんにお話しを伺いました。
 HABUさんの写真はご本人もおっしゃられているように、見る人によって様々なイマジネーションが掻き立てられてしまいます。
 私も今回のテーマの『道』が、砂利だったり、赤土だったり、曲がっていたり、真っ直ぐだったりするのを見て、私達の歩んでいる人生の『道』も人それぞれでいいんだよなぁ。と感じました。
 写真展会場で、写真と同じポストカードも購入したので、人生に迷った時は、この写真を見て勇気づけて貰いたいと思います!

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「空へ続く道」

HABUさん情報

写真集「空へ続く道
ピエブックス/定価:2,520円
 主にオーストラリアで撮った、空と道と雲の写真が満載の今回の写真集は、その道の先の風景まで見えてくるような気がしてきます。どこかへ行きたいけど、なかなか行くことができないという方にオススメの1冊。HABUさんの言う「旅は自由、空に夢、道には希望」を是非感じてください。
 


その他の写真集のことや、写真展の情報など、詳しい情報はHABUさんのHPをご覧ください。

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1.  緑の町に舞い降りて / 松任谷由美

M2.  THE ROAD AND THE SKY / JACKSON BROWNE

M3.  THE BEST OF ME / BRYAN ADAMS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「UNDERSTANDING TO THE MAN / KOHARA」

M4.  空はまるで / MONKEY MAJIK

M5.  YOUR IMAGINATION / BRIAN WILSON

M6.  PHOTOGRAPH / RINGO STARR

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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