2010年12月26日

佐々木剛さんと角田美枝子さんが薦める、里海で行なう環境教育

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、佐々木剛さんと角田美枝子さんです。

佐々木剛さんと角田美枝子さん

 東京海洋大学・海洋科学部・准教授「佐々木剛」さんと、聖心学園幼稚園長「角田美枝子」さんは、農文協から出版された「里海探偵団が行く!〜育てる・調べる海の幸〜」という本の編集と執筆を担当されました。この本は身近な海を子供達の環境教育の場として、もっと使いましょうという趣旨で編纂されたもので、そのための実践例や具体的なノウハウ、海外の環境教育の事例などが掲載されています。
 今回は、佐々木さんと角田さんから、里海を使った環境教育についてのお話をうかがいました。

 

大人が子供から海を遠ざけている

●今回のゲストは、先日、農文協から「里海探偵団が行く!〜育てる・調べる海の幸〜」の編集と執筆を担当した、東京海洋大学・海洋科学部・准教授「佐々木剛」さんと、聖心学園幼稚園長「角田美枝子」さんです。よろしくお願いします。

佐々木さん角田さん「よろしくお願いします。」

●今回出版した「里海探偵団が行く!〜育てる・調べる海の幸〜」を書くことになったキッカケはなんだったんですか?

佐々木さん「もう一人、寺本さんという方がいらっしゃるんですけど、寺本さんは、小学生に対する海に関する教材や研究発表があまりにも少ないことを感じていたんですね。私も長年、日本が島国で、恵まれた海に囲まれた環境の中で、その恩恵を受けながら生活しているにも関わらず、海のことが学校の教科書や様々なメディアなどで取り上げられることが少ないことを感じていました。5年ほど前に、寺本さんとお会いして、『海に関する本を、一緒に出しましょう!』と意気投合し、そこから取り組み始めて、今回の本になりました。」

●角田さんは、お二人の考えに賛同して、参加されたんですか?

角田さん「私は5年前に港陽小学校の校長をしていて、私の学校で行なった取り組みに関心を持ってくださった寺本さんが尋ねてきて『是非その取り組みを、本という形にして広めていきましょう、残しましょう』という提案をいただいたんです。それで、今回の本に参加するという形になりました。」

●先ほど、海の環境教育が少ないとおっしゃいましたけど、教育をする場として、今回のタイトルにもなっている“里海”が適していたんですか?

佐々木さん「そうですね。今回は“里海”というテーマがあるんですけど、里山はご存知ですか? これは、人間と自然が一体となって、自然を大切にし、必要な分だけ恵みをいただきながら生活をしていくという考え方なんですけど、これを海に置き換えたのが“里海”ということです。私たちの生活と海って密接な関わりがあるんです。“里海”という言葉は、海を大切にしながら、海の恵みに感謝をしながら、海の幸をいただくという行動や考え方を指していると思っています。
 実は日本全国で海に関する様々な活動が行なわれているんですが、老若男女問わず、参加した多くの方が、その活動に対して一生懸命取り組んでいるんですね。これはまさに、日本の海への活動の特徴の一つじゃないかと思っています。そういう意味で“里海”という言葉は、私たち日本人の海に対する取り組みの象徴だと考えています。」

●ということは、“里海”は減ってきているんですか?

佐々木さん「以前は臨海学校があって、夏の間に海岸に行って、海のことを学んだり、泳いだりするということが頻繁に行なわれていましたが、近年は臨海学校が少なくなってきていると聞いています。角田先生、そのあたりのことってどうなんでしょうか?」

角田さん「現実として、臨海学校を行なっている学校は少なくなってきています。どうしてかというと『海は、危険が伴う』ということで、安全を重視した結果、学校行事の中から海が遠ざかっていきました。とても残念なことだと思っています。」

●そうだったんですね。私が子供のころは林間学校や臨海学校ってありましたけど、今の子供たちって海に触れることができる学校行事ってなくなってきているんですね。

角田さん「臨海学校を選ぶか、林間学校を選ぶかは、学校に任されています。それで、海より安全性が確保される林間学校を選ぶ学校が増えています。昔は、臨海学校と林間学校の両方を行なっていた学校が多かったです。」

●確かに、学年によって、臨海学校か林間学校が違っていましたけど、両方行きました。でも、今は違うんですね。

角田さん「はい。今は危険が伴うということで、臨海学校が遠ざけられているというのは、子供の体験の幅が狭くなっていくようで残念だと思っています。」

 

お台場の海で海苔の養殖!?

●里海教育の取り組みって、具体的にはどういったものがあるんですか?

佐々木さん「今回の本でも紹介しているんですけど、例えば、都内だと、“お台場での海苔の養殖”です。角田先生が取り組んだ取り組みですね。それから、岩手県で、中学生がワカメの養殖をして、そのワカメを修学旅行のときに東京で販売するということもしています。あと、沖縄の小学生が、日本一の生産量を誇るもずくのことをたくさん勉強して、それを全国に発信していくといったような活動をしています。」

●角田さんが取り組んだ、お台場での海苔の養殖について、具体的に教えてください。

子供達が作った海苔

角田さん「お台場の海に海苔の支柱柵を立てて、海苔網を張って、実際に海苔の養殖をして、養殖した海苔を刈り取って、刻んで、子供たちがそれを板海苔にするという活動です。」

●なぜ、お台場で海苔を作ろうと思ったんですか?

角田さん「私は、お台場ってすごく魅力的なところだと思っているんですが、子供たちは、お台場の海に愛着を持っていなかったんですね。『こんなに素敵なところに住んでいて、目の前に海が広がっているという環境を活用して、何か夢のある教育活動ができないだろうか。そして子供たちがもっと海を好きになってくれないだろうか』と思ったのがキッカケでした。」

●実際に子供たちと海苔を作って、子供たちの反応はどうでしたか?

角田さん「最初子供たちは、本当に海苔が育つのかどうか、半信半疑の状態でした。ですが、実際に段々と海苔がワカメのように伸びていく様子を見たときに、初めて『海苔が育つんだ』という実感をしたんです。そして今度は、自分たちが育てている海苔を守ろうという活動を始めたんです。」

●それは自発的に変わっていったんですか?

角田さん「はい。『ヒドリガモは海苔が大好きだ』ということを子供たちが知って、『自分たちが作った海苔が、ヒドリガモに食べられてしまうんじゃないか』と思ったんですね。すると放課後、自転車で海苔の養殖をしているところまで行って、海苔を見守りに行くということもしていました。」

●そうだったんですね。でも、そこまでするようになるまでに、色々な失敗があったかと思うんですけど、どうだったんですか?

角田さん「まず、お台場で作った海苔が本当に食べられるのかどうかが一番心配でした。お台場の海をキレイと思っていない保護者や地域の方が多かったので、そこで育てた海苔が食べられると分かっていただくには、お墨付きが必要だと思いまして、一番海苔を採って、すぐに日本食品分析センターへ検査をお願いしました。その検査に一ヶ月かかったんですが、結果が出るまですごく心配でした。」

●結果は問題がなかったんですよね?

角田さん「『食品として何の問題もない』という結果を見たときは、本当に嬉しかったことを、今でも心に深く残っています。」

●例えば、里海教育をすることによって、子供たちはどのように変化していきましたか?

佐々木さん「子供たちは生き物が大好きなので、できれば身近な地域で生物採取などを体験させたいと思っているんですが、今はそういう機会が多くないので、そういったことを提供していくことによって、子供たちがすごく喜んでくれています。また、子供たちにとって磯観察や浜辺の観察は、様々な発見やドキドキ・ワクワクなどを体験することができるので、非常にいいフィールドなんですね。さらに、ドキドキ・ワクワクすることで『これは何という魚なの? これは何なの?』といった疑問が生まれてきます。そういった疑問が生まれてきた後に、大人が解説をすることによって、さらに子供たちの興味や関心を高めていく効果があることが分かってきているんですね。そういった意味で、里海教育というのは、科学的な思考力を高める基礎の一つとして、重要じゃないかと思っています。」

 

アメリカの海洋科学教育プログラム“MARE”

●ここまでは日本での取り組みをうかがってきたんですけど、この本の中にはアメリカで“MARE”という学習プログラムが行なわれていると書かれていますが、これはどういうプログラムなんですか?

佐々木さん「このMAREは、“Marine Activities Resources & Education”という言葉の頭文字を取った略称なんですけど、海洋科学を幼稚園児から中学2年生までに体験しながら学ぶという、体験型海洋科学教育プログラムです。先ほど、角田先生から話していただいたんですが、“海は危険を伴う”ということで、海での教育活動がなかなかできないということは、アメリカでも同じなんですね。なので、『海での教育はできないけれど、学校の中で疑似体験的に海の素晴らしさを学んでいこう』ということで、作られたプログラムなんです。
 もっと詳しく紹介すると、“ミズドリの食道”というプログラムがあります。どういうものかというと、ミズドリってそれぞれクチバシの形が違うんです。どうしてクチバシの形が違うのかというと、理由の一つとして、クチバシによって、食べるエサに違いがでてくるんですね。クチバシが細い鳥はミミズのような細かいものを食べます。ペリカンのようなクチバシをした鳥だと、大きな魚を取るんです。そういう感じで、クチバシによって食べるエサの種類が決まってくるんですね。そういった自然の中の生態系の様子を、子供たちが体験をしながら学んでいきます。どういう風に体験していくかというと、子供たちに鳥になってもらうんですね。」

●鳥の気持ちになってもらうということですか?

佐々木さん「そうですね。まず、鳥の気持ちになってもらうのに必要なのは“鳥の胃袋”です。そのためのコップを渡します。あと、鳥のクチバシとして割り箸とスプーン、ピンセットを渡します。胃袋はみんな一緒なんですけど、クチバシの形がそれぞれ違うんですよね。」

●それらのもので掴めるものが、実際に鳥がクチバシで掴めるものということですね?

佐々木さん「そうですね。エサ場にはシジミやエビ、ミミズなど、3種類のエサの代わりとして、5円玉やつまようじ、輪ゴムを散りばめます。それらを子供たちに一斉に取ってもらいます。すると、自分のクチバシで掴みやすいエサを無意識に選択しているんですね。それが終わった後に棒グラフに表します。すると、それぞれのクチバシの違いによって、食べるエサの種類が違ってくるんですね。体験した後に、『この結果はどういうことでしょうか?』と子供たちに質問してみるんですよ。すると、『鳥って、それぞれ自分のクチバシに合ったものを食べているんだな』と気が付くんですよね。」

●それは面白いプログラムですね!

佐々木さん「面白いですよね。最後に『もし、エサが一種類しかなかったらどうしますか?』と子供たちに質問するんですね。そこで子供たちがまた考えるんです。そういう風に体験的に子供たちが実感しながら学んでいくというのがMAREプログラムの特徴で、そういったものが80個ぐらい用意されています。」

●そうなんですか。

佐々木さん「非常に興味深いプログラムですよね。」

 

環境教育には、保護者や支援団体などのサポートが必要不可欠

●今後の里海での環境教育について、どのような展開を考えているか、それぞれ教えていただけますか?

角田さん「子供たちにこれから大切になってくるのは、“実際に本物を体験すること”だと思っています。しかし、本物体験というのは、その学校の環境によってできないことが多いんですけど、私はできるだけ本物に触れさせたいと思っています。本物に触れることによって、実際の海に対する愛着、なぜ海を大切にしないといけないかということが分かっていくのではないかと思っています。 そのために、私も活用したんですけど、国土交通省・関東地方整備局といったところが色々な資金援助をしてくれるんですね。その他に、経済産業省が資金援助をしてくれるような研究があったので、そういった支援団体の支援を活用しました。本物体験をするには資金も必要になってくるので、様々な情報を得て、子供に実際に海に触れてもらいたいなと思っています。」

●教育の現場にいない大人たちができることってあるんですか?

角田さん「海での活動は、先ほども話しましたけど、危険を伴います。なので、学校の教員だけでは子供を海に連れていくことができないし、海に連れていくと危険があることを保護者に分かってもらった上で、子供たちに、その活動を通して危険なこと・恐れなくてもいいことなどを学ばせないといけないので、保護者のボランティア的な協力が、この里海教育には欠かせないと思っています。」

●佐々木さんはどうですか?

佐々木さん「角田先生がおっしゃったような、教育を行なう上で、海での教育は非常に重要なポイントだと思います。危険も伴いますし、専門的な道具も必要になってくるので、学校だけでは難しい部分なんですね。そういう意味では、東京海洋大学のような専門知識を生かした活動ができるような部門として、“海洋リテラシー推進部門”というものを設置して、そこがハブ的な機能として活用されてくると、『海の活動を専門としているけど、教えることはあまりしたことがない』といった方々と、大学と、教育の現場がうまく連携をとって、子供たちの学習の支援をできたらいいなと考えています。まだまだ始まったばかりなので、これから期待してもらいたいと思っています。」

●ありがとうございました。今回のゲストは、東京海洋大学・海洋科学部・准教授「佐々木剛」さんと、聖心学園幼稚園長「角田美枝子」さんでした。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 お二人にお話しを伺って、海は遠くなってしまったのではなく、私達が遠ざけていた事に気がつきました。確かに自然には危険もたくさんありますが、ただ恐れるのではなく、どうすれば良いのかを大人が考え、子供達にたくさんの自然体験をさせてあげたいです。

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「里海探偵団が行く!〜育てる・調べる海の幸〜」

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農文協/定価1,890円
 海の幸を題材にしたお話や、佐々木先生から説明のあった、アメリカ・カリフォルニアで開発された海をテーマにした体験型環境教育プログラム“MARE”についてのことなどが詳しく掲載されています。ほかにも参考になる実践例が満載。
 里海での環境教育に関心を持った方は、是非読んでみてください。
 

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1. 子供たちの未来へ / ケツメイシ

M2. KIDS / MGMT

M3. THIS WAY TO HAPPINESS / GLENN FREY

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「UNDERSTANDING TO THE MAN / KOHARA」

M4. BACK TO DECEMBER / TAYLOR SWIFT

M5. REAL WORLD / MATCHBOX TWENTY

M6. WHAT A WONDERFUL WORLD / LOUIS ARMSTRONG

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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