2011年2月6日

アイサーチ・ジャパンが取り組んでいる
海の環境教育と、それを通じて感じてほしいこと

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、アイサーチ・ジャパン代表・大下英和さんです。

大下英和さん

 アイサーチ・ジャパン(正式名称:「国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター」)の「大下英和」さんは、イルカやクジラを題材にした環境教育活動などを行なっている団体の代表を務めていらっしゃる方です。
 今回はそんな大下さんに、海の環境学習のことや、ホエール・ウォッチングの現状などうかがいます。

 

アイサーチ・ジャパンに入ったキッカケは、
“ジャック・マイヨール”と“転職”!?

●今回のゲストは、「国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター」、通称・アイサーチ・ジャパンの代表、大下英和さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●まずお聴きしたいのは、アイサーチ・ジャパンは、どういった団体なんですか?

「アイサーチ・ジャパンは、『国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター』を英語で表した言葉の頭文字“ICERC”のことなんですけど、主にイルカやクジラに関する教育を行なっています。イルカやクジラはどのような生き物なのか、どこで暮らしていて、どんな生活をしているのかということを、大人から子供まで分かりやすく伝えることで、イルカやクジラ、海の環境に関心を持ってもらって、少しでも環境に優しく生活できる人を増やしていきたいという思いで活動しているボランティア団体です。」

●海の環境教育をされている方々のことをよく耳にするんですけど、アイサーチ・ジャパンでは、なぜイルカやクジラを題材にしているんですか?

「よく聞かれることなんですけど、イルカやクジラが好きな人が集まっているからなんです。イルカやクジラって、環境に対して、何かできることはないかと考えるキッカケになりやすい生き物なんですね。なぜかというと、みんなイルカやクジラが好きだからなんです。それから、イルカやクジラだからこそ伝えられることがあると思って、私たちは活動をしています。」

●そして、団体名に“国際”と付いているだけに、海外にたくさんの支部があるんですか?

「実は元々、オーストラリアで生まれた団体なんです。オーストラリアから始まり、日本やヨーロッパに、姉妹団体が存在した時期があったんですが、残念ながら、オーストラリアとヨーロッパが、やっていた方の都合があって、活動がストップしてしまいました。オーストラリアで生まれたアイサーチですが、残ったのは日本だけになりました。」

●大下さんは、なぜアイサーチに関わることになったんですか?

「元々は、海や自然に全く興味がなかったんですが、社会人になって間もないぐらいに、“グランブルー”という、ジャック・マイヨールというフリーダイバーを取り上げた映画を見て、なぜか突然『海だ! イルカだ!』と思い、ダイビングを始めたんです。
 ダイビングを始めてから間もないぐらいに、ダイビング関係の雑誌を見ていたら、アイサーチ・ジャパンが、ジャック・マイヨールを招いて、イベントをやるという記事が載っていたんです。そこで『行くしかない!』と思いました。それと当時、転職を考えていて、『ここに就職するしかない!』と思いまして、連絡をしたんです。すると、『残念ながら、うちはボランティア団体なので、就職はできません』と言われてしまったんですが、それをキッカケにして、ボランティアとして、活動に関わるようになりました。」

 

クジラが唄を歌う!?

●海の環境教育ですが、今は主に子供たちを対象としているんですか?

「そうですね。子供たちに限っているわけではないんですが、一番受け止めてくれやすく、関心を持ってもらいやすいのは子供たちなんです。2005年の“愛・地球博”にNPOとして出展させていただいたときに、『これからの時代を担っていく子供たちに、イルカやクジラ、海の環境のことなどを伝えたい』ということで、子供をターゲットにした環境教育プログラムを中心に取り組んでいます。」

●具体的には、どういったことをしているんですか?

「いきなり『イルカはこういう生き物で…』という感じで、難しい話をしてしまうと、イルカが好きな子供たちでも、なかなか興味を持ってもらえないので、まずは粘土を使って、一人一人にイルカを作ってもらうんです。軽量粘土というカラフルな粘土がありまして、それを使って、30〜40分ぐらいかけて、イルカを作ってもらいながら『何で、こういった形をしているんだろう?』、『尾びれはどっち向きについているのかな?』などのような話を通じて、イルカってどんな生き物で、どんな暮らしをしていて、彼らの海での生活と私たちの生活がどのように繋がっているのかということを伝えるということをしています。
 この海の環境教育プログラムのことを“粘土でイルカを作ろう”と呼んでいるんですけど、これを中心にしながら、会場の許可が下りれば、そこにイルカやクジラに関する色々な展示物を持っていって、それらも体験してもらっています。」

●初歩的な質問なんですが、イルカとクジラの形って、結構違うんですか?

「そうですね。粘土でイルカを作るプログラムと、クジラを作るプログラムがあるんですが、形や見た目は違いますね。形や見た目が違うので、別の生き物だと思っている方が結構いるんですけど、実は、生物学上でいうと、同じクジラという種類なんです。イルカという種類はないんです。同じ種類の生き物の中で、割と小さくて、なんとなく可愛らしいものに“イルカ”という名前が付いているだけで、すごく大きな“シロナガスクジラ”や、水族館などでよく見る“ハンドウイルカ”など、みんな同じ“クジラ”という生き物なんです。」

●他に、イルカとクジラの面白い生態ってあるんですか?

「子供たちに一番よくお話をするのが、“イルカはどこで息をするでしょう?”ということです。今の子供たちって、テレビで自然を取り上げる番組が多いせいか、よく知っていて、『頭の上!』と答えるんですけど、『その頭の上の穴は何?』って聞くと、みんな首を傾げるんですね。」

●そうですよね。口は別にありますからね。

「あれは何だと思いますか?」

●何でしょう? エラじゃないですよね?(笑)

「そう言っていただけると、私たちとしてはオイシイんですけど(笑)、実は鼻の穴なんです。イルカの祖先って、カバに似た生き物だったといわれていて、哺乳類なので、進化のために一旦陸に上がってきたんですが、なぜか海に還っていったんですね。海で暮らすときに、鼻が顔の前に付いていると、呼吸がしにくいので、進化の過程で、徐々に鼻が頭の上に動いていったんです。
 イルカの骨を見てみると、顔の前にあったのが、噴気孔というところまで、細長い骨で繋がっています。元々前にあった鼻の骨が伸びて、頭の上にまでいったんです。イルカのような、小さいクジラの仲間は、噴気孔は一つなんですけど、大きいクジラの仲間の噴気孔は、よく見ると、人間と同じように二つあるんです。なので、よく海で水しぶきを吹いているのは、潮を吹いているのではなくて、息をはいているんですね。」

●他に面白い生態ってありますか?

「クジラに関してですが、“クジラが唄を歌う”というのは聞いたことがありますか?」

●どこかで聞いたことがあります。

「イルカやクジラは、鳴き声でコミュニケーションを取るんですけど、沖縄や小笠原で見ることができるザトウクジラのオスは、ある時期になると、鳴き声によって差はあるんですけど、10〜15分ぐらいの、決まったフレーズの鳴き声を繰り返すんです。長いフレーズの繰り返しなので“ザトウクジラのソング”といわれているんですけど、何で鳴くと思いますか?」

●気分がいいんでしょうか?(笑)

「(笑)。ついこの前までは、ラブソングだといわれていたんです。」

●それはロマンチックですね!

「ついこの前までは、です。」

●あれ?(笑)

大下英和さん

「(笑)。メスのクジラを引き付けるために、オスが『僕のほうが唄が上手いだろ!』と競い合っていると思われていたんですが、2010年に欧米の研究者が調べたところ、メスを引き付けることと、ソングはあまり関係がないらしいという研究結果がでました。これもまた、イルカやクジラにある、たくさんの分からないことの一つだと思います。ラブソングだと思っていた方が、ロマンチックでよかったと思うんですが、何のために唄っているのか、今となってはまた分からないことなんです。」

 

野生のイルカやクジラを見た経験を大切にしてほしい

●アイサーチ・ジャパンさんの海の環境教育は、海にでて行なわれるプログラムもあるんですか?

「そうですね。例えば、千葉県の銚子から船がでていって、イルカやクジラを見ることができます。このように、北は北海道から、南は沖縄や小笠原まで、色々なところで野生のイルカやクジラが海で泳いでいる姿を見ることができるんです。」

●結構身近で見ることができるんですね。

「そうですね。とはいえ、それほど都会の近くでは見ることはできず、行くまでに時間がかかったりしてしまいますが、銚子や伊豆七島の一つの御蔵島など、東京や千葉県からでも簡単にいけるところもあります。ところが、銚子や、私たちが実際にプログラムを行なった高知県・黒潮町などの現地の子供たちがクジラを見たことがないということが結構多いんですね。」

●えー!? それはなぜですか!?

「あまりに身近すぎると、わざわざ船に乗って見にいこうという気分にならないんでしょうね。東京で生活をしている人が東京タワーにあまり登らないのと同じじゃないでしょうか。そこで、地元の子供たちや、都会に住んでいる子供たちを銚子や黒潮町の船に乗せて、イルカやクジラに会いに連れていきます。それと、先ほど話した、粘土でイルカを作って、イルカのことを詳しく知ってもらうプログラムとセットにして行ないます。さらに、銚子でやったことがあったんですけど、もし時間があったら『せっかくだから、今いるビーチをキレイにしてから帰ろう』ということで、浜辺の清掃もセットにして、1〜2日ぐらいのプログラムを各地でやっています。」

●実際に、野生のイルカやクジラを見たときの子供たちの反応ってどうなんですか?

「『危ないから乗り出すな!』といっても、ダメですね(笑)。興奮して前に乗り出していくんですよ。ちゃんと私たちも付いていますし、船長さんもいるので、安全管理はしっかりしているんですけど、みんな大喜びしながら、身を乗り出しながら見ていますね。
 黒潮町でやったときは、“ニタリクジラ”という大きなクジラと、“マイルカ”という、群れを作る小型のイルカに会いにいったんですけど、船を出したのに1〜2時間経っても会えなくて『せっかく子供たちが見にきてくれたのに、困ったなぁ。どうしようかな』と思っていたら、マイルカの群れと遭遇したんですね。船をルールの範囲内で近づいていったら、向こうから寄ってきて、船の周りを取り囲むように通っていったんですね。当時、船に同乗していた専門家に聞いたら『今のは、多分300頭ぐらいいましたね』と言ったんです。そのぐらいの量のイルカの群れに囲まれました。海にはイルカが飛び跳ねているし、子供は大騒ぎだし、大変でした(笑)」

●てんやわんやでしたね(笑)。そんなに感動的な場面に遭遇したら、子供たちも色々と感じることがあるんじゃないですか?

「そうですね。その後、陸に戻ってきて『どうでしたか? これからどうしていきたいですか?』と聞いたり、紙に書いてもらったりするんですけど、『これからも、イルカが生きている海を大事にしていきたい』と、素直に返ってきます。そういう思いを持ち続けていってほしいですね。ひょっとしたら、10年、20年経ったら、そのときのことを忘れてしまうことがあるかもしれないですが、ふと、海のことを考えたり、イルカやクジラのことに触れたときに、『そういえば、あのとき船に乗って、見たな。やっぱり大事にしていかないといけないな』と、思い出してくれれば嬉しいなと思いますね。」

 

今、私たちがイルカやクジラにできることは、“彼らに会うこと”

●一時期、ドルフィン・スイミングやホウェール・ウォッチングがとても人気になり、そのせいで大勢の人が押しかけて、色々な弊害があったということを聞いたんですけど、アイサーチ・ジャパンでは、そういったことに対して、何か取り組んでいらっしゃるんですか?

「一時期、ホウェール・ウォッチングがブームになり、各地に大勢の人が来て、船もたくさんでて、場合によっては、小さなイルカやクジラの群れに何艘の船が集まったりして、イルカやクジラにとって、よくない時期があったんですけど、オーストラリアのように、日本より前にドルフィン・スイミングやホウェール・ウォッチングが盛んだった国では、ルール作りがきちんとされていたんですね。日本は、そのあとに流行になったので、各地で、意識の高い方々が、それぞれの地域で自主的なルールを作って、そのルールの範囲内でドルフィン・スイミングやホウェール・ウォッチングを運営していこうと取り組んでいました。
 ルール作りは、各地でかなり進んでいまして、例えばイルカに関しては、“向こうから近づいてくる場合を除き、100メートルまで船を近づけていい”とか“子連れの群れには、○○メートルまで”とか“一つの群れに対して○艘まで”など、地域によって、それぞれルールが微妙に違うんですけど、イルカやクジラに影響を与えないようにウォッチングをするためのルールが定められています。」

●私たちがイルカやクジラを見るときに、気をつけないといけないことってありますか?

「まずは、そのルールに従って船首さんは船を操作しますので、『もっと近づいて!』などの無茶なことを言わないようにしてください。最初に必ず説明があるはずなので、それを守っていただきたいと思います。あくまで海は、私たちの場所ではなくて、イルカやクジラたちの場所なので、彼らの家にお邪魔をするという気持ちで船に乗ってもらえればと思います。自分の家に土足で上がりこまれているようなものなんで、そこに気をつけてくれればいいかと思います。
 あと、海なので、船首さんの言うことを聞かないと、危険なこともあります。なので、安全管理についても説明があるはずなので、それもしっかり守ってもらうことも大事です。あと、船酔い対策も大事ですね(笑)。せっかく、イルカやクジラが目の前にいても、船に酔っていると、楽しいことも楽しめないので、船酔い対策をしっかりしていただければと思います。」

●前日にお酒なんて呑んじゃいけませんね(笑)。

「あまりよくないですね(笑)。そういう暇があったら、イルカやクジラの勉強をしておくと、次の日にはもっと楽しめると思います。」

●では大下さん、最後に、この番組を聞いているリスナーの方に伝えたいことがあれば、お願いします。

「日本は海に囲まれていて、北海道から沖縄まで、色々なところで色々な種類のイルカやクジラに会うことができます。そして、各地なりに、地域の自然の魅力もそれぞれ違っています。是非、イルカやクジラに興味を持ったら、できるだけ野生のイルカやクジラを見てほしいですね。見にいってもらって、野生のイルカやクジラがどんな風に泳いでいるか、どんなところで生活をしているのか、周りの自然がどんな感じなのか、それを実際に海にでて、感じてほしいと思います。
 私たちが活動を始めた20年ぐらい前には、“エコ”という言葉はなかったし、“エコバッグ”もありませんでした。でも、今はそれが当たり前になっていますよね。みんなやろうとしているんですけど、その活動と周りの自然が、どう繋がっているのかというのが、断ち切れているように思うんです。

 実は、非常に残念なことなんですけど、死んでしまったイルカの中から、ビニール袋が見つかることが多々あります。そのビニール袋の多くは、海で捨てられたものじゃなく、陸で捨てられたものが、川に流れたり、風に飛ばされたりして、海にでていって、イルカやクジラが間違えて食べてしまうんですよ。そういう風に、残念な形でも、イルカやクジラと私たちの生活は繋がっているし、それ以外にも、大気の循環や水の循環で、私たちの生活と海は繋がっているので、それを感じてもらうためにも、一度でいいので、野生のイルカやクジラに会ってもらいたいと思います。」

●というわけで、今回のゲストは、「国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター」、通称・アイサーチ・ジャパンの代表、大下英和さんでした。ありがとうございました。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 大下さんのおっしゃっていた「周りの自然とどう繋がっているか」を考えるのは、とても大切な事ですよね。そして、その事を考えるキッカケに、イルカやクジラを知るのがとても良い方法だと、今回知る事が出来ました。
 イルカやクジラには、まだまだ知らない生態がたくさんあるそうなので、ぜひもっとイルカやクジラの事を勉強して、野生のイルカやクジラも見に行きたいです!

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アイサーチ・ジャパン情報
 アイサーチ・ジャパンでは随時、会員を募集しています。会員になると、「フリッパー」という会報誌が年4回送られてくる他、エコグッズのプレゼントなどもあります。
 また、アイサーチ・ジャパンでは現在、活動をお手伝いしてくれるボランティアを募集中です。活動の趣旨にご賛同いただけるかたは、ぜひお願いします。
 入会など詳しくは、アイサーチ・ジャパンのホームページをご覧ください。

 年会費:正会員・1万円、賛助会員・5千円、法人・ショップ会員・一口3万円です。

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1. THE PROMISE (THE DOLPHING SONG) / OLIVIA NEWTON-JOHN

M2. DEEP BLUE SEA featuring ANGGUN / DEEP FOREST

M3. THIS AIN'T A LOVE SONG / BON JOVI

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「UNDERSTANDING TO THE MAN / KOHARA」

M4. ALL GOD'S CHILDREN / BELINDA CARLISLE

M5.  NIGHTSWEMMING / R.E.M.

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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