2011年3月27日

写真家・野村哲也さんが語る、
パタゴニアの素晴らしい自然の魅力

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、野村哲也さんです。

野村哲也さん

 地球の息吹をテーマに写真を撮り続ける新進気鋭の写真家・野村哲也さんは先頃、中公新書シリーズの一冊として『パタゴニアを行く〜世界でもっとも美しい大地』という新書を出版されています。
 今回はそんな野村さんに、私たち日本人が知っていそうで意外に知らない、南米パタゴニアの多様な魅力について語っていただきます。

 

まだまだ謎が多い“パタゴニア”

●今回のゲストは、先日、南米パタゴニアについて書いた本「パタゴニアを行く〜世界でもっとも美しい大地」を出版した野村哲也さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●パタゴニアって、私たちにとっては、アウトドア・メーカーというイメージが強いんですけど、パタゴニアは地域の総称なんですよね?

「そうですね。パタゴニアというのは、チリとアルゼンチンにまたがる南緯40度より南の地域のことをいいます。」

●ということは、広範囲なんですね。

「南米大陸の一番下の部分なんです。」

●一番下のエリア全部をパタゴニアというんですね。

「その中で、南緯40度より下の部分なので、尻尾みたいなところだけの範囲なので、それほど広くはないんです。」

●パタゴニアの語源は何ですか?

「パタゴニアの語源は未だにはっきりとしたものが分かっていないんですが、諸説では、ビーグル号に乗ってきた人たちがパタゴニアに訪れたときに、ある現地民と出会ったんですね。ですが、最初はその姿を見たのではなくて、砂浜に足跡が残っていたんですけど、その足跡がものすごく大きくて、今でいうと、32〜33センチぐらいある、雪男の足のような足跡が残っていたんです。そこから、パタゴニアの“パタ”というのは、スペイン語で“足”という意味で、“ゴ”というのは、グランデという言葉から由来しているのか、“大きい”っていう意味なんですね。そこから“大きな足の民族が住むところ”ということで“パタゴニア”という名前になったといわれているんですが、それも諸説の一つで、他にも色々な諸説があるので、『これだ!』というはっきりとした語源が分からないんですね。
 先ほど話した“大きな足の民族が住むところ”ということも、種明かしをしてしまうと、実はウサギとか、グアナコなどが作った靴を履いていたから、足跡が大きくなるんですよね。実際はそれほど大きくはなかったんですけど、今でも“大きな足の民族が住むところ”という説が残っています。」

●ちなみに、ビーグル号というのは、どういうものなんですか?

「ビーグル号というのは、ガラパゴス諸島で進化論を説いたダーウィンを乗せて、イギリスからマゼラン艦長と共に、南米を旅する船のお話があるんですけど、そのときの話の中で、パタゴニアの原住民に会ったというのが、ヨーロッパの人たちの中では初めてのことなんですね。」

●探検家が初めてパタゴニアに降り立ったときに、すごく大きな足跡があって、「これは私たちが出会ったことのない民族が住んでいるんじゃないか」ということで、そういう名前を付けたのかもしれないんですね。

「そうですね。でも、その頃のスペインの男性探検家たちの平均身長が155センチぐらいで、背が小さいんですよ。それに比べて、パタゴニアの原住民は180〜190センチぐらいあったんです。なので、身長差もあったんですけど、原住民が毛皮の靴を履いていたので、余計に足跡が大きくなったのではないかと思いますね(笑)」

●(笑)。発見した人たちは怖かったんじゃないでしょうか。

「怖かったと思いますね。」

●パタゴニアの気候はどうなんですか?

「パタゴニアは“風の大地”と言われているように、ものすごく風が強いんですが、風が吹きやすいところと、吹きにくいところがあるんですね。パタゴニア地区の中でも、南部の方は風が強いです。でも、僕が住んでいた北部の方は、風はほとんどなくて、日本と同じように四季があって、緑があるというようなところもあります。逆に、色々なパタゴニアに関する本で書かれているように、アルゼンチンの南の方ではステップ地形のように、灌木とか、小さな草木が生えているだけの、だだっ広い平原になっているという場所もありますね。」

●パタゴニアと一口に言っても、場所によって気候も地形も違うんですね。

「全然違うと思います!」

●それもまたパタゴニアの魅力だったりするんですか?

「そうですね。パタゴニアの紹介というと、南部の方に“氷河国立公園”があって、そこの氷河が崩れるところが見られるというところが、どうしてもクローズアップされるんですね。ですが、パタゴニアというのは、北部・中部・南部と色々な場所があるので、それを少しでも紹介できればと思って、今回の本を出版しました。」

 

野村さん、食べ物で奮闘!

●野村さんは、パタゴニアのどの辺りに住んでいたんですか?

「パタゴニアには、北部・中部・南部に分かれているんですけど、僕が住んでいたのは、四季がはっきりしていて、日本の東北ぐらいの寒さで、気候的に一番日本に似ている、首都のサンティアゴから南に約1000キロ行ったところに住んでいました。そこからさらに南に約1000キロ行くと、南米の最南端ぐらいになりますね。」

●パタゴニアの中では、比較的住みやすい地域なんですか?

「そうですね。もちろん日本人はほとんど住んでいないんですけど、住みやすいと思います。パタゴニアだと普段乾燥してしまうので、特に女性だと肌がパリパリになってしまうと思うので、スキンケアが大変な場所だと思いますが、僕が住んでいたのは森の中だったので、湿度がタップリあって、屋久島にいるような気持ちになる場所でしたね。なので、パタゴニアの中でも、風が強いところがあれば、風が全然強くないところもあるので、一概には言えないというのが、一番の感想です。」

●逆に、住んでいて困ったことってありましたか?

「ありましたね! 森の入り口から8キロぐらい行ったところにあるログキャビンに住んでいたので、隣人がいないんですよね。出てくるのはキツネとか、ウマ、キツツキ、ウサギなどの野生動物ばかりなんですね。それはそれで楽しかったんですけど、なにより一番困ったのは、僕は食いしん坊なので、食べ物でした。チリは南米の中でも一番甘党の国なんですよ。実は僕、甘いものがすごく苦手なんですよ。でも、向こうは、なんでもマヨネーズやケチャップをかけたりする料理ばかりなんですね。なので、食べ物を自分で作るしかないんですね。住み始めた頃に、レストランなどで外食をしても、美味しく感じなかったんです。それが最初の頃は辛かったことでした。

野村哲也さん
 あと、僕は納豆がすごく好きなんですけど、パタゴニアには納豆がないので、食べられないという状況になってしまったんですね。でも、よく考えたら、納豆って大豆なので、大豆は向こうでは作っているんですよね。そこで『納豆菌さえあれば、納豆が作れるだろう』と思って、日本から粉末の納豆菌を送ってもらって、作ってみたんです。すると、意外に作れたんですよ。殺菌さえちゃんとすれば、後は納豆菌が自然に働いて、大豆を納豆にしてくれるので、納豆が食べたいときは、毎回作っていました。納豆を作ってみてビックリしたんですけど、出来たての納豆って粘りが強いんですけど、全然美味しくないんですよ。その出来たての納豆を冷凍庫に入れて、一晩置くと、味が引き締まるのか分からないですけど、美味しくなるんですよね。」

●多分、パタゴニアで納豆を作っていたのは、野村さんだけだったんじゃないでしょうか(笑)。

「そうかもしれないですね(笑)」

 

マチュピチュは10年後のパタゴニア!?

●パタゴニアの中で、オススメの景色があれば教えていただけますか?

「パタゴニアの凄いところは、標高500メートルぐらいの低いところで、ヒマラヤなどで見られる5000〜6000メートル級の風景を見ることができるところだと思います。なので、高山病にかからなくても、素晴らしい風景を見ることができるんですね。南部には、毎日約2メートルずつ前進している氷河があって、夏になると必ず崩落するんですね。その崩落する音が雷のような音なんですけど、その氷河のグレーシャブルーに誰もが吸い込まれてしまうんですね。
 あるとき、ペリトモレノ氷河という、世界遺産にもなっているところがあるんですけど、15年前は木道しかなくて、かなり下の方まで降りていけたのが、道路がどんどん整備されていって、『どんどん面白くなくなってしまうのかな』と思っていたら、最近では道がバリアフリーになって、第一展望台までがバリアフリーの道になったんです。それによって、ここ2、3年の間に車椅子で観にきている人が多く見られるようになったんですね。そこでトニーという車椅子に乗ったアメリカ人に出会ったんですけど、彼がその氷河の色に吸い込まれるんですね。『本当に、あの色に吸い込まれちゃうよね』って話したら『きっと、この氷河の青色は、僕たちの命の源の色なんだろう。命の原色は、きっとこんな青色なんだよ。だから僕たちは、無条件で青色を見ると言葉を失って、吸い込まれてしまうんじゃないか』って言ったんです。それを聞いて、なるほどと思いましたね(笑)」

●それは見てみたいです!

「本当にパタゴニアは美しいところですし、それを見るのに、アルゼンチンは地球上で日本の真裏になるので、行くにはすごく遠いですけど、大冒険をするわけではないので、観に行ってほしいと思います。
 今から10年前に、ペルーにあるインカの“マチュピチュ”というところを、どのぐらいの人が知っていただろうと思ったんですが、そのマチュピチュを、今はどのぐらいの人が知っているだろうかというと、“日本人が行ってみたい世界遺産”の第1位なんです。だから、今ではほとんどの人が知っているんですよね。それはなぜかというと、観光客がマチュピチュに集まってきて、それでマスコミが来るようになって、どんどんテレビで放送されるようになって、本も出るようになるというようなことになったことで、“マチュピチュがインカの都”だということが認知されるようになったんですね。その10年前のマチュピチュと同じようなことが今のパタゴニアで起こっていて、僕がそうなってほしいという想いがあるんですけど、多分10年後には、パタゴニアという言葉が、アウトドア・メーカーではなく、その地域名を当たり前に知っている時代が来るんじゃないかと思うぐらい、世界中の風景が詰まっていると思っているんですね。パタゴニアには、そのぐらいの多様性と圧倒的な自然が広がっています。」

 

パタゴニアに行けば、その人のパタゴニアが生まれる

●野村さんにとって、印象に残っている風景、思わずシャッターが押したくなった風景ってありますか?

「ありますね。南部の方なんですけど、アルゼンチンの最も有名な山でフィッツロイという山が、チリの方にパイネという山があるんですけど、それらの山が朝焼けに染まると『神様が降りているんじゃないか』と感じずにはいられないですね。 パタゴニアって南部の方に行けば行くほど風が強くなっていくんですけど、フィッツロイの真下にロス・トレス湖という湖があるんですね。その池を実際に見ると、すごく完璧なシチュエーションなんですけど、日本や現地にあるパタゴニアに関する本を読んでも、湖に山が写り込むという写真がないんですよ。なぜ、それだけ完璧なところに湖があるのに、山が写っている写真がないのかと、国立公園の常駐しているレンジャーに聞いたら『そんなのは無理だ!』って言うんですね。『なんで?』って聞いたら、『365日強風が吹いているからだ』って言うんですね。風が波を作ってしまうので、どうしても山が写らないみたいなんですね。

 でも、一年の中で、ほんの少しだけでもあるんじゃないかと思っていたんですね。パタゴニアに住み始めてから初めての夏に行ったときに、なんかいいイメージがして、そこでまっていたんですけど、少しずつ風がおさまってきて、湖の波紋が、湖の奥に行くような状態になってきたんです。『これはひょっとして風が止まるかもしれないな』と思っていたんですけど、実際にほんの数秒ですけど、ピタっと風が止まってくれて、鏡のように山が湖に写った風景が出てきたんですけど、そのとき僕は震えてしまって、『こんな貴重なときに手元がブレてしまうかもしれない』と思いながら撮った写真があるんですけど、その写真を撮った後、あるところで講演をしたら、ある人から『野村さん、その写真、気づいていますか?』って聞かれたんですね。『え? 何が?』って聞き返したら『写真の真ん中辺りに、神様みたいなのが写ってますよ』って教えてくれて、それで写真をよく見てみたんですね。その写真は山が上下に写っている写真なんですけど、真ん中に仁王様が寝ているみたいに見えるんですよ!」

●本当ですか!?

「僕は仁王様に見えたんですけど、他の人が見たら、それがポセイドンに見えたりするんですね。」

●本当ですね! 今回の本の中に掲載されている一枚の写真なんですけど、確かに大仏様のようなものに見えますね!

「下の方まで合わせてみると、ポセイドンに見えたりするんですよね。」

●これは是非、本を買っていただいて確認していただきたいですね!

「僕はそれを撮っているときは、ただ震えているだけだったので、全く気づかなかったです。でも、もし目に見えないものがあるとしたら、そのときに神様が降りていたんじゃないかって思うんですね。そういう体験もありました。」

●まさに、パタゴニアに住んでいたからこそ、撮れた奇跡の一枚の写真ですね。

「住んでみてよかったなと思ったのは、住む前のパタゴニアの自然って、すごくキレイなんですけど、原始の自然が残っているので、尖ったナイフのような感じで、なかなか近づかせてもらえなかったんですね。でも、実際に住んでみたら、それまで何回も通ってもダメだったところも、写真を撮れたりしたんです。そういうことがすごく多くて、今まで撮ることができなかったところが、僕がパタゴニアに住んでから、まるで扉を開けてくれたように、パタゴニアの自然が見ることができたという感じをすごく受けたんですね。

野村哲也さん
 おこがましいですが、15年間僕の心を捉え続けてきた、すごくキレイな自然を見せてくれたパタゴニアに、どうやったら恩返しみたいなことができないかと思ったときに、パタゴニアってまだ南部の一部分しかクローズアップされていないので、それだけじゃなくて、『パタゴニアってクジラがいたり、ペンギンがいたり、スカンクがいたりと、多様なパタゴニアがあるんだ』ということを、広く深く紹介できればいいんですが、紙面の都合もあるので、広く浅くなってしまうんですけど、それでも見てほしいなという想いがあって、今回の本という形で出版させていただきました。 本当にパタゴニアに行っていただければ、その人だけのパタゴニアが生まれてくるので、僕が見ているパタゴニアだけじゃなくて、また素敵な出会いと素敵な自然が出迎えてくれると思うので、是非ともパタゴニアには行っていただきたいと思います。」

●というわけで、今回のゲストは、先日、南米パタゴニアについて書いた本「パタゴニアを行く〜世界でもっとも美しい大地」を出版した野村哲也さんでした。ありがとうございました。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 インタビューの後、野村さんがパタゴニアに住んでみて、日本は本当に物がたくさんあって、選ぶ自由がある事に気がついたとおっしゃっていました。確かに、私も今この言葉の意味を実感しています。
 野村さんのお話し、そして今回の震災を経て、これからはもっと色々な事に感謝しながら生きていかなければいけないなと改めて思いました。

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野村哲也さん情報

「パタゴニアを行く 世界でもっとも美しい大地」

新刊「パタゴニアを行く 世界でもっとも美しい大地
中央公論新社/定価:987円
 今回の野村哲也さんのお話で、南米パタゴニアに行ってみたい、もっと知りたいと思った方は、ぜひ野村さんの新刊を読んでください。
 多様性に富んだパタゴニアの自然や環境はもちろん、風土や文化、食など、幅広い視点で書かれたパタゴニア百科の決定版です。
 

公式ホームページ
 野村さんの公式ホームページも要チェックです。これまで出版した本の一覧や、数多くある野生動物の写真の一部を掲載したギャラリーや、野村さんのブログもあるのでぜひ見てください。

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1. GO YOUR OWN WAY / FLEETWOOD MAC

M2. DUST IN THE WIND / KANSAS

M3. CRAZY / AEROSMITH

M4. HERO / MARIAH CAREY

M5. IT'S A BEAUTIFUL THING / OCEAN COLOUR SCENE

M6. FAR AWAY / NICKELBACK

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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