日本語にみるアイヌ語

2000年・秋 放送

 北海道には「ノサップ・ミサキ」「ソウウンキョウ」「ソウヤ・ミサキ」「トウヤコ」「ワッカナイ」「ノボリベツ」といったアイヌ語を語源とする地名が多く残されています。そしてそれぞれの言葉は、アイヌの人たちの自然観に基づいた、その場所にちなむ深い意味を持っているんですね。
 例えば「ノサップ・ミサキ」の「ノ」は「岬」、「ソウウンキョウ」や「ソウヤ・ミサキ」の「ソ」は「滝」、「トウヤコ」の「ヤ」は「岸」を指しています。
 また、アイヌ語の「川」には「ベツ」と「ナイ」の2種類あり、「ベツ」は水かさが増すとすぐに氾濫してしまう危険な川、「ナイ」は岸がしっかりしていて、洪水に強い川を現わしています。つまり、「ノボリベツ」や「石狩川」の古い言い方である「イシカリベツ」という名前は、それらの川が、洪水の危険をはらんでいるという意味が込められたもの。
 一方、アイヌ語では「水」にも「ワッカ」と「ベ」という2種類あり、「ワッカ」は飲める水、「ベ」は飲めない水を指しています。ですから、「ワッカナイ」という地名には“川の水を飲んでも大丈夫な上、洪水の恐れもなく、川のそばに暮らしても安全な場所”という意味が込められているんですね。
 こうして、人が生きていく上で不可欠な自然界の様々な要素を言葉として上手に組み合わせて利用したアイヌの人々。これらの言葉は、人間主体に物事を考え、自然を都合よくねじ曲げてしまうのではなく、あくまで、自然に溶け込み、自然と調和して暮らす彼らならではの知恵から生まれたものといえそうです。

閉じる